hiyamizu's blog

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大栗博司『大栗先生の超弦理論入門』を読む

2013年10月31日 | 読書2

大栗博司著『大栗先生の超弦理論入門 九次元世界にあった究極の理論』(ブルーバックスB-1827、2013年8月講談社発行)を読んだ。

現代物理学の最先端理論、超弦理論(俗には超ひも理論)の第一人者のひとりである大栗さんが、分かりやすく、しかしけしてごまかすことなく現在進歩中のこの理論を説明している。

第1章と第2章では、量子力学や素粒子論についての基礎的な知識を解説。
第3章では、物質の基礎となる素粒子やその間に働く力を、超弦理論ではどのように考えるかを説明。元の「弦理論」がなぜ「超弦理論」になったか、その違いを説明。
第4章では、超弦理論では、空間の次元が九次元に決まる理由を示す。
第5章では、重力や電磁気力など自然界のすべての力に共通する原理「ゲージ原理」、「力の統一原理」を説明。
第6章は、見捨てられていた超弦理論が革命を起こす「第1次超弦理論革命」。
第7章は、著者が超弦理論研究にのめり込んだ経緯。
第8章は、完成度が飛躍的に高まった「第2次超弦理論革命」
第9章は、空間は幻想(3次元空間の場の量子論と9次元空間の超弦理論は等しい)
第10章は、時間は幻想か?

概要、といってもかなり詳しい内容が,">「現代ビジネス」に第1講から第4講まで公開されている。




私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

現代物理学の最先端がわかりやすく説明されている。あまりにもたくみで、本当に理解できてしまったような錯覚に陥るほどだ。
「光は粒子であり、同時に波動」「不確定性原理」など量子論だけでも十分常識を打ち破られるのだが、9次元(時間を入れると10次元)空間、ブラックホールの温度など途方もない世界が、筋道だって説明され、分かったような気にさせられる。しかし、実際には滅茶苦茶高度で複雑そうな数式を、何年も執念深く追及しているのだ。天才たちに、ただただ感嘆するばかりだ。そのお仲間で、いまだ現役の大栗さんが、こんなわかりやすい本を書いてくれたことに感謝。



大栗博司(おおぐり・ひろし)
カリフォルニア工科大学カブリ冠教授、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究員。1962年生まれ。京都大学理学部卒業。京都大学大学院修士課程修了。東京大学理学博士。プリンストン高等研究所研究員、シカゴ大学助教授、京都大学助教授、カリフォルニア大学バークレイ校教授などを経て現職。アスペン物理学センター理事。アメリカ数学会アイゼンバッド賞、フンボルト賞、仁科記念賞、サイモンズ賞などを受賞。アメリカ数学会フェロー。『重力とは何か』、『強い力と弱い力』(幻冬舎新書)、朝日新聞WEBRONZAの執筆や市民講座などで科学アウトリーチにも努めている。



第1章 なぜ「点」ではいけないのか
第2章 もはや問題の先送りはできない
第3章 「弦理論」から「超弦理論」へ
第4章 なぜ九次元なのか
第5章 力の統一原理
第6章 第一次超弦理論革命
第7章 トポロジカルな弦理論
第8章 第二次超弦理論革命
第9章 空間は幻想である
第10章 時間は幻想か
あとがき
さくいん
付録 オイラーの公式



以下、私のメモ

アインシュタインが重力の理論(一般相対性理論)を発表してから約10年後に、ミクロな世界の法則である量子力学が確立される。すると、重力の理論と量子力学の間には深刻な矛盾があることがわかった。それを克服して、両者を統一する理論を建設するために、超弦理論は提案された。

私たちの身の回りにあるすべての物質は、素粒子の標準模型に含まれる17種類の点粒子(=素粒子)の組み合わせでできていると考えられている。17種類の中で最後に存在が確認されたのが、2012年に欧州原子核研究機構(CERN)で発見されたヒッグス粒子。

宇宙には、正体がわからない「暗黒物質」と呼ばれる物質が、標準模型に含まれる物質の5倍以上もある。
アインシュタインの重力理論(一般相対性理論)によると、通常の物質や暗黒物質は宇宙の膨張を減速するように働くはずだ。ところが、2011年のノーベル物理学賞の対象となった遠方の超新星の観測により、膨張は加速していることが発見された。
これは通常の物質や暗黒物質のほかに、宇宙の加速膨張を引き起こす何かがあることを示している。その何かは「暗黒エネルギー」と呼ばれ、やはり標準模型の枠内では説明することができない。

自然界には、重力・電磁気力・強い力・弱い力という四種類の力があることがわかっています。「重力」や「電磁気力」については古くから知られていましたが、20世紀になると、自然界にはあと二つ、「強い力」と「弱い力」という力があることが発見されました。
強い力は、クォークを互いに引きつけあって、陽子や中性子をつくる力です。また、弱い力は、原子核からの放射線の原因となる力です。
標準模型では、電磁気力・強い力・弱い力という三つの力によって起きる現象は説明することができます。ところが、私たちがいちばん身近に感じている力であるはずの重力は、標準模型には含まれていません。電子やクォークなど、質量を持った素粒子の間には重力が働くはずですが、標準模型ではその効果を無視しているのです。
?強い力 > 電磁気力 > 弱い力 > 重力

