hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

知念実希人『螺旋の手術室』を読む

2021年05月13日 | 読書2

 

知念実希人著『螺旋の手術室』(新潮文庫ち7-71、2017年10月1日新潮社発行)

 

裏表紙にはこうある。

純正会医科大学附属病院の教授選の候補だった冴木真也准教授が、手術中に不可解な死を遂げた。彼と教授の座を争っていた医師もまた、暴漢に襲われ殺害される。二つの死の繋がりとは。大学を探っていた探偵が遺した謎の言葉の意味は。 父・真也の死に疑問を感じた裕也は、同じ医師として調査を始めるが……。「完全犯罪」に潜む医師の苦悩を描く、慟哭の医療ミステリー。『ブラッドライン』改題。

 

 

冴木裕也:純正会医科大学附属病院の

冴木真也:同・第一外科・准教授。次期教授候補。裕也の父。

海老沢教授:同・第一外科・教授。真也の手術を担当。

清水雅美:同・准教授、麻酔科医

馬淵公平:光零医大客員教授。次期教授候補。殺される。

川奈淳:帝都大・准教授。次期教授候補。47歳。妻は茜(旧姓梅山)。

 

冴木真奈美:父は真也、母も医師で優子。裕也は兄。

岡崎浩一:真奈美の婚約者。母は結婚に反対の登喜子。

 

桜井公康:警視庁捜査一課・巡査部長。相棒は板橋署の真喜志(まきし)。

松本(増本)達夫:フリージャーナリスト

 

この作品は2013年7月新潮社より『ブラッドライン』として刊行。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

最初の手術シーンはリアルで、読んでいるだけでハラハラしてしまう。

 

話の筋はそれほど複雑ではないのに犯人のあたりがなかなかつかない。その意味では面白いのだが、最後まで読むと、ちょっと無理筋じゃないかとも思う。

 

読後感をこれほど無常なものにしなくてはいけなかったのだろうか。

 

他の作品でもよくあることだが、主人公が警察に情報提供せずに、自身で危険な行動をする。そして、そうする理由が薄弱で、小説だからと納得するしかない。

 

 

知念実希人(ちねん・みきと)の略歴と既読本リスト

 

 

2004年から始まった初期研修必須化により、研修医は全国的に行われるマッチングというシステムによって、自らが希望する初期研修病院に割り振られるようになった。それにより引き起こされたのが、急速な『医局離れ』だった。

大学病院っから市中病院に大量の研修医が流出し、そのまま市中病院に居着くようになったため、それまで圧倒的なマンパワーを背景に、医師を派遣することで市中病院を支配していた医局がその力を失っていった。いまや医局に減私奉公し、助手、講師、准教授、そして教授へと駆け上がるという人生プランは、若い医者にとって魅力的な将来像ではなくなりつつある。(p103)

 

 

躊躇(ちゅうちょ)

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貫井徳郎『悪の芽』を読む

2021年05月11日 | 読書2

 

貫井徳郎著『悪の芽』(2021年2月26日KADOKAWA発行)を読んだ。

 

宣伝文句は以下

犯人は自殺。無差別大量殺人はなぜ起こったのか?

世間を震撼させた無差別大量殺傷事件。事件後、犯人は自らに火をつけ、絶叫しながら死んでいった――。元同級生が辿り着いた、衝撃の真実とは。現代の“悪”を活写した、貫井ミステリの最高峰。

 

アニメグッズ購入が目的で大人数が集まるイベントで火炎瓶を投げつけて、死者8名、重軽傷者30数名の事件が起こった。無差別大量殺人犯人の斎木は自殺した。


安達は40代前半のエリート銀行員。妻と子供にも恵まれて順風満帆な人生を送って来た。この事件の犯人・斎木は小学校で同じクラスだったと気付き、からかいの言葉をかけたことがきっかけでいじめが始まったことを思い出して落ち着かなくなる。小学校時代のいじめが事件の背景にあるとも報道され、安達は苦悩し、パニック障害になり、逃れるために犯行の背景を調べ始める。自身への陰が忍び寄り、家族への危機が迫る気配を感じながらも、調べを進めざるをえなくなる。

アニメファンでもない斉木はなぜアニメイベントを襲ったのか?

