語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】来世より現世を生きる教えが強い絆を生む ~欧州南北問題~

2014年11月14日 | ●佐藤優
 ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン(PIIGS)の財政危機など、ヨーロッパの南北問題は深刻化している。南部にはローマ・カトリック国、北部にプロテスタント国が多い(英国、独国、デンマーク、北欧3国)が、宗派の違いは経済に影響しているだろうか。

 北部ヨーロッパの強い経済の鍵になるのは、プロテスタントのカルヴァン派・改革派だ。彼らは生まれる前から神に選ばれているという選民思想がある。天国に神のノートがあり、そこに自分の名前が書かれているのだ(「予定説」)。「自分たちにはこの世での成功が保証されている。一見失敗したようであっても、それは神の試練であり、これに耐えれば必ず成功する」と信じている。「世の中のため人のために努力すれば神は喜ぶ。自分の人生は神を喜ばせるためにある」といった教えだ。
 プロテスタンティズムが資本主義を生んだのは、こうした背景がある。

 大航海時代にあれほどの富を得たスペインやポルトガルなどのカトリック国から、なぜ資本主義が生まれなかったのか。
 それは、天国における来世を重視するカトリシズムと関係がある。
 この世はたかだか80年だが、あの世は永遠である。だから人々は自分がこの世に貢献するよりも、天国に行けるよう教会にすべてを寄付しよう・・・・。よって、資本は社会を循環しないで、教会にお金がたまり、豪華な建物を建て、教会インフラという形で富が蓄積させた。

 現世をどう生きるかという考え方が、カトリックとプロテスタントではまるで違うのだ。
 また、プロテスタントやユダヤ経済の強さの背景には、日本や中国とは違う時間の概念がある。

 日本人は、大晦日にはみな、「紅白歌合戦」のお祭り騒ぎを見た後、「行く年くる年」で厳かな除夜の鐘を聞き、新年を迎える。カオス(混沌)の後のコスモス(秩序)を経て、私たちは年が改まったと感じる。・・・・これは宗教儀式そのものだ。
 これは日本や中国の特徴で、時間の概念が円環を成している。春夏秋冬があり、毎年同じ行事があり、1年ごとに新しくなる。農耕民の特徴だ。

 キリスト教、ユダヤ教、イスラム教はそうした考え方をしない。時間は始点から終点まで一直線だ。
 この終点をギリシャ語で「テロス」という。テロスには目的や完成という意味もある。つまり、この世には終わりがあり、その時に神の目的が完成する。また、その途中には神が上から介入し、時間の質が変わるような事件を起こす。これを「カイロス」という。
 かれらは、必ず目的(テロス)に行き着くのだという考えがベースにあるため、人生の目標、仕事の目標をきちんと立てる。直線的な時間の中で、時間を管理、区別していく。何か大きな出来事(カイロス)が起きたときに、それ以前と以後では自分が変わっていくんだと自己革新ができる。
 「これくらいでいい」という考え方はない。自己実現のためではなく、神を喜ばせるためにやっているのだから、終わりがない。そうした意識がプロテスタントの国には強い。

□記事「佐藤優が指南 宗教から読み解く国際ニュース」(「週刊ダイヤモンド」2014年11月15日号)
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 【参考】
【佐藤優】米国人とユダヤ人が共有する選民思想 ~米国とイスラエル~