大地震の影響は、東京に住む高齢者にも及んだ。
その影響は、震災が介護保険法上の各事業所に与えた影響を通して増幅された。ここでは、主として訪問介護事業所に与えた影響をみる。
●人手不足
ある独居高齢者宅では、地震によりガラス窓が割れ、部屋中に破片が散乱した。自分で片づけるのは困難で、ヘルパーが来る日までそのままにしておいた。
その高齢者は、緊急にヘルパーを依頼したのだが、事業所は急な対応ができなかった。ヘルパーの多くが交通機関の混乱により通勤に支障をきたしていたからだ。十分な人手が確保できなかった。しかも、急に支援ニーズが増えた。
23区の訪問介護事業所は、他の勤労者と同様、働いている人の半分以上が埼玉や千葉といった近郊に住んでいる。通勤に1時間以上かかる。このたび、自転車で1時間半以上もかけて通勤した人もいた。
無理をして帰宅せず、事務所に泊まるヘルパーもいた。翌日に予定されていた高齢者のケアに備えるだめだ。重度の独居高齢者は、ケアできない日が一日でもあれば、食事介助が行われず、水分補給もできず、生命維持に問題が生じる。排泄介助が行われないと、便や尿によって皮膚疾患を招く可能性もある。
●仕事量の増加
震災直後のケアで困ったのは、スーパーに買物に出かけても、品物がなく、探すのに苦労したことだ。米、パン、牛乳、卵、冷凍食品がなかった。食事を提供する材料がない。ために、うどんなど麺類で代用したこともあった。
紙オムツも売り切れてしまい、やむなくサイズの違うもので我慢してもらったケースも出た。
かくて、ケアの時間がタイトなものになった。通常は90分で済むのだが、買物のため何軒も回らなくてはならなくなり、予定時間がどんどん経過し、慌ただしく調理して食事を提供することになった。高齢者とほとんど会話する間もなく、次の高齢者宅の支援に行くことになってしまった。
●労働環境の悪化
21時間対応のヘルパー事業所では、深夜帯に女性ヘルパーが自転車で街中を移動すると防犯上の問題があるため、軽自動車で高齢者宅を回る。しかし、ガソリン不足で自動車が使えず、深夜帯でも自転車でケアに回ったヘルパーがいた。
このような状態でいつまで頑張れるか・・・・とあるヘルパーはつぶやく。
●通信網の寸断
ヘルパーやケアマネージャーにとって、今回の地震の影響でもっとも困ったのは、携帯電話がつながりにくことだった。独り暮らしの高齢者や老夫婦世帯は、不安から電話をかけてくることがあるが、電話がつながりにくいことで精神的にストレスに陥り、その苦情をヘルパーやケアマネージャーに言う高齢者がいた。
●サービスの提供中止
デイサービスが、ガソリン不足によって休止状態になった。送迎車が運行できないからだ。
入浴できない高齢者が困った。1週間以上も入浴しないでいると、衛生上問題が生じ、疾患の原因にもなる。特にオムツかぶれなどの心配が生じた。
自宅の風呂場では、車いすから浴室に移るのが難しい。車いす状態だった高齢者が少し無理をして、自分で入浴し、転倒。寝たきりになった、というケースもある。
●生命維持の危険、家計負担の増大
停電の際、数時間、自家発電機で代替した医療機関がある。しかし、ガソリン不足によって、燃料補給が難しく、次の停電に使用することができなかった。自家発電機があっても、ライフラインが麻痺すると、限られた時間しか対応できないのだ。2、3時間はともかく、長時間になると深刻になる。
停電になると、在宅酸素療法の医療機器が使えず、生命の危険が生じる。運よく病院に空きベッドが見つかり、2週間程度入院したケースもあった。しかし、入院に伴う医療費は、厳しい家計においては負担になる。
●総括
今回の震災は、首都圏でもライフラインに深刻な状態をもたらした。これを教訓に、ライフラインが麻痺した際にどう対応するべきか、対応策を決めておく必要があろう・・・・と結城康博淑徳大学準教授は結論する。
以上、結城康博「東日本大震災と大都市に住む独り暮らしの老人 ~医療・介護はカネ次第!NO.129~」「サンデー毎日」2011年4月10日増大号)、同「大規模地震と介護現場 ~医療・介護はカネ次第!NO.130~」(「サンデー毎日」2011年4月17日増大号)に拠る。