 

亀谷壮弥:現場近くにいて、火柱になる被害者などをスマホで動画撮影し、TV局やネットに上げ注目された。

斉木均(さいきひとし):41歳無職。独身。小5からいじめで不登校。一か月前までファミリーレストランでアルバイト。キャパクラ嬢に通っていたとの話もある。

安達周:銀行本社課長、出世コース。妻・美春と9歳、5歳の娘がいる。

真壁友紀:斉木、安達の小学校同級生。ガキ大将で斉木をいじめた。長男・大我に自分の過去のいじめを告げる。

西山果南:目立たないが、素晴らしいコスプレプレーヤー。亀谷を知り合う。

荒井、今岡:斉木とファミレスで一緒に働いていた。

江成厚子:被害者・仁美の母親。恨みを晴らそうと安達を調べ始める。長男は隆章、夫は勝幸。

熊谷妃菜:キャパクラ嬢。萌夏(モカ)という拡張型心筋症の娘がいる。

 

初出:「小説 野性時代」2019年12月号~2020年11月号

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

犯人捜しのミステリーではなく、犯人の動機が探っていく話だが、少しずつベールを剥がすように明らかになっていく話の展開には引き込まれる。
ただ、冗長ぎみだ。例えば、安達が荒井をファミレスで会っていた時の話が、厚子の視点で事実はほぼそのまま10頁余りに渡り、再度繰り返されている。

 

鈍感な私など、はるか昔の、些細なことなど気にしないが、多くの読者は私と同感なのではと思ってしまう。無欠陥の人生街道驀進中の完璧人間の安達には気になって墓穴を掘りに行ったのだろう。

 

まあ、まじめに前向きにとらえれば、人は過去の他人との出会い、その影響の積み重ねの上で、ある行動を選択する。大きな事件の背景には、犯人に与えた大小さまざまな他人の影響が積み重なって、行動の背中を押しているはずだ。小さいながらもかかわりを持つ人は常にその可能性に心しなければならないのだろう。

 

 

貫井徳郎(ぬくい・とくろう )の略歴と既読本リスト

 

 

見知らぬ人に親切にするには、勇気がいる。そのちょっとした勇気の欠如が積み重なり、冷たい社会ができあがってしまった。(p346)

これを絶望する人もいるが、人間の心には必ず、善の芽が宿っているはずだ。その善の芽をひとりひとりが育てていけば、人間の進化による数万年も待たずに望ましい社会が必ず現れる。

この結論、納得である。私は既に、貫井徳郎『明日の空』の最後に、だれでも納得する例を挙げている。

(かって多くの)公衆トイレは和式だったのだが、床や便器のふちが汚れていることが多かった。私はトイレを出る前にトイレットペーパーをちぎって、汚れの上に落とし、足でこすって便器に捨て、ちょっとだけきれいにしてから出ることを心がけていた。次々と同じことをすれば、公衆トイレはどんどんきれいになるのに、と信じて??

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瀬尾まいこの略歴と既読本リスト

2021年05月10日 | 読書2

瀬尾まいこ

1974(昭和49)年、大阪市生れ。奈良市在住。
大谷女子大学国文科卒。2005年~2011年、中学校国語講師、教師のかたわら執筆活動。

2001(平成13)年、「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年作家デビュー。
2005年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞受賞
2008年『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞受賞
2019年『そしてバトンは渡された』で本屋大賞受賞

他に『図書館の神様』『優しい音楽』『温室デイズ』『僕の明日を照らして』『おしまいのデート』『僕らのごはんは明日で待ってる』『あと少し、もう少し』『春、戻る』『君が夏を走らせる』『傑作はまだ』、『その扉をたたく音』など。

エッセイ 『見えない誰かと』『ありがとう、さようなら』『ファミリーデーズ』

 

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瀬尾まいこ『そしてバトンは渡された』を読む

2021年05月09日 | 読書2

 

瀬尾まいこ著『そしてバトンは渡された』(文春文庫せ8-3,2020年9月10日文藝春秋発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

幼い頃に母親を亡くし、父とも海外赴任を機に別れ、継母を選んだ優子。その後も大人の都合に振り回され、高校生の今は二十歳しか離れていない〝父〟と暮らす。血の繋がらない親の間をリレーされながらも、出逢う家族皆に愛情をいっぱい注がれてきた彼女自身が伴侶を持つとき――。大絶賛の2019年本屋大賞受賞作。  解説・上白石萌音

 

文藝春秋BOOKSの内容紹介は以下。

私には五人の父と母がいる。その全員を大好きだ。

高校二年生の森宮優子。
生まれた時は水戸優子だった。その後、田中優子となり、泉ヶ原優子を経て、現在は森宮を名乗っている。
名付けた人物は近くにいないから、どういう思いでつけられた名前かはわからない。
継父継母がころころ変わるが、血の繋がっていない人ばかり。
「バトン」のようにして様々な両親の元を渡り歩いた優子だが、親との関係に悩むこともグレることもなく、どこでも幸せだった。

