佐藤優の処女作は『国家の罠:外務省のラスプーチンと呼ばれて』 (新潮社、2005年3月)だが、その後の全ての萌芽があるという点では、第三作『自壊する帝国』(新潮社、2006年5月/後に新潮文庫、2008年10月)が処女作の名にふさわしい。
例えば、インテリジェンスにおける情報操作について次のような記述がある。
<私は以前から引っ掛かっていたメドベージェフやフルシチョフから聞いたシュワルナッゼ辞任の真相についてもアルクスニスの見方を聞いた。
「マサル、それは実に面白い話だ。メドベージェフの言ったシュワルナッゼの腐敗、汚職は事実だよ。しかし、それは辞任の理由の二%にもなっていないだろう。シュワルナッゼは共産党には独裁を実現したくても、それを実現する力がないことが判っていた。そんな冒険をすれば、国民の力で自分たちが権力の座から引きずり降ろされ、殺されかねないことをわかっていた。だからゴルバチョフに本気で警告したんだ。
ただ、面白いのはメドベージェフがあなたにした話だ。セルゲイ・フルシチョフの見立て通り、この情報源がKGBであることは間違いない。典型的なKGBの情報操作だよ。あいつらは嘘は言わない。ただし、二%しかない要因を誇張し、あたかもそれが真相の九割くらいと相手に信じ込ませる。典型的な手口だよ」
本物の情報操作とはそういうものだ。嘘に基づくのではなく、部分的事実を誇張して、相手側に間違えた評価をさせるのである。そして、このことは、私が情報戦の現場でロシア人から学んだ貴重な財産になった。>
□佐藤優『自壊する帝国』(新潮社、2006/後に新潮文庫、2008)の「第5章 反逆者たち」の「メドベージェフの“情報操作”」から一部引用
例えば、インテリジェンスにおける情報操作について次のような記述がある。
<私は以前から引っ掛かっていたメドベージェフやフルシチョフから聞いたシュワルナッゼ辞任の真相についてもアルクスニスの見方を聞いた。
「マサル、それは実に面白い話だ。メドベージェフの言ったシュワルナッゼの腐敗、汚職は事実だよ。しかし、それは辞任の理由の二%にもなっていないだろう。シュワルナッゼは共産党には独裁を実現したくても、それを実現する力がないことが判っていた。そんな冒険をすれば、国民の力で自分たちが権力の座から引きずり降ろされ、殺されかねないことをわかっていた。だからゴルバチョフに本気で警告したんだ。
ただ、面白いのはメドベージェフがあなたにした話だ。セルゲイ・フルシチョフの見立て通り、この情報源がKGBであることは間違いない。典型的なKGBの情報操作だよ。あいつらは嘘は言わない。ただし、二%しかない要因を誇張し、あたかもそれが真相の九割くらいと相手に信じ込ませる。典型的な手口だよ」
本物の情報操作とはそういうものだ。嘘に基づくのではなく、部分的事実を誇張して、相手側に間違えた評価をさせるのである。そして、このことは、私が情報戦の現場でロシア人から学んだ貴重な財産になった。>
□佐藤優『自壊する帝国』(新潮社、2006/後に新潮文庫、2008)の「第5章 反逆者たち」の「メドベージェフの“情報操作”」から一部引用