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その影響は、震災が介護保険法上の各事業所に与えた影響を通して増幅された。ここでは、主として訪問介護事業所に与えた影響をみる。
●人手不足
ある独居高齢者宅では、地震によりガラス窓が割れ、部屋中に破片が散乱した。自分で片づけるのは困難で、ヘルパーが来る日までそのままにしておいた。
その高齢者は、緊急にヘルパーを依頼したのだが、事業所は急な対応ができなかった。ヘルパーの多くが交通機関の混乱により通勤に支障をきたしていたからだ。十分な人手が確保できなかった。しかも、急に支援ニーズが増えた。
23区の訪問介護事業所は、他の勤労者と同様、働いている人の半分以上が埼玉や千葉といった近郊に住んでいる。通勤に1時間以上かかる。このたび、自転車で1時間半以上もかけて通勤した人もいた。
無理をして帰宅せず、事務所に泊まるヘルパーもいた。翌日に予定されていた高齢者のケアに備えるだめだ。重度の独居高齢者は、ケアできない日が一日でもあれば、食事介助が行われず、水分補給もできず、生命維持に問題が生じる。排泄介助が行われないと、便や尿によって皮膚疾患を招く可能性もある。
●仕事量の増加
震災直後のケアで困ったのは、スーパーに買物に出かけても、品物がなく、探すのに苦労したことだ。米、パン、牛乳、卵、冷凍食品がなかった。食事を提供する材料がない。ために、うどんなど麺類で代用したこともあった。
紙オムツも売り切れてしまい、やむなくサイズの違うもので我慢してもらったケースも出た。
かくて、ケアの時間がタイトなものになった。通常は90分で済むのだが、買物のため何軒も回らなくてはならなくなり、予定時間がどんどん経過し、慌ただしく調理して食事を提供することになった。高齢者とほとんど会話する間もなく、次の高齢者宅の支援に行くことになってしまった。
●労働環境の悪化
21時間対応のヘルパー事業所では、深夜帯に女性ヘルパーが自転車で街中を移動すると防犯上の問題があるため、軽自動車で高齢者宅を回る。しかし、ガソリン不足で自動車が使えず、深夜帯でも自転車でケアに回ったヘルパーがいた。
このような状態でいつまで頑張れるか・・・・とあるヘルパーはつぶやく。
●通信網の寸断
ヘルパーやケアマネージャーにとって、今回の地震の影響でもっとも困ったのは、携帯電話がつながりにくことだった。独り暮らしの高齢者や老夫婦世帯は、不安から電話をかけてくることがあるが、電話がつながりにくいことで精神的にストレスに陥り、その苦情をヘルパーやケアマネージャーに言う高齢者がいた。
●サービスの提供中止
デイサービスが、ガソリン不足によって休止状態になった。送迎車が運行できないからだ。
入浴できない高齢者が困った。1週間以上も入浴しないでいると、衛生上問題が生じ、疾患の原因にもなる。特にオムツかぶれなどの心配が生じた。
自宅の風呂場では、車いすから浴室に移るのが難しい。車いす状態だった高齢者が少し無理をして、自分で入浴し、転倒。寝たきりになった、というケースもある。
●生命維持の危険、家計負担の増大
停電の際、数時間、自家発電機で代替した医療機関がある。しかし、ガソリン不足によって、燃料補給が難しく、次の停電に使用することができなかった。自家発電機があっても、ライフラインが麻痺すると、限られた時間しか対応できないのだ。2、3時間はともかく、長時間になると深刻になる。
停電になると、在宅酸素療法の医療機器が使えず、生命の危険が生じる。運よく病院に空きベッドが見つかり、2週間程度入院したケースもあった。しかし、入院に伴う医療費は、厳しい家計においては負担になる。
●総括
今回の震災は、首都圏でもライフラインに深刻な状態をもたらした。これを教訓に、ライフラインが麻痺した際にどう対応するべきか、対応策を決めておく必要があろう・・・・と結城康博淑徳大学準教授は結論する。
以上、結城康博「東日本大震災と大都市に住む独り暮らしの老人 ~医療・介護はカネ次第!NO.129~」「サンデー毎日」2011年4月10日増大号)、同「大規模地震と介護現場 ~医療・介護はカネ次第!NO.130~」(「サンデー毎日」2011年4月17日増大号)に拠る。
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