語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】宗教弾圧と民族移住 ~民衆宗教を恐れる中国~

2014年11月16日 | ●佐藤優
 チベット自治区におけるチベット仏教弾圧、新疆ウイグル自治区におけるイスラム教弾圧、非公認で活動するキリスト教会に対する取り締まりなど、中国政府が宗教を弾圧する理由は何か。

 中国政府は、キリスト教徒土着宗教が結び付いて民族宗教となることを非常に恐れている。元帝国末期の紅巾の乱(14世紀)、太平天国の乱(1950~60年代)など、民衆宗教と結び付いた民衆蜂起の歴史があったことを記憶しているからだ。
 基本的に、中国共産党は無神論だ。だから中国のエリートの中に宗教を信じる人は少ない。儒教が例や秩序のベースになっている。

 一方、圧倒的大多数を占める一般の民衆は、道教を信仰している。これは漢民族の土着的・伝統的宗教だ。まじないや八卦を中心とする民族宗教だ。
 道教そのものは土地への信仰、穀物の神を敬う、といった農耕と結び付いた宗教だ。よって、民衆が革命に向かうような脅威はない。
 しかし、そこにキリスト教の宗教指導者が入り込み、まじないの世界とイエス・キリストの平等主義が結び付き、政治的な思想を持つと、すごい民衆パワーとなって大変な騒動になる。日本でも、天草四郎が起こした島原の乱がある。 

 中国共産党は、1949年に中華人民共和国を建設して以来、キリスト教、特にカトリック教に対して非常に厳しく接しててきた。共産党は、ローマ教皇を頂点に全世界へ広がるローマ・カトリック教会を弾圧。文化大革命(1966~77)では、中国内の教会はほぼ閉鎖された。

 中国政府は、憲法では信教の自由を保障しているが、基本的に宗教団体は政府当局の管理下に置き、監視している。
 外国人宗教者は排除し、中国人だけで教会を運営し、伝道することが前提で、プロテスタント系の「中国基督教教会」と、司祭の任命権をローマ教皇庁ではなく政府が握るカトリック系の「中国天主教愛国会」のみが政府に公認されている。
 しかし、政府の干渉を嫌って、公認されていない「地下教会」も多い。中国のキリスト教徒6,000万人のうち3分の2は地下教会の信者と言われる。
 地下教会に対して、政府は、教会でただ礼拝しているだけなので弾圧までは今はしていない。しかし、民主化運動など何らかの社会的な活動や思想を疑われれば、当然弾圧される。

 チベット族は、チベット仏教が民族としてのアイデンティティになっている。それを中国当局は認めない。
 新疆ウイグル自治区(イスラム教)に関しては、ウィグル族が民族自治の拡大を求めるのに対し、中国は認めない。
 これらは、どちらかというと、宗教問題というよりは民族問題だ。

□記事「佐藤優が指南 宗教から読み解く国際ニュース」(「週刊ダイヤモンド」2014年11月15日号)
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 【参考】
【佐藤優】世界イスラム帝国へ、ネット時代の世界革命 ~イスラム国の行方~
【佐藤優】来世より現世を生きる教えが強い絆を生む ~欧州南北問題~
【佐藤優】米国人とユダヤ人が共有する選民思想 ~米国とイスラエル~