眉村卓『たそがれ・あやしげ』(2013年6月出版芸術社発行)を読んだ。
ショートショートに近い10頁ほどの21編の短編集。短編毎に一枚のまえがき、というかエッセイがついている。
退職し、妻に先立たれた80歳近いくたびれた男性が、ふとした瞬間に異界へ迷い込んでしまう話が多い。
各編毎にある“まえがき”が面白い。
付き合っていた女性と姫路城でデートしたが、改修工事中で見られなかった。しかしその女性と結婚した。妻亡き今、成人した一人娘からは人の言うことをちゃんと聞いていないとたびたび注意される。このことからできたのが「多佳子」だという。
旧制高等学校跡地に建てられた阪南団地に著者は一時住んでいた。この団地のことを書きたかったのが「昔の団地で」だ。
ごく平凡な男性が、平凡な日常の中で突然、過去など異界へ迷い込む話が多い。おそらく、著者自身の話であり、リアルで、それだけに奇妙な体験がいつ自分に起こるかわからないという気にさせる。
本来の自分の時代ではなく、もっと未来に行って、そこで住んでいる人間のことを「未来滞在者」と言っている。まえがきで、著者は、未来滞在者の気分で現代に生きている。そのほうが楽で腹も立たないという。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
おそらく著者自身の、枯れて人生に達観している主人公の話なので、私には、共感し、気楽に読めるのだが、同じような話が多い。もっとギラギラした若い時の著者の作品を読んでみたくなった。
眉村卓(まゆむら・たく)
1934年、大阪生れ。大阪大学経済学部卒。
耐火煉瓦会社勤務の傍ら、SF同人誌「宇宙塵」に参加。
1961年、「SFマガジン」第一回SFコンテストに投じた「下級アイデアマン」が佳作入選し、デビュー。
1963年、日本SF作家第一世代の中で最も早く処女長編「燃える傾斜」を刊行。
コピーライターを経て、1965年より専業作家。企業社会と個人関係をテーマにしたインサイダー文学論を唱え、サラリーマンを描いた作品を書き続ける一方、ショートショートやジュニアSFでも健筆をふるう。
1.絵のお礼
2.腹立ち
3.和佐明の場合
4.五十崎
5.多佳子
6.新旧通訳
7.中華料理店で
8.息子からの手紙?
9.有元氏の話
10.あんたの一生って……
11.未練の幻
12.昔の団地で
13.十五年後
14.「それ」
15.「F駅で」
16.帰還
17.電車乗り
18.同期生
19.未来アイランド
20.F教授の話
21.やり直しの機会