 

優子は森宮に言う。「森宮さん、次に結婚するとしたら、意地悪なひととしてくれないかな」……「…保護者が次々替わっているのに、苦労の一つもしょいこんでないっていうのもどうかなって。 ほら、若いころの苦労は買ってでもしろって言うし」(p12、13)

 

「梨花が言ってた。優子ちゃんの母親になってから明日が二つになったって」…「そう。自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日が、やってくるんだって。親になるって、未来が二倍以上になることだよって」(p315)

 

優子:地味で慎ましやか。水戸優子は2歳で母を亡くす。小3の時、35歳の父・水戸秀平は27歳の田中梨花と結婚。小5の時、秀平はブラジル勤務になり、離婚した梨花と田中優子となって暮らす。ピアノが欲しい優子のために梨花は金持ちで49歳の泉ヶ原茂雄と結婚したので、泉ヶ原優子となる。35歳の梨花が家を出て中学の同級生の森宮壮介と結婚し、優子を引取ったので森宮優子となる。2か月で梨花は1人で出て行った。結局、父親が3人、母親が2人。家族形態は17年間で7回も変わった。

森宮:17歳の優子の37歳の父親。頭が良くて一流企業勤務だが、魅力的ではなくて、何かずれている。

梨花:自由を愛する。

向井先生:優子の高校2年の担任教師。冷静で厳しいがしっかりしている。

田所萌絵、佐伯史奈:優子の高校の友人。

脇田:高校で優子が付き合う。

早瀬賢人:優子が気になる。ピアノが上手。

 

歌「ひとつの朝」:35年前のNコン高校の部の課題曲。

 

単行本は2018年2月に文藝春秋より刊行。

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

前半の小学校~高校の学校生活の話におじいさんは興味を持てない。

主人公の優子の一見しらけたような無感動さや、別れた親たちにまったく連絡をとらない冷たくみえる態度に??? 優秀なはずの森宮の見当違いの対応に、「こんなのあり?」と思ってしまう。梨花の秘密も、よくある話といえば言えるので、感心しなかった。

餃子などごく普通の料理・食事の場面が多くでうんざり。
歌手・俳優の23歳の上白石萌音が解説しているのにびっくり。

 

瀬尾まいこの略歴と既読本リスト

 

 

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姫野桂『発達障害グレーゾーン』を読む

2021年05月07日 | 読書2

 

姫野桂著、OMgray事務局特別協力『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書287、2019年1月1日扶桑社発行)を読んだ。

 

昔に比べはるかに、発達障害の認知が広まるなかで、香山リカさんが何かの本で、「自分は発達障害じゃないだろうかと疑い、相談に来る人が増えている」と書いていた記憶がある。この本でも「自分もそうかも?」と専門外来に殺到し、病院によっては数か月待ちという状況になっているという。

治療・研究が深まる中で、発達障害の定義がいまだ変化しつつあり、同時に医師により診断結果が異なることが多い現在、発達障害と健常者の診断の境目はあいまいだ。患者の方もまた、神経質に自らを疑う人がいる一方、実際に境目にあたる人も多いのだろう。

 

この本は「発達障害グレーゾーン」にあたる何人もの大人へのインタビュー記録だ。

著者は、「当事者インタビューや、当事者会への参加、精神科医、就労支援団体などへの取材を通じて、グレーゾーンの人は、単に努力不足や、やる気がないなどと周囲に思われ、生きづらさを抱えていることを示す。
例えば、具体的な職場で働く上での問題点は、

「学生時代は大丈夫だったのに、社会に出たらミスばかりする」
「雑談が苦手で、周りから“空気が読めない人"と言われてしまう」
「衝動的にカッとなったり、一か所にジッとしていられない」

などが挙げられ、各人の改善への工夫などに触れている。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

この本を読んだ私も、まだ、グレーゾーンの人を単にだらしない人と見がちだなと思ってしまう。本当に発達障害の人、その傾向のある人と、単にだらしない人の差は、外から見ているだけで明確に分かるのだろうか?

