hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

小川洋子『とにかく散歩いたしましょう』を読む

2012年11月28日 | 読書2
小川洋子著『とにかく散歩いたしましょう』(2012年7月毎日新聞社発行)を読んだ。

46編のエッセイのほとんどが日常の生活の中なのだが、なんらかの形で本に関わる話と、飼っていたラブラドールの愛犬の話が大部分だ。

毎日jpのインタビュー」で小川さんはこう語っている。
連載を終えてみると、改めて自分の生活、人生に「本」がすごくいろいろと関わってるんだなあ、と。仕事以外でもね。それは再確認しました。


昔読んだ本を久しぶりに読むと、違った内容でびっくりすることがある。(「本の模様替え」)
実物の本とは別に、私一人だけのバージョンが記憶の本棚にしまわれている。・・・私の書いた小説も誰かの心の中でこんなふうに模様替えされているのだろうか。この想像は私を幸福な気分にする。


著者の愛犬は、ラブラドールのラブだ。(「とにかく散歩いたしましょう」)
家族が事故で病院に担ぎ込まれるなど非常事態が起こり、
疲れきって家に帰ると、ラブがお利口に待っていた。ご飯ももらえず、散歩にも行けないままずっと放り出されていたのに、文句も言