語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】村上昭夫「うみねこ」

2015年05月28日 | 詩歌
 うみねこをかもめという人がある
 うみねこはかもめと呼ばれながら
 あの冷たい逆白波のたつ浜辺を
 さまよっているだろうか

 うみねこは害鳥だという人がある
 うみねこは苗代を荒らすと
 うみねこはたにしや人のものを盗んでゆく害鳥だから
 滅ぼしてもかまわないという人がある
 うみねこは害鳥だと言われながら
 あの腐った港の水や離れ小島や
 貧しい村の田の面の上を
 鳴き続けているだろうか

 うみねこが魚をみつけるのは
 たかが知れているという人がある
 せいぜい僅かな鰯位だという人がある
 うみねこはまだ見えない魚を尋ねながら
 大きくうねる沖に向かって出ていくだろうか

 その時人はうみねこをなんと呼ぶだろう
 あれは海へ行ったもう帰ってこないのだ
 あれは見えなくなった
 いけない悪い鳥だったと呼ぶだろうか

 だがうみねこは億年来うみねこだった
 億年来害鳥であったためしはないのだ
 億年来魚を捜しもとめながら
 はげしい沖へ向かって出ていったのだ
 それが
 うみねこと呼ばれなければならない
 鳥なのだ

□村上昭夫「うみねこ」(『動物哀歌』、1967【第18回H氏賞】)
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 【参考】
【詩歌】村上昭夫「鴉」
【詩歌】村上昭夫「荒野とポプラ」
【詩歌】村上昭夫「シリウスが見える」
【詩歌】村上昭夫「賢治の星」 ~ふたごの星~




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