それは、話を聞きながらメモするなど二つのことが同時にできない事や、どうしても仕事を順序良く進められないなどの症状が実感できないためだ。その一方で、あきらかにやる気なく、努力不足の人もいる現実に直面しているためでもある。

 

グレーゾーンの人は、発達障害だという診断を求めていくつもの病院を巡る人が多いらしい。これは、ついに診断を受けて、自分の努力が足りないせいではなかったとの免罪符を得ることが目的というより、原因がはっきりして安心するということなのだろうか?

 

 

姫野桂(ひめの・けい)

フリーライター。1987年生まれ。宮崎市出身。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをし、編集業務を学ぶ。卒業後は一般企業に就職。25歳のときにライターに転身。現在は週刊誌やウェブなどで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさ。猫が好き過ぎて愛玩動物飼養管理士2級を取得。

著書に『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)

 

OMgray事務局
軽度の発達障害特性に悩む人の当事者会「ぐれ会! 」や「グレーゾーンのための問題解決シェア会」を運営する。同会が立ち上げたイベントにはこれまで400人以上が参加。代表のオム氏は支援機関などに呼ばれて講演活動も行う

 

 

ADHD:不注意が多かったり、多動・衝動性が強い

ASD:コミュニケーション方法が独特だったり、特定分野へのこだわりが強い

LD:知的発達に遅れがないにもかかわらず、読み書きや計算が困難

 

発達障害は治ることはない。特性の対策により軽減するしかない。そのためのコンサルタントが必要だ。

 

DSM-5を基準とすると、(1)社会性の障害、(2)コミュニケーションの障害、(3)興味の限局性(こだわり)が発達障害の主な特徴。
(1)と(2)は当てはまる人が多いが、(3)は並外れて限定された興味を持っていて、ちょっとしたこだわりではないので、当てはまる人は少ない。

 

キレやすいのも、他人に完璧を期待しているからですよね。そもそも、人に期待しちゃいけないんだと思うように練習したら、イライラすることが減りました。そして、自分ではなくまずは相手の承認欲求を満たすことを心がけました。(p104)

 

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コロナワクチン接種と抗体

2021年05月06日 | 雑学

 

山中伸弥による新型コロナウィルス情報発信」(《 》で示すのは「厚労省のファイザー社の新型コロナワクチンについて」 )を参考に、素人の私が要点?のみまとめた。

 

ファイザー社製のワクチンについて

 

仕組

《中和抗体を作り出し、免疫を働かせることで、コロナの感染を予防する。ウィルスを弱めて接種する生ワクチンではない。》

 

有効性

1回接種により感染を80%、2回接種により90%抑制したと報告がある。《95%》

ワクチンを接種していない人は、感染し発症する確率が44倍、死亡する確率が29倍高い。

1回接種のみで、万一感染しても他人に感染させる確率は半分になる。

 

安全性

重い副反応であるアナフィラキシーの発生頻度は1万人に数回程度だが、適切な処置で全員が回復している。

発熱、悪寒、倦怠感、頭痛などは2回目接種後の方が、そして若年者の方が、それぞれ発生頻度が高い。

発熱(37.5℃以上)は、1回目接種後は3.3%に、2回目接種後は35.6%に発生。
倦怠感と頭痛は、1回目接種後は23.2%(21.2%)、2回目接種後は、67.3%(49.0%)に認められた。

 

接種後の感染対策

ワクチン接種後も完全に安全になるわけではないので、マスクとソーシャルディスタンスは必須で、多人数での屋内飲食は止めた方が良い。

 

 

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角田光代『夜かかる虹』を読む

2021年05月05日 | 読書2

 

角田光代著『夜かかる虹』(講談社文庫か88、2004年11月5日講談社発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

ひとり暮らしの私を突然男連れで訪ね、男を置いて帰ってしまった妹リカコ。外見はそっくりで性格は正反対、甘い声で喋り、男に囲まれ、私を慕いながら、一方で恋人まで奪おうとする妹。痛くて切ない姉妹関係をリアルに描く表題作をはじめ、人とのつながり、自分の居場所を誠実に問う作品集。(『草の巣』を改題)

 

「夜かかる虹」と「草の巣」の2つの短編集

 

「夜かかる虹」

遠野フキは短大を出て就職すると、実家を出た。フキには3歳下の妹・リカコがいて、よく似ているのに何かが決定的に違っていた。フキは人付き合いが苦手だが、妹は誰にでもすぐなれなれしくできるのだ。フキの部屋に北村修平が来ているときに突然リカコがやって来て、屈託なく修平に話しかける。

リカコが生まれてから大事にされなくなったフキはよく隠れてリカコをいじめた。大きくなるとリカコはフキの物をなんでも欲しがるようになった。いや、物だけではなかった。……

