語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】情報収集のコツ ~インテリジェンス~

2018年09月14日 | ●佐藤優
 ソ連共産党中央委員会やロシア共産党中央委員会の幹部たちとの人脈をつくる中で、特にブラジスラフ・シュベードとは、佐藤優と波長が合った。彼は、リトアニア共産党第二書記で、リトアニア情勢が緊迫化してきた1990年夏、面識を得た。身長175センチ程、四角張った顔をしている。強度の近視で牛乳瓶の底のような黒縁眼鏡をかけ、無口な気むずかしい学者のようなこの男はリトアニア共産党でも恐られる存在だった。シュベードは、ソ連共産党中央委員でもあったので、モスクワにも時々出張でやって来た。

 <また「オクチャーブリ第一ホテル」には小さな書籍のキオスクがあるのだが、ここが情報の宝庫だった。最初、私はこの売店に関心を示さなかったが、あるときシュベードが、電話帳を指差して、「マサル、これは手に入れておいた方がいい」と教えてくれた。それは、クレムリン、ソ連共産党中央委員会、ソ連政府、ソ連最高会議の執務用電話帳だった。部内用ではなく一応値段がついている。
 ソ連時代、要人の連絡先に関する情報を入手するのは至難の業だった。電話帳を一般書店で購入することは不可能で、電報電話局にも備え付けられていなかった。このキオスクで入手した電話帳をもとに私は日本のジャーナリストや他国の外交官に対してソ連要人の連絡先に関する情報を提供したが、これはたいへん感謝された。多くの人に「なぜ佐藤は表に出ていない要人の連絡先を知っているのだろうか」と不思議に思われたが、種明かしは簡単で、電話帳を持っていたからである。
 さらにこのキオスクでは、モスクワの小さな通りの名称まで正確に記された地図も販売されていた。ソ連時代、モスクワの地図はKGB施設や軍事産業関連施設を隠していたので、どれも曖昧だったが、ソ連共産党中央委員会やソ連政府に勤務する運転手が使用するための正確な地図をこの売店では購入することができた。
 秘密文書ではないが、一般に広く公開されていない文書が情報収集の上で役立つことを私はシュベードから教えられた。>

□佐藤優『自壊する帝国』(新潮社、2006/後に新潮文庫、2008)の「第七章 終わりの始まり」の「良心派党官僚の苦悩」から一部引用

 【参考】
【佐藤優】情報操作 ~インテリジェンス~

 


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