語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【保健】意外や意外、卵で糖尿病は予防できる

2016年11月06日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)「1週間に卵を4個食べている人は、1個しか食べていない人に比べ、糖尿病の発症リスクが38%も低かった。また、乳製品を多く摂取する人もリスクが23%低い」
 2015年、栄養学ではトップクラスの権威を誇る医学誌「The American Journal of Clinical Nutrition(臨床栄養学)」電子版にこんな研究結果が掲載された。
 卵の摂取量について研究を行ったのは、東フィンランド大学のビルタネン氏のチーム。
 1984年から1989年にかけて、虚血性心疾患など心臓病発症のリスク因子を調べる研究が行われた。対象者は42歳から60歳の男性、2,332人。20年間追跡調査したところ、2割弱の432人が糖尿病になっていたという。さらに全員の食生活や生活習慣を詳細に調査すると、冒頭のような結果が出たのだ。

 (2)今回の論文には、卵のどの成分がどのようなメカニズムで糖尿病予防に効果をあげるのかは示されていないため、今後の研究課題となる。ただ、肥満度や野菜、果物の摂取など卵以外の要因については、統計データ上調整されている。したがって、卵に含まれる成分自体に、血糖値の上昇を抑制する効果があるのではないかと推測される。【糖尿病治療に詳しい小内亨・おない内科クリニック院長】

 (3)乳製品についての研究を行ったのはルンド大学(スウェーデン)のエリクソン氏の研究グループ。
 45歳から74歳の男女26,930人(61%が女性)を14年間追跡調査したところ、約1割の2,830人が糖尿病を発症した。乳製品を食べる量を5段階に分けて比較したところ、もっとも多く食べているグループは、一番少ないグループに比べ、糖尿病発症のリスクが23%も低かった。
 実は、これまでの臨床研究で、乳製品の摂取で糖尿病発症リスクが下がることが確認されている。
 乳製品に含まれるトランスパルミトレイン酸が、インスリン分泌を促し、さらに中性脂肪を減らし、血圧を下げると考えられる。また、ミルクやヨーグルトなどに含まれる乳糖は、他の糖分に比べると血糖値を上げにくいとされる。今回の研究で、こういった指摘が再確認されたことになる。【(2)の小内院長】
 卵や乳製品には、別の効果もあるらしい。
 糖尿病の原因は、膵臓のβ細胞で作られるインスリンを大量に分泌させ続けた結果、インスリンの効きが低下し、さらに分泌が減ってしまうことだ。インスリンが分泌されるのは、炭水化物を摂取したときだけ。脂肪やタンパク質を摂取したときは分泌されない。だから、普段から炭水化物を制限することが糖尿病予防につながる。卵や乳製品といった高脂肪の食材を摂取したことで、結果的に糖質の摂取量が減ったと考えられる。【大櫛陽一・東海大学名誉教授】
 
 (4)糖尿病治療やダイエットに取り入れられている糖質制限。白米やパン、麺類といった糖質を多く含む炭水化物や、スイーツ、根菜類などを減らす一方、肉、魚、大豆類などのタンパク質や脂肪分は制限しない食事方法だ。
 いまだに長期的に継続した場合の安全性などで賛否が分かれる部分があるが、近年、日本国内でこんな研究結果が出た。糖質制限を続けた結果、「境界型」の人たちが正常型に改善したというのだ。
 研究したのは新潟労災病院。
 2007年から2012年までの間に新潟労災病院に入院した平均年齢60歳の男女72人を対象にした。全員が耐糖能異常(IGT)という糖尿病予備群だ。1日の糖質量が120グラムという糖質制限食と、普通食の2グループに分け、1年間追跡した。【前川智・新潟労災病院消化器内科部長】
 茶碗1膳の白米の糖質が約55グラム。1食40グラムまでというのは、比較的緩やかな糖質制限だ。
 糖質制限食の36人は7日間の入院生活を送り、糖質制限食の栄養指導、糖質制限の知識テストなどの研修を受けた。その後1年間、糖質制限を続けた。
 普通食を続けたグループ36人は、3人が正常型に、28人は変わらず境界型、5人が糖尿病を発症した。一方、糖質制限食のグループ36人は、糖尿病を発症した人はゼロ。逆に25人が正常型に改善するという結果になった。【前川部長】

 (5)卵、乳製品の成分と、糖質制限という二つの効果が予防をもたらす。摂取に当たり何を注意するべきか。
 牛乳は割と糖質量が多いので、水代わりにガブガブと飲むのは避けたほうがいい。ヨーグルトも中には糖質が多いものがある。糖尿病の人は避けるべきだが、健康な人は気にしなくても大丈夫だ。【(3)の大櫛名誉教授】
 朝食を抜くと、三食きちんと食べた場合に比べ、昼食と夕食の食後血糖が上がってしまう。だから、朝食をきちんと食べることはとても重要だ。また、炭水化物を摂取するときに乳製品を一緒に摂れば、血糖値の上昇を抑制する効果がある。そのため、朝食でたとえばパン単独ではなく、卵や乳製品を一緒に摂取すれば、よりいい糖尿病予防につながる。【(2)の小内院長】
 ちなみに、1週間に卵を5個以上食べたところで、発症リスクが低下することはない、ともこの研究に記されている。
 卵と乳製品をたくさん食べればそれでいいというわけではない。適度な運動を取り入れて肥満を防ぐなど、食事以外での心がけも大切だ。

□「タマゴで糖尿病は予防できる」(守屋浩司・編『人生を変える! 食の新常識/カラダにいい食事 決定版』(文春ムック、2016)/初出「週刊文春」2015年5月21日号)
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