 

「草の巣」

私は、井坂サヨ、矢部かおり母娘が経営する昼は定食、夜は飲み屋になる店で働いていて、仲野と同居している。ときおり店に飲みに来る村田は、俺が作っている家を見たいなら日曜の二時に駅前のロータリーに来な、と言った。すっかり忘れていた私は買物に出て、駅前で村田の車に乗ってしまった。無口な村田は何も語らず私を乗せてただただ走り、わけのわからない男・榎本が同乗し、さびれた店を回り、ラブホテルに泊まり、山の中の草地に家具が置いてある草の巣に連れて行く。

 

 

初出:夜かかる虹「群像」1994年11月号、草の巣「群像」1997年6月号

単行本:1998年1月講談社より『草の巣』として刊行。文庫化にあたり改題。

 

 

私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読むの?  最大は五つ星)

 

角田さんが純文学指向だった27歳のとき(現在54歳)に書いた小説。

「夜かかる虹」は、「ひでえ妹だ」と思って読んでいくと、姉も同じだと思えてくる。それでも互いに絶交するわけでもなく、やはり姉妹なのだなと思う。まあ、気持ちの良い小説じゃないね。

「草の巣」は、何しようとしてるのか、何考えてるのか、分からないままどんどん進んでゆく。それでも結局、読んでしまうのは? 若いときから角田さんには筆力があった?

 

角田光代の略歴と既読本リスト

 

 

「木更津」の由来は、君去らず(p128)。古事記の「きみさらず伝説」にあるという説がある。私は、歌舞伎「切られ与三郎」を思い出すのだが。

 

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中山祐次郎『逃げるな新人外科医』を読む

2021年05月03日 | 読書2

 

中山祐次郎著『逃げるな新人外科医 泣くな研修医2』(幻冬舎文庫な46-2、2020年4月1日幻冬舎発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

雨野隆治は27歳、研修医生活を終えたばかりの新人外科医。二人のがん患者の主治医となり、後輩に振り回され、食事をする間もない。責任ある仕事を任されるようになった分だけ、自分の「できなさ」も身に染みる。そんなある日、鹿児島の実家から父が緊急入院したという電話が……。現役外科医が、生と死の現場をリアルに描く、シリーズ第二弾。

 

雨野隆治は、2年間の初期研修(シリーズ第一弾『泣くな研修医』)を終え、本作品では東京下町の総合病院「牛之町病院」で新人外科医として奮闘する。

 

雨野隆治:医者になって3年目の27歳。付き合いかけたはるかに連絡していない。鹿児島の父が入院した。真面目で不器用だが、患者にはついつい迎合的になってしまい、辛い事を言えない。

佐藤玲:美人で冷静な外科医。雨野の4学年上。ポニーテイル。

岩井:雨野の指導医。

川村:雨野と同期の要領の良い耳鼻科医。

西桜寺(さいおうじ)凛子:研修医。最初は外科から研修に入る。父は世田谷区長。華やかで型破り。勉強熱心。

吉川佳代:愛想のよい看護師。態度の大きい看護師は佐久間

水辺一郎:雨野が主治医。入れ墨のある72歳。ステージⅣの大腸がん患者

柴野博:雨野が主治医。太ってニコニコの66歳。ステージⅡの大腸がん患者。妻と娘がいる。

矢島愛香:22歳。腹痛で外来へ。コマーシャル・セックスワーカー。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

あっという間に読める。文章は平易、展開は想定内で、安心して楽しめる。

 

冷徹、強気、美人の佐藤玲のキャラは魅力だが、最後の方の涙はいかがなものか。教授と恋愛し、突拍子もないくせに患者・医師とのコミュニケーションが巧みな凛子が、意外と勉強熱心で勤勉なのは良いが、やはり最後で涙を見せるのは、常道すぎる。

 

雨野の患者に厳しい見通しを告げられない気の弱さは間違えたやさしさだと私は思うので、イライラする。しかし、小説を読んでこんな風に思う私は、本人の思いとは違って、単純で、小学優等生だと自分でも思ってしまう。

 

 

中山祐次郎(なかやま・ゆうじろう)の略歴と既読本リスト

 

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伊坂幸太郎『逆ソクラテス』を読む

2021年05月01日 | 読書2

 

伊坂幸太郎著『逆ソクラテス』(2020年4月30日集英社発行)を読んだ。

 

