語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】野口悠紀雄の、財政再建のポイント/社会保障の抜本的見直し

2011年01月15日 | ●野口悠紀雄
(1)財政問題とは社会保障の問題
 財政問題とは、社会保障(なかんずく年金)の問題だ。国民生活の基幹に係る問題だ。個人の立場から見ると、年金受給権がいまや多くの家計が持つ最大の資産である。これをどうするか。
 消費税率引き上げは課題の一部でしかない。消費税率を数パーセント引き上げただけでは、解決にはほど遠い。問題はもっと広く、もっと複雑で、もっと困難だ。

 第一、社会保障給付を賄う財源として、国費は一部でしかない。国税は23.1%でしかない(2008年度)。他方、社会保険料は56.6%だ。また、国のみならず地方も社会保障給付を賄う財源を負担するから、国の一般会計だけに注目すると問題の全体像を見失う。

 第二、話を国の一般会計に絞っても、社会保障の本当の比重は表面的に見るより大きい。なぜなら、過去の社会保障費を税で賄いきれなかった分が、現在の国債費に含まれているからだ。消費税を引き上げたところで、過去の債務が減るわけではない。さらに、地方負担分の一部を賄うために、地方交付税交付金が支出されている。

 2009年度の一般会計歳出のうち、社会保障関係費は27.5%だ。全体の19.8%を占める国債費のうちの「あと払い」分や、全体の16.2%を占める地方交付税交付金のうちの間接的な社会保障費を2割と見なすと、7.2%になる。したがって、「広義の」社会保障関係費は、一般会計の34.7%を占めることになる。つまり、一般会計の3分の1以上は、社会保障費に充てられているのだ。

(2)検討が必要な事項
 第一、社会保障制度がカバーするべき範囲。
 第二、公的セクターで行う場合の財源としての税と保険料の分担。

 つまり、問題の根本は、高齢化の進展によって社会保障費が自動的に増加することなのだが、第一に公的セクターがカバーすべき範囲を再検討し、第二に財源の裏付けをはっきりさせなければならない。
 この2つは、関連はしているが、概念的には別の問題である。

 一般には、主として第二点について議論されている。現在の制度を所与として、その維持に必要な財源をいかに調達すべきかが問題とされている。
 しかし、その前に、第一点に係る議論が必要だ。
 第一点は、「税・保険料という形で負担するか、それとも自己負担なのか」ということだ。換言すれば、「国や地方公共団体が行うべきことか、それとも民営化できるのか。あるいは個人で対処すべきことなのか」ということだ。
 日本の社会保障制度の中には、この点に関する十分な議論を経ずに導入されたものが多い。財政的余裕のあった石油ショック以前の時代に、あまり深い検討なしに、「先進国で行われているから」というだけの理由で導入された制度が多い。そして、導入後に客観条件が大きく変わったにも関わらず、惰性と既得権のために、そのまま継続しているものが多い。
 社会保障制度を見直すならば、議論は第一点からスタートさせなければならない。

(3)公的施策としてカバーすべき範囲
 (2)の第一点について、今の社会保障制度は今後も公的サービスとし続けるべきかどうか、疑問がある。その理由は、次のとおり。

 第一、受益者がはっきりしているので、原理的には料金徴収が可能である。司法、防衛、警察、一般行政などのサービスに対しては、料金を徴収しようとしても難しいから、公共主体がサービス供給主体にならざるをえない。社会保障関連のサービスは、これらとは大きく異なる。
 原理的には民間の保険でもできる。実際、年金、医療、介護のどれに対しても、民間の保険が存在する。したがって、現在社会保険として行われていることを、民間保険に任すことは十分考えられる。また、自助努力に任せるべき側面もある。
 第二、「外部経済効果」がほとんどないので、公的な補助を与える必然性はない。教育(とくに初等教育)は、教育を受けた以外の人もメリットを得る(つまり「外部経済効果」がある)ため、公費で一部を賄うことが正当化される。しかし、社会保障に対しては、こうした正当化をしにくい。
 第三、所得再配分機能を果たしているかどうか、疑問がある。とくに年金保険料は、定額か頭打ちであるため、高額所得者にむしろ有利な仕組みになっている。したがって、公的保険の保険料として徴収することを正当化しがたい。

 具体的な問題の性質は、福祉(介護など)、年金、医療の各々で、かなり異なる。
 (ア)介護
 民営化の可能性と必要性が最も高い。とくに、医療行為を含まないサービスは、規制を緩和すべきだ。規制緩和によって、介護担当者の賃金を引き上げ、サービスの供給量を増大させるべきだ。他の制度に比べれば、制度発足後それほど年月が経っていないので、見直しの可能性が高い。

(イ)年金
 本来は公的年金の役割について見直しが必要だ。具体的には、給付の削減(自助努力)と民営化だ。
 しかし、年金は長期にわたる制度だから、過去の約束に縛られる。原理原則だけを考えて、白紙に描くわけにはいかない。例えば、民営化するには、財政方式を積立方式にする必要があるが、そのためには、これまで払い込まれた保険料を清算しなければならない。しかし、それは不可能だ。積立金が不足しているからだ。
 また、全額税方式といっても、すでに保険料を何十年にもわたって徴収している。そうした経緯をご破算にして、保険料を納入済みの人と未納の人とを同一に扱うことはできない。
 そもそも、給付の見直しを行うことさえ、財産権の侵害とみなされるおそれがある。

(ウ)医療
 給付の対象を見直す必要がある。現在の医療保険は風邪のような軽症にも給付する仕組みになっている。これを改める必要がある。
 他方、差額ベッドや高額の医療費をどう扱うかが問題だ。

【参考】野口悠紀雄「財政と社会保障の抜本的見直しで、何を検討すべきか」(人口減少の経済学第13回、ダイヤモンド・オンライン)
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