語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>米国の低線量内部被曝 ~ペトカウ効果~

2011年08月18日 | 震災・原発事故
 内部被曝すると、下痢、口内炎、鼻血、紫斑などの症状が現れることがある。
 3・11から暫くして、福島市内などの住民に下痢、口内炎が出た。この症状は、放射線被曝の初期症状の可能性がある。

 だるくなる状態が発作的に起きる。ある日、ちょうど喘息が始まるように発作的に始まり、動けなくなる。短い人は1、2日たつと動けるようになる。何日かたつとまた発作が起こる。起こり方は皆ちがうが、類型化できる。
 だるくなると寝ていて、調子が良い時は起きて、だんだん外に出る回数が減って、やがて出てこれなくなって、ある日亡くなる。
 慢性疲労症候群の患者とそっくりだ。

 こうした症状は、内部被曝のメカニズムで説明できる。細胞の中でたくさんの分子が互いに化学反応を起こして新陳代謝を行って命を作る。それぞれの元素が特有のエネルギーを持ち、全部、100電子ボルト以下だ。そこに放射性分子が入ってくると、270万電子ボルトもあって、その場をめちゃめちゃにしてしまう。それが、かったるくて動けないぶらぶら病の状態を作りだす。一つ一つの細胞が一人前の働きをしなくなり、生命活動がだんだん衰えていく。
 この症状が出ると、普通の医者には対応できない。検査しても何もでてこない。放射線内部被曝の症状だと気づく人がいればいいが、今の現役の人は広島・長崎の被爆者を診たことも聞いたこともない。
 原爆病院はまったく信用できない。日赤に丸投げして、かかった費用を政府が補填している。日赤には固定の医師はいない。大学から3年ごとにパートで派遣される。
 七條和子・長崎大学原爆医療研究所助教は、プルトニウムにより内部被曝した腎臓から放射線が出ているところを撮影した(世界初)。
 09年6月26日にNHKが報道し、続いて大新聞が書いた。しかし、それっきり報道が途絶えてしまった。米国の手が入ったのだろう。

 米国も深刻な被曝を受けてきた。それを隠していた。内部被曝は、低線量でも人体に深刻なダメージを与える。この事実が隠蔽され、放射線科学が歪められた。核兵器開発が多くの国で容認され、原子力発電もより多くの国で行われてきた。
 米国では、50年から89年まで、乳癌死亡率が2倍に増えた。最も増えた郡では4.8倍に増えた。この事実を明らかにしたのが、統計学者のジェイ・M・グールドだ。癌発生率が上がった1.300以上の郡に共通する因子を一つずつコンピュータに入力したところ、全部に関係する因子が一つだけあった。核施設から100マイル以内の郡に癌が増えていた。グールドは、放射線被曝の影響で乳幼児死亡率、低体重児出生率が増加したこと、免疫不全が拡大したことを明らかにしている。
 米国には、原発のみならず核兵器の材料のプルトニウムを生産するためのウラン採掘功罪や濃縮工場が多数ある。ここで放射能漏れが起きていたが、軍事機密として隠蔽されてきた。核施設は農場地帯に多い。放射能汚染されたミルクがニューヨークなどの大都市に運びこまれていた。核兵器保有国は、核実験を含めて核兵器を作る過程でたくさんの放射能を出す。通常の原発の運転でも、許容量と称して放射能物質が出ている。それも深刻な被曝を引き起こしている。
 福島第一原発事故の際、米国が日本にいる米国人に福島原発から80Km圏外に逃げるよう指示した。これには根拠があるのだ。
 狭い日本に、原発から80Km圏外に逃げだす余裕はない。日本は、事が起こると何も手を打つことができない原発を50基以上も作ってしまった。

 アブラム・ペトカウ博士は、カナダ原子力公社の研究所で医学・生物・物理学の主任を務めていた。実験で初めて内部被曝のメカニズムを見つけた(「ペトカウ効果」)。
 内部から出る放射線は、大きなエネルギーは大きな被害を生むという一般の常識とは正反対の働きをする。
 牛の脳から抽出した燐脂肪でつくった細胞膜モデルにX線を58時間、全量35Svを照射すると、細胞膜が破壊された。試験材料を少量の放射性ナトリウム22が入った水に落とすと、燐脂肪の膜は全量0.007Svを12分間被曝しただけで破壊された。彼は、何度も同じ実験を繰り返し、放射時間を延ばすほど、細胞膜の破壊に必要な放射線量が少なくてすむこととを確かめた。低線量の被曝によって細胞膜が破られ、中が傷つけられるメカニズムを解明した。
 ノーベル賞に値する発見だったが、米国はペトカウ論文を徹底的に排撃した。これを認めたら、核兵器を作るどころか、原発の運転も認められなくなるからだ。そのため、低線量被曝の恐ろしさをまったく無視した放射線学を語り続けてきた。日本の学者の多くも、この米国の見解だけを繰り返している。

