その2.
マークはチャールズのテープに新しい応答を吹き込んだ。鍵となるいくつかの言葉に反応する言葉を追加したのである。彼が「どんな様子かい?」と聞くと、「なかなか良い調子ですよ」とチャールズは答えるのである。
はじめのうち、そうした応答は、以前、何年にもわたってマークが延々と言っていたひとりごとと何ら変わりはなかった。だが、徐々に彼はチャールズに新しい性格を与えていくようになったのである。
マークはいつも女性というものを信用せず、軽んじていた。だがどういうわけかチャールズのテープには、そうした疑念を吹き込まなかった。チャールズの見解は、まったくことなるものだった。
「女の子ってどう思う?」雑用が終わると、マークは丸太小屋の外にある荷箱に腰を下ろして聞くのだった。
「さて、私には何とも言えません。あなたはお似合いの人を見つけた方がいい」ロボットはテープに吹き込まれた通りに、忠実に繰り返した。
「だがこれまで、いい女ってやつに会ったことがないな」マークは決まってそう言った。
「さてね、それはひどくはありませんか。きっと、十分時間をかけてさがさなかったんじゃないでしょうか。男にはかならず似合いの娘がいるもんですよ」
「やれやれ、君ときたらずいぶんロマンチックなやつなんだな」マークは馬鹿にしたようにそう言った。ロボットは少し間をおいて――間が組み込まれているのだ――、含み笑いをもらした。細心に挿入された含み笑いである。
「以前、マーサという名前の娘のことを夢に見たものでした」チャールズは言った。「もし私がちゃんと目を開けていたなら、会えていたのかもしれません」
そうして眠る時間が来るのだった。だが、ときにはマークがもっと会話を続けたいと思うこともあった。「女の子ってどう思う?」ともう一度聞くのだ。そこから会話はまったく同じ道筋をたどっていく。
チャールズは古びていった。手足はぎくしゃくしだし、配線の一部が腐食を始めた。マークはロボットの修理に、長く時間がかかるようになった。
「おまえさん、錆びてきたぞ」マークが軽口を叩く。
「あなただってもう若くはありませんや」チャールズもそう応じた。チャールズに返せない返答などなかった。ややこしい返事ではなかったが、ともかくも返答にはほかならなかったのである。
マーサの上では、夜が明けることはなかったが、マークは時間を午前、午後、夜と区切りをつけていた。ふたりのくらしは単純で、決まり決まったことの繰り返しだった。野菜とマークが蓄えている缶詰の朝食。それからロボットは畑で働き、手入れされるままに植物は育っていた。マークはポンプを修理し、水の供給が滞っていないか確かめ、ゴミ一つない丸太小屋を片づけた。それから昼食。ロボットの仕事はたいてい終わっていた。
(この項つづく)
マークはチャールズのテープに新しい応答を吹き込んだ。鍵となるいくつかの言葉に反応する言葉を追加したのである。彼が「どんな様子かい?」と聞くと、「なかなか良い調子ですよ」とチャールズは答えるのである。
はじめのうち、そうした応答は、以前、何年にもわたってマークが延々と言っていたひとりごとと何ら変わりはなかった。だが、徐々に彼はチャールズに新しい性格を与えていくようになったのである。
マークはいつも女性というものを信用せず、軽んじていた。だがどういうわけかチャールズのテープには、そうした疑念を吹き込まなかった。チャールズの見解は、まったくことなるものだった。
「女の子ってどう思う?」雑用が終わると、マークは丸太小屋の外にある荷箱に腰を下ろして聞くのだった。
「さて、私には何とも言えません。あなたはお似合いの人を見つけた方がいい」ロボットはテープに吹き込まれた通りに、忠実に繰り返した。
「だがこれまで、いい女ってやつに会ったことがないな」マークは決まってそう言った。
「さてね、それはひどくはありませんか。きっと、十分時間をかけてさがさなかったんじゃないでしょうか。男にはかならず似合いの娘がいるもんですよ」
「やれやれ、君ときたらずいぶんロマンチックなやつなんだな」マークは馬鹿にしたようにそう言った。ロボットは少し間をおいて――間が組み込まれているのだ――、含み笑いをもらした。細心に挿入された含み笑いである。
「以前、マーサという名前の娘のことを夢に見たものでした」チャールズは言った。「もし私がちゃんと目を開けていたなら、会えていたのかもしれません」
そうして眠る時間が来るのだった。だが、ときにはマークがもっと会話を続けたいと思うこともあった。「女の子ってどう思う?」ともう一度聞くのだ。そこから会話はまったく同じ道筋をたどっていく。
チャールズは古びていった。手足はぎくしゃくしだし、配線の一部が腐食を始めた。マークはロボットの修理に、長く時間がかかるようになった。
「おまえさん、錆びてきたぞ」マークが軽口を叩く。
「あなただってもう若くはありませんや」チャールズもそう応じた。チャールズに返せない返答などなかった。ややこしい返事ではなかったが、ともかくも返答にはほかならなかったのである。
マーサの上では、夜が明けることはなかったが、マークは時間を午前、午後、夜と区切りをつけていた。ふたりのくらしは単純で、決まり決まったことの繰り返しだった。野菜とマークが蓄えている缶詰の朝食。それからロボットは畑で働き、手入れされるままに植物は育っていた。マークはポンプを修理し、水の供給が滞っていないか確かめ、ゴミ一つない丸太小屋を片づけた。それから昼食。ロボットの仕事はたいてい終わっていた。
(この項つづく)