語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】一昔前なら火あぶりにされる異端思想を説教する現代日本の牧師 ~グノーシス~

2018年07月16日 | ●佐藤優
 <いずれにせよ、解決できない問題というのは出てきます。それは実証主義の枠を超えてしまう問題です。それは、史的イエスの探究から出てきました。客観主義や実証主義の方法を用いて、イエスという男がいつ生まれて、どこで何をやったかということを確定しておこうという試みです。
 イエスに関しては、生まれたときの話は山ほどあります。しかし、12歳で宮参りするまでの話が欠けている。そこで、その間を埋めるための「イエスの幼年物語」という偽典、偽りの聖書が出てきます。すごい内容なので紹介しましょう。
 (中略)【注】
 このような話を集めたのが、「イエスの幼年物語」という偽書です。
 この偽書ができた当時は、グノーシスという神秘教団がありました。キリスト教にも影響を与えていますし、ストア思想にも影響を与えています。そのグノーシス思想が入ってきてつくられた全知全能のイエス像が、これらの話にも出て来るイエスです。本来のキリスト教とは関係ないということで、いまの聖書からは弾(はじ)かれています。
 しかし、グノーシスのようなものは、いまでもあります。一昔前なら火あぶりにされるような説教をしている牧師はいくらでもいます。以前、ある人の葬式に行ったら驚きました。そこの牧師が、何とかさんが亡くなって、ようやく肉体の苦しみからこの人は解放され、魂は天国に上がっていきましたなどと言っていたのです。これはグノーシスです。
 キリスト教では、肉体も滅びれば、魂も滅びます。魂だけが生き残って清いという思想はありません。説教を聞きながら、この牧師は300年前だったら異端として火あぶりになったはずで、いまの時代でよかったなあと思ったものです。>

 【注】荒井献・編『新約聖書外典』(講談社文芸文庫、1997)pp.43-46

□佐藤優『「日本」論 --東西の“革命児”から考える』(KADOKAWA、2018)の「第一講 東と西の革命児」の「「イエスの幼年物語」という偽書」を引用

 【参考】
【佐藤優】プロテスタントにおける地獄の軽視 ~「悪」の軽視~
【佐藤優】宗教は似ているところほど、どこも面倒である
【佐藤優】映画『沈黙-サイレンス-』をプロテスタント的に語る
【佐藤優】創価学会のドクトリンからすると靖国神社に英霊はいない
【佐藤優】宗教者の戦時下抵抗 ~大本教のスサノオ・オオクニヌシ信仰~
【佐藤優】亡くなっても魂にも個性がある/ウアゲシヒテ「原歴史」 ~「日本」論(6)~
【佐藤優】葬式は宗教の強さに関係する ~「日本」論(5)~
【佐藤優】紅白歌合戦の持つ大きな意味 ~「日本」論(4)~
【佐藤優】歴史的時間の「カイロス」と「クロノス」 ~「日本」論(3)~
【佐藤優】点と線の意味づけによって複数の歴史が生じる ~「日本」論(2)~
【佐藤優】江戸時代の「鎖国」は反カトリシズムだった ~『「日本」論 --東西の“革命児”から考える』~



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