 以上、肥田舜太郎(医師)「インタビュー 放射能との共存時代を前向きに生きる」(「世界」2011年9月号)に拠る。

   *

 低線量の内部被曝の問題は、多くのわかりにくさと難しさを抱えている。
 ジェイ・マーティン・グールド『内部の敵--原子炉周辺で暮らすことの高い代償』(1966)【注】の「低線量内部被曝の脅威--原子炉周辺の健康破壊と疫学的立証の記録」では、全米3,000余の郡について、原子炉や核実験場周辺での異常な乳癌発生率の増加を証明し、レイチェル・カーソンの予見を裏づけている。
 本書で、グールドは、ハンフォード核兵器工場(43年操業開始)の風下に住む人々が同工場の事業者を相手に起こした集団訴訟の原告27,000人の圧力を受け、米国エネルギー省(DOE)が91年に次の事実を認めた、としている。すなわち、45年、プルトニウム供給を急いだハンフォード工場がチェルノブイリ原発事故に匹敵するほど大量に大気中に放出した放射性ヨウ素が原因となって、数は不明であるけれども、甲状腺癌が発生した。
 そして、米国内で被曝の実態が隠されてきた多くの事例をもとに、低線量放射線への健康への影響を追求している。
 
 【注】J・M・グールド(肥田舜太郎/齋藤紀/戸田清/竹野内真理・訳)『低線量内部被曝の脅威 原子炉周辺の健康破壊と疫学的立証の記録』(緑風出版、2011)

 以上、水口憲哉(東京海洋大学名誉教授)「まぐろと放射能」(「世界」2011年9月号)に拠る。

   *

 肥田舜太郎先生に手紙をいただきました。原爆直後から救急治療にあたられ、広島を離れて医療を始められても、後遺症に苦しむ人たちに注目し、さらには日本被団協の組織内で数少ない被爆医師として引退まで数千の被爆者に接して来られました。
 肥田先生は、いま現在の福島県の子供たちを憂えられるのですが、本来《アメリカと日本政府が意図的に隠してきた放射線による「内部被曝(ひばく)」の被害こそが、人類の未来にとって最大の脅威であることを学び、訴えつづけて》こられた専門家です。
 先生は私に、2003年から7年間、各地の被爆者が政府を相手に内部被曝を含む放射線の有害性を巡って闘った集団訴訟の記録が出ることを、まず教えてくださったのでした(『原爆症認定集団訴訟たたかいの記録』日本評論社)。原告の被爆者306名のうち264名が認定をかちとる大きい勝利を得ました。
 《しかし、政府は今まで内部被曝の被害を否定してきたことの誤りを認めず、正しかったと開き直っています。根拠は、「アメリカの説明によれば、内部被曝は放射線が微量で、人体には影響がない」の一点張りです。》
 
 以上、大江健三郎「(定義集)広島・長崎から福島へ向けて 庶民、生きのびる力を得る」(2011年8月17日付け朝日新聞)から引用した。
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7 コメント

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Unknown (みゃお)
2011-08-19 05:11:14
おはようございますにゃ。
内部被爆怖いにゃ。
内部被爆がこんなにわざと隠されてるなんて知らなかったにゃ。
ということは、一般には内部被爆の怖さほとんど知られてないってことにゃ!
みんながピンチってことにゃ!
教えてくれてありがとですにゃ。
にゃぁにゃぁ
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風紋 (内部被曝)
2011-08-20 23:10:43
 怖いですね。
 隠蔽はもっと怖いですね。
 
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『死にいたる虚構』について (小田美智子)
2011-09-06 13:07:13
はじめまして。チェルノブイリについて調べていましたら、こちらの「チェルノブイリ膀胱炎」が出てきました。その頁の最後の方の右側に、この「ペトカウ効果」があったので、読ませていただきました。私は肥田舜太郎さんが翻訳されたジェイ М. グールド、ベンジャミン、A. ゴルドマン著の『死にいたる虚構』を再版させていただいている会の者です。もし、この本をお読みになりたいようでしたら、お返事を下さい。 9・6
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風紋 (拝読したい『死にいたる虚構』)
2011-09-06 23:32:39
 国会図書館データベースで検索すると、『死にいたる虚構』は非売品ですね。
 原本ないし(著作権法上の問題がなければ)写しを拝見したいものです。
 肥田舜太郎氏の著作は、少しずつ追いかけています。
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はじめまして。 (さくらさく)
2012-04-14 00:30:12
私のブログで、こちらの記事をご紹介させていただいてよろしいでしょうか?
事後報告になってしまうかもしれませんこと、
お許し願えたら幸いです。

支障のある場合は、ご一報いただけましたら、
取り消させていただきます。
お手数おかけしますが、よろしくお願いします。
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風紋 (どうぞどうぞ)
2012-04-14 21:47:02
♪私のブログで、こちらの記事をご紹介させていただいてよろしいでしょうか?

 どうぞ。遠慮なく「紹介」してやってください。「原発のない未来」のために。
返信する
十分高線量ではないですか? (新井)
2013-01-09 04:16:50
これって低線量というのですか?避難区域に入っても1日で数mSvですよね。こんな線量は福一ぐらい出ないと普通は出会わないのですが、こういう量を低線量と言っているのですか?

X線を58時間、全量35Sv→603mSv/hr。
全量0.007Svを12分間被曝 → 35mSv/hr.。
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