全五編すべての主人公が小学生という、初の試みの短編集。

第33回柴田錬三郎賞受賞作。2021年本屋大賞ノミネート。

 

集英社の特設サイトで伊坂さんは語っている。

子供が主人公だと、地の文がどうしても幼くなってしまう。それから、子供の活動範囲となると、狭い世界の話になってしまう。では、どうすれば自分がわくわくするようなものが書けるだろうか、

……

デビューしたときは、奇妙奇天烈な話を書きたい、という気持ちが強かったので、そのころに、『逆ソクラテス』的な小説を発表していたら、そこで終わってしまっていたような気がするんですよね。二十年経って、現実的な世界を足場にしながらも、僕らしいテイストを出せるものを書けるようになったとも思っていて。

こんな話も出ていた。

冗談で、タイトルに(売れっ子の東野圭吾さんの)「ガリレオ」と付けたら注目されるんじゃないかな、と話していて、さすがにそれは駄目なので、じゃあ「ソクラテス」かな? ソクラテスといえば「無知の知」なので、「逆ソクラテス」で、先入観たっぷりの先生を登場させて、その先入観を子供たちがひっくり返していくという話にした。

 

「逆ソクラテス」

何でも自分の判断は正しいと思っている小学6年担任教師の久留米先生は、草壁を「ダメな子」と決めつけ、委縮させていると、安斎はいう。そんな先生の先入観をひっくり返そうと、安斎の作戦に加賀(語り手)や、優等生で美人の佐久間も協力する。カンニングで草壁に100点取らせたり、噂作戦を実行したり、プロ野球選手の野球教室で2人は必死に……。

 

「スロウではない」

悠太はよくドン・コルレオーネ(映画「ゴッドファーザー」のマフィアの親分)に相談すれば何でも解決してくれるという遊びをしていた。

「ドン・コルレオーネ、足が遅いと特に女子が馬鹿にしてきます」
「そんな女性がいるのか」「はい」
「では消せ」

運動会のリレー選手は、Aチームが足の速い渋谷亜矢などで構成し、Bチームはくじ引きで運動音痴の村田花が選ばれてしまった。転入生の高城かれん渋谷のライバルになりそうな子だったが、……。

 

「非オプティマス」(オプティマスはトランスフォーマーの司令官の名前)

久保先生はきちんと注意しないおとなしい先生で、騎士人(ないと)は仲間と筆箱を繰り返し落として授業を妨害していた。将太はいつも同じ服しか着ていない転校生の保井福生(やすいふくお)と、父子家庭のと友達になる。

 

「アンスポーツマンライク」

小学校最後のバスケットの試合。エースの駿介、センターの剛央三津桜(みつお)、、監督は磯憲

 

「逆ワシントン」

謙介倫彦(としひこ)と共に、が母が再婚した若い父親に虐待されているのではと疑う。物知りで大人びた教授(本当の名前は京樹)を誘い、確かめるために、まずドローンを手に入れようとする。

謙介の母は、ワシントン大統領が桜の木を切ったことを正直に言って褒められた話が大好きで、子供のころ、ワシントンになりたくて斧が欲しかったという。学校に行ったとき、いじめ問題に熱くなって子どもたちに演説したことがある。

掃除を終えた母は、「はなはだ簡単ではありますが、これでわたしの掃除に代えさせていただきます」と言い、軽く会釈した。(p235) (これは実際に、伊坂さんの奥さんの台詞だという)

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

最初読んだときは本当に面白かったが、このブログを書きながら付箋を付けたところを中心に読み返してみると、よくあることなのだが、それほどでもないと思えてきた。一回でも楽しく読めたので「四つ星」。

 

「子供時代って、何にも考えてなかったなあ」と思うのだが、それでも子供なりの考えが描かれていて、ふと気がつくと、気持ちだけ小学生に戻っていた。

 

いくつかの短編では、小学生時代の話の後に、成人してから何人かが再会する話が続いていて、「ふむふむ」となる。内容は軽く微笑む程度であったにしても。

 

 

伊坂幸太郎の履歴&既読本リスト

 

伊坂さんの作品は、どんな残酷なシーン、悲惨な場面でも、冷静な筆致で、底流にユーモアが流れている。この作品でも、例えばここ。

「…わたしも学校の先生なんだよ、こう見えて。久保君とは、大学の教職課程で一緒で」 給食家庭、と聞こえた。とにかく知り合いなのだろう。(p130)

え、ダジャレ! ここかよ!

 

 

罅(ひび)(p218)振り仮名なしで読ませるな!

 

 

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