語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】アレゴリーなど、インテリジェンスの技術 ~役立つ教養③~

2018年05月18日 | ●佐藤優
 (1)海外のエリートが必ず会得している「教養」がある。それは、
   「アナロジー(類比)」
   「メタファー(暗喩)」
   「アレゴリー(寓話)」
というものだ。これらの考え方は、国際情勢を読み解く上で非常に重要だ。国際社会では、しばしば重要な情報が、暗喩や寓話でそれとなく発信されることがあるからだ。

 (2)具体例。
 <北朝鮮の宇宙飛行士が太陽に着陸>
 こんな見出しの記事がネット上で話題になった。2014年11月のことだ。内容は、「北朝鮮の17歳の宇宙飛行士が太陽への着陸に成功し、無事地球に戻ってきた」という荒唐無稽なものだ。
 このニュースを紹介したのは、ウェブサイト「ロシアの声」(現・「スプトーニク」)。これは、ロシア国営のニュースサイトで、バックにロシア対外情報局(旧KGB)がつく。
 だから、無意味な情報を発信するはずがない。
 どういう意味があったのか。2016年1月6日に北朝鮮が実施したと発表した「水爆実験」【注1】を解釈する際に意味を持った。
 水爆は原爆の数百倍以上の破壊力があるので、本当に実験したら分かるはずだし、北朝鮮は水爆が搭載できるミサイルも爆撃機も持っていない。こうした事実を踏まえて、<北朝鮮の宇宙飛行士が太陽に着陸>をどう読み解くか。
 「太陽」は、水爆開発に必要な核融合技術のアレゴリーだったのではないか。太陽が燃えているのは水素の核融合によってだ。「太陽に到達した」というのは、おそらく「核融合実験に着手した」、あるいは「成功した」の言い換えなのだろう。
 ロシアは、こうして北朝鮮の水爆開発について示唆したわけだ。

 (3)なぜ北朝鮮が、自らこのことを発信しなかったのか。
 制裁を恐れたせいだろう。2014年11月時点では、まだイランの核開発をめぐる国際合意もなかった。そうした中で、北朝鮮が「水爆製造に着手した」と声明を出せば、北朝鮮がますます孤立したのは確かだ。
 国際社会では、核に関しては性悪説に立つのが基本だ。
  (a)どんな技術力が低い国であろうと、その国の指導者が「核兵器を開発している」と明言すれば、必ず国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れを要求される。<例>北朝鮮、イラン
  (b)核兵器を製造する能力を持つ国が、いくら「核兵器を作るつもりはない」と言っても、決して信用しない。<例>日本

 (4)北朝鮮は、米国本土にも届く長距離弾道ミサイルの開発を進めている。現在、グアムとハワイの中間あたりまで射程に収めている。いずれは米国の西海岸まで到達するだろう。
 しかも、3月9日は、北朝鮮は「弾道ミサイルに搭載可能な核弾頭の小型化に成功した」とも発表した。
 もし北朝鮮が米国本土まで届く核ミサイルの開発に成功すれば、米国はヒラリー政権であろうが、トランプ政権であろうが、北朝鮮の核施設を躊躇なく空爆するはずだ。
 もし米国が北朝鮮を攻撃するとなれば、その爆撃機は三沢基地(青森県)から飛び立つだろう。
 すると、三沢を始めとする日本の米軍基地はテロの標的になるかもしれない。
 だから、日本にとって北朝鮮の動勢をウォッチすることはとても重要なのだ。
 ただし、どこまでやったら米国を本気で怒らせてしまうか、北朝鮮もよく分かっているはずだ。

 (5)余談ながら、核に関しては日本人も国際社会の強い監視下に置かれている。
 2011年3月11日、東日本大震災と福島第一原発事故が起きたとき、すぐIAEAの調査団が福島に駆けつけた。調査団は事故を調査するとともに、日本がプルトニウムを悪用していないかについて徹底的に調べた。

 (6)北朝鮮の「水爆実験」の報を受けて、真に日本が警戒すべきは韓国の動向だ【注2】。
 韓国の与党幹部が「われわれも核を持つべきだ」と発言して注目された直後、韓国の有力紙「朝鮮日報」は「核開発論は韓国の国益を損なう可能性がある」と大々的に報じた。それほど韓国国内に不穏な空気があるということだ。
 北朝鮮の砲撃で韓国人4人が死亡した延坪(ヨンピョン)島砲撃事件(2010年)のときでさえ、核武装論まで出てこなかった。
 韓国は、朴槿恵・大統領の父親、朴正煕(パク・チョンヒ)の時代、ひそかに核開発に取り組んでいたが、米国の圧力で止めた。
 韓国には、日本の六ヶ所村のようなプルトニウム抽出施設はない。だから、韓国は、「われわれもプルトニウム抽出できる施設が欲しい」と米国に水面下で何度もかけあっている。
 しかし、こういう背景があるので、米国は絶対認めようとしない。
 
 【注1】「【佐藤優】金正恩の思考回路、なぜ水爆か ~役立つ教養①~
 【注2】前掲記事

□佐藤優「北朝鮮の核に関するある奇妙な報道 ~社会人のための「役立つ教養講座」 第3回~」(「週刊現代」2016年3月26日・4月2日号)
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 【参考】
【佐藤優】20世紀はドイツの時代、フランスにないもの ~役立つ教養②~ 
【佐藤優】金正恩の思考回路、なぜ水爆か ~役立つ教養①~

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