くりこみ
電磁場において働く力の強さは、距離の二乗に反比例することがわかっています。これをクーロンの法則といいます。電子と電子の間の距離が近ければ近いほど、大きくなるわけです。すると、電磁場の変化を発信した電子自身が、その電磁場から受ける影響はどうなるでしょう。
電子が点だとすると、点には長さも幅もないので、電子から自分自身までの距離はゼロ。クーロンの法則によれば、発信した電子自身が感じる電磁場の強さは、無限大になってしまうのです。電子が感じる電磁場の強さが無限大になると、何が問題なのでしょうか。ここで重要になるのが、アインシュタインの有名な式、
?E=mc2
です。この式は、エネルギー(E)と質量(m)とは、実は同じものであることを意味しています。たとえば1円玉の質量は1グラムですが、この質量はE=mc2によって、標準家庭約8万世帯の1ヵ月分の消費電力量にも等しいエネルギーに換算することができます。
電磁場を強くすると、そのエネルギーも大きくなります。そして、電子が感じる電磁場の強さが無限大になると、そこでの電磁場のエネルギーも無限大になります。E=mc2でこのエネルギーを質量に換算すると、これも無限大。これを電子の質量に加えると、電子の質量も無限大になってしまいます。
電磁場のエネルギーを起源とする質量のほかに、電子がもともと持っている固有の質量があると考えます。すると観測される電子の質量は、電磁場のエネルギーを換算した質量と、電子固有の質量の和ということになります。
(観測される電子の質量)=(電磁場のエネルギー)+(電子固有の質量)
電子がどんどん小さくなって点に近づくほど、電磁場のエネルギーは無限大に近づくわけですが、ここで、電子固有の質量をどんどん小さくしてそれと相殺すれば、電子が点であってもかまわないではないか、というのがこのアイデアの骨子でした。
電磁場のエネルギーが無限大に近づくと、あるところで電子固有の質量は「負の値」をとらなければならなくなります。無限大の問題を解消するために質量を負の値にするなどという方便を使うのは、なにやらこじつけのように思われるかもしれません(前頁の図=くりこみ)。実際、暫定的な解決策というべきものでしたが、「くりこみ」と呼ばれるこのアイデアは、20世紀の素粒子物理学の発展に大いに貢献するのです。


要素還元主義
自然界にはマクロからミクロへの階層構造があり、よりミクロな世界の法則ほど基本的なものであると考えられています。マクロな世界の法則は、ミクロな世界の法則から導かれる。この考え方を「要素還元主義」といいます。マクロの世界の法則は、ミクロな世界の近似であるといってもいいでしょう。
くりこみとは、ある階層で生じた無限大の問題を、よりミクロな階層へと「先送り」するものだったのです。


GPSと一般相対性理論
アインシュタインの一般相対性理論によると、重力の効果で、空間や時間は伸び縮みします。実際、地球の周りを回る人工衛星では地球からの重力が弱いので、時間が速く進みます。スマートフォンやカーナビで使われているGPSは位置の測定に人工衛星からの時報を使っているので、重力による時間の進み・遅れを計算に入れないと、位置を正確に決めることはできません。


事象の地平線
たとえば私たちの地球を、質量をそのままにして圧縮していくと、重力がどんどん強くなります。半径が9ミリメートルになるまで圧縮すると、重力に逆らって地球表面から脱出するために必要な脱出速度は光の速度と等しくなり、さらに圧縮すると光さえ脱出できなくなります。すると地球もブラックホールになるのです。脱出速度が光速になってしまう表面のことを「事象の地平線」といいます。


グラスマン数
同じ数どうしをかけると、答えがゼロになってしまうという不思議な数があるのです。ここで、そのような数をθと書くことにすると、
?θ×θ=0
となってしまうのです。こうした奇妙な性質を持つ数のことを「グラスマン数」と呼びます。
超弦理論では、このグラスマン数も座標に使う超空間という空間を考えます。しかし、なぜ、このような数を持ち出す必要があるのでしょうか。それは、フェルミオンとボゾンの性質の違いのためです。
これに対してグラスマン数は、θ×θ=0のように、一回かけると、もうそれでおしまいです。一つの状態には一つの粒子しか入れないというフェルミオンの性質は、実は、一回かけるとそれで終わりになるというグラスマン数の性質に由来しているのです。
そして、普通の数のほかにグラスマン数も座標として使う超空間では、グラスマン数で示される方向に振動する弦を考えると、そこからフェルミオンが現れるのです。


「超空間」
私たちは、三次元の空間に住んでいると考えてきました。しかし超弦理論は、私たちの空間が普通の空間ではなく、超空間であると予言します。普通の数字で決まる座標のほかに、グラスマン数という不思議な数を座標に使う「余剰次元」が存在すると予言するのです。



超対称性で予言される粒子が発見されると、超弦理論を検証する道も開け、私たちの空間に対する通念も根底から揺さぶられることになるでしょう。


「人間原理」
知的生命体が生まれないような宇宙には、それを観測する者もいない。宇宙は一つではなく物理定数の異なる宇宙がたくさんあって、観測者が存在できる物理定数の宇宙しか観測されないのだ


数理解析研究所の所長だった佐藤幹夫の言
「朝起きたときに、きょう一日数学をやるぞ、と思っているようでは、とてもものにならない。数学を考えながらいつの間にか眠り、朝、目が覚めたときにはすでに数学の世界に入っていなければいけない」


マルダセナの対応を含む重力のホログラフィー原理
重力を含む九次元空間の超弦理論が、重力を含まない三次元空間の場の量子論と同等である。


宇宙の年齢は138億年





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