語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】の書評 ~知を磨く読書~

2014年02月10日 | ●佐藤優
●藤原智美『ネットで「つながる」ことの耐えられない軽さ』(文藝春秋、2014.1.28)
 反知性主義が横行するネット社会の本質

 インターネットで情報へのアクセスが容易になっているにもかかわらず反知性主義が横行する現状について深く考察している。話し言葉は話し手に有利で、文は読み手に有利だという指摘にはっとさせられた。<書かれた文章を行きつもどりつしながらも、自分の時間、リズムで内容を把握すること>によって、真の教養が身につくのだと思う。
 具体的なエピソードでは、懲戒免職処分を受けた高校教師の処分取り消し裁判を当時高校生だった著者が傍聴したときの話が面白い。処分理由の一つがこの教師が公費で不適切な書籍を購入したことだった。<検事はどうしたことか、その書籍名を「ハーゲル」全集と述べたのです。(中略)検事が手にした紙に目を落としたまま「ハーゲル」全集と二度、三度声にだすうちに、隣で傍聴していた同級生がぼくの横腹をつつき苦笑している>。
 司法試験、国家公務員試験に合格する能力と教養力はまったく別のカテゴリーに属する。

□佐藤優「知を磨く読書 第38回」(「週刊ダイヤモンド」2014年2月15日号)

   

    *

●歳川隆雄『安倍政権 365日の激闘』(東洋経済新報社、2014.1.17)
 安倍政権の死角は「驕り」

 歳川隆雄氏は、永田町(政界)、霞が関(官界)を継続的にウオッチしているプロ中のプロだ。在京外交団も歳川氏の情報と分析に一目置いている。日本政治に関する考現学として本書は優れている。
 政治情勢の分析で、神も悪魔も細部に宿るのであるが、去年10月27日の川崎市長選挙で自民、公明、民主党推薦候補が敗北したことに関する歳川氏の考察が鋭い。
 <特に、管官房長官のお膝元である川崎市長選敗北は、自民党選挙対策委員会(川村建夫委員長)調査でも同党支持層の僅か20%しか自民、公明両党公認候補に投票しなかったからだという。公務員制度改革を唱えてきた管官房長官が総務省OBの元市財政局長を擁立したのだ。/やはり安倍政権の死角は、あるとすればだが、「驕り」ではないか>
 安倍政権の「驕り」は、内政だけではなく、首相と閣僚の靖国神社参拝でも可視化された。安倍政権を等身大で見る目を本書が養ってくれる。

□佐藤優「知を磨く読書 第36回」(「週刊ダイヤモンド」2014年2月1日号)

      

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●松田美智子『サムライ 評伝 三船敏郎』(文藝春秋、2014.1.8)
 やり尽くしたパートナーとは上手に疎遠に

 三船敏郎は、「七人のサムライ」「羅生門」などの黒澤明監督映画、また、チャールズ・ブロンソン、アラン・ドロンと共演した「レッド・サン」などで国際的に有名な俳優だが、その生涯については、ほとんど知られていない。本書は、丹念な文献解読とインタビュー取材によって、三船の全体像を描くことに成功している。文章もわかりやすく、構成もよくこなれた模範的な第三者ノンフィクションだ。
 黒澤と三船の微妙な関係についての以下の記述が印象的だ。<黒澤本人は、マスコミから不仲説について聞かれるたびに「別に三船君とけんかしたわけじゃありませんよ。ただ、三船君とやれることは全部やってしまったので、もう、やれることがないんですよ」と答えている>。
 仕事のパートナーとの関係では、「やれることは全部やってしまったので、もう、やれることがない」という状況が必ず訪れる。そのとき、上手に疎遠な関係になるのもプロの技法だ。

□佐藤優「知を磨く読書 第38回」(「週刊ダイヤモンド」2014年1月25日号)

   


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