語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【政治】財務省による民主党の操縦 ~事例2つ~

2012年05月05日 | 社会
(1)事業仕分け
 メディアが大きく取り上げ、人々の喝采を浴びた事業仕分けも、財務官僚にとって都合のよいものだった。
 まず、何より、事業仕分けの対象となった事業の選択、それに関する情報の整理は、民主党の政治家にとって手に負えない仕事だ。事業仕分けの段取りの段階で、財務省によるお膳立てが存在した。
 効果の疑わしい事業に対する財政支出を削減することは、正しい。
 しかし、そもそもなぜ効果の疑わしい事業に予算がつけられたのか、を問うことなしに事業仕分けをするのは、モグラ叩きのようなものだ。事業仕分けが必要だ、ということは、従来の予算査定、予算編成に間違い、欠陥が存在したことを意味する。仕分け人は、事業を行ってきた各省の担当者を厳しく査問したが、誰がそんなずさんな予算査定をしたのか、と糾弾した例は皆無だった。
 事業仕分けを推進した仙石由人・行政刷新担当大臣は、事業仕分けは既存の会計検査と総務省による行政評価の不十分さを明らかにした、と述べた。しかし、仙石は予算査定の欠陥に言及しなかった。予算査定の欠陥に言及しないこと自体、事業仕分けにおける財務省の影響力を反映している。

(2)福島第一原発事故に係る東京電力の賠償スキーム
 東京電力の巨額の賠償をどのように調達するかは、国民全体にとって大問題だ。
 菅政権は、東電をそのまま残しつつ、東電の資産処分、国からの交付国債(=一時的な借金の国による肩代わり)、電力会社からの拠出でまず対応し、不足すれば電力料金の値上げによって調達する、というスキームを決めた。
 経産省のいわば主流の課長から、報道されている東電救済案は、税金投入したくない財務省主導の案で、経産省としては東電が何が何でも守る気持ちはない、と河野太郎・衆議院議員に打ち明け話があった。【河野議員のブログ、2011年5月6日】【注】
 税金を投入したくない、というのは、国民の立場を慮った天晴れな姿勢と見える。が、実は違う。賠償原資としては、株式の100%減資、金融機関の債権放棄、電力関係の特別会計等の積立金取り崩しなど、様々な手段がある。それらを合わせれば数兆円は確保できる。ところが、今回の賠償スキームでは、それらの手段については一顧だにされていない。
 河野の紹介した経産官僚の言い分が本当かどうか分からないし、経産省も省益を守ろうとしているのかもしれない。それにしても、大口株主や貸し手である金融機関の保護や特別会計等の埋蔵金の温存は、財務省の省益の反映だ。

 別の事例として、消費税率引き上げの論議がありうる。菅直人、野田佳彦と2代続けて首相が消費税率の引き上げに熱心なのは、財務官僚の洗脳の成果だ、という論評がメディアに溢れている。
 ただ、そうした議論をしていては、これからの財政や社会保障の議論が昏迷するだけだ、という副作用もある。   

 【注】「全ては監査法人次第か」(「ごまめの歯ぎしり」)

 以上、山口二郎『政権交代とは何だったか』(岩波新書、2012)の「第2章 統治システムの構築をめぐる試行錯誤」に拠る。
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