語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【官僚】政策立案の成功が続く最大のからくり ~審議会システム~

2012年05月30日 | 社会
 政府案は、審議会の答申に基づいて推敲される。
 審議会の事務局は、役所に置かれる。複数の省庁にわたるものは内閣府に、そうでないものは所轄省庁に置かれる。事務局は、最大の権力を握る。霞が関の官僚のいわゆる「庶務権」だ。庶務権によって、審議会を好きなようにコントロールできるのだ。

(1)委員の人選
 委員には、その分野の選りすぐりの学者や有識者が集められる・・・・ことになっているが、実態はお寒いかぎり。
 役所と反対の意見を持つ人は、初めから排除する。人選基準は、(a)考えを同じくする学者、(b)自分たちの言いなりになりそうな人だ。
 学者や有識者は、たとえ自分の見識に自信がなくとも、政府の審議会委員に抜擢されれば箔が付く。断る人はまずいない。専門家でもないのに、声がかかっただけで舞い上がり、引き受ける。その結果できあがるのは、役所の代弁機関となった審議会だ。
 審議会委員のなかには、役所の覚えがめでたくなりたいために、お先棒を担ぐ人もいる。
 <例>中川秀直・元自民党幹事長が埋蔵金に言及すると、まるでわかっていないのに「あれは素人だから」と馬鹿にして、「埋蔵金などない。特別会計の余剰金は必要だ」とあちこちで主張した学者がいた。しかし、2007年、財務省はあっさりと埋蔵金の存在を認めた。梯子を外され、大恥をかいたのは、先頭に立って騒いでいた学者たちだ。そのあたりは財務省もよく心得ていて、重要だと考えている重鎮の委員にはこんな恥はかかせない。梯子を外されたのは、財務省にとって使い捨ての学者だった。

(2)「振り付け」
 1回目の審議会が開催される前に、委員に選ばれた学者たちに対して、役人があらかじめ説明する。役所の思惑どおりに振る舞うよう振り付けるのだ。
 このとき、素人同然の学者のなかには、何を聞いたらよいのか、と訊く人もいる。役人が吹き込むと、熱心にメモをとる。
 <例>内閣府税制調査会で、役人の説明を嬉嬉として聞き、税調で仕入れた情報や理論をまとめて自分の本にしたてあげた学者が、かつて何人もいた。

(3)枠組みの押しつけ
 新しくつくられた審議会の方向性は、最初につくられたドラフトでほぼ決定する。方向性や議論すべき内容を記したペーパーが配布されると、その枠組みを超えて議論を展開するのは、心理的にも難しくなる。このフレームを事務局がつくる。
 事務局は、役所に都合の悪い問題点をわざと落としたり、主張したい論点を強調してドラフトをつくり、審議会の結論を誘導する。
 たとえ、委員のなかに事務局がつくったドラフトとは違った意見をもつメンバーがいたとしても、自らが新たに作成したものをぶつけるまではやらない。せいぜい口頭で反論するぐらいだ。その結果、審議会の議論は役人の意図した範囲から逸脱しないですむ。
 熱心な委員が、役人の考えとは違う意見をまとめてきたら、自分たちの都合のよいように書き直す。
 改竄が無理なほど自分たちの意見とかけ離れている内容だったり、触れてほしくない問題点を議題にのせそうな人がいれば、今度はロジスティックで対抗する。

(4)反対意見の締め出し
 当日予定されている議題に反対意見を持つ人が来られない日を調べて、わざとその日に審議会を設定する。集まったメンバーは皆、賛成だから、議題はすんなり通る。

(5)引き延ばし
 (a)<例>骨太の方針を盛り込ませたくない、と考えると、骨太の方針発表予定日から逆算して、とても間に合いそうもないときまで待って審議会をスタートさせる。
 (b)期限を切らずに、延々と議論させ、結論を先伸ばしにする。
 (c)それでも、意に反する結論が出そうになれば、潰す。「結論が出なかった」といってしまえば、それで終わりだ。

(6)委員の数の水増し
 2時間の審議会をセットした場合、そのうち1時間は役所の説明にとられる。委員が意見を言える時間は残り1時間しかない。30人のメンバーがいれば、一人たった2分だ。こんな短い時間では何も言えない。当然、結論はまとまらない。最後は時間切れになって、「座長一任でお願いする」という動議が出される。座長はペーパーを書くヒマはないので、結局、事務局が好きなようにまとめることになる。

(7)朦朧化
 玉石混淆の議題を数多く用意し、議論をかき回す。議題が多岐にわたれば、焦点が定まらず、これまた結論は出ない。

(8)その他
 審議会の報酬は、1回当たり15,000~20,000円。審議会は2時間ほどだから、時給10,000円だ。意見を述べる時間は数分間だから、実質的に数分間で15,000~20,000円の高給だ。委員20人の審議会ならば、1回当たり400,000円前後の税金が消える。
 地方から上京する学者には、むろん、旅費が支払われる。複数の審議会のメンバーになっている人も多い。彼らのために同じ日に審議会の日程が組まれる。地方の学者には、審議会ごとに旅費が支給される。
 それでも、まじめに仕事をするなら、まだいい。が、役人のつくったペーパーのチェック機能さえ果たしていない。
 <例1>2002年秋、道路公団改革の際、配布された道路需要予測の数値に間違いがあった。この予測は、社会資本整備審議会で延々と議論されて出されたモデル、というふれこみで、予算もそれをベースに要求されていた。しかし、需要予測モデルに明らかなミスがあった。7%も過剰で、正確な予測を基にすると、公共事業の3%カットは計算上達成できる、という結果になった。道路財源を確保したい役人が、意図的に数値を操作したらしい。
 <例2>すでに埋蔵金の存在が明らかになっている時点で、日本有数の立派な学者たちが集まって何度も慎重に審議したはずの財政審で、埋蔵金の「ま」の字も出てこなかった。誰もまじめにペーパーを見てないからだ。
 他の審議会でも<例1><例2>と同様で、体裁を整えるために無駄に税金が遣われているのだ。

 以上、高橋洋一『さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白~』(講談社、2008。後に『さらば財務省! 政権交代を嗤う官僚たちとの訣別』(講談社+α文庫、2010))に拠る。

 【参考】「【政治】官僚が政治家をあやつるテクニック ~財務省による民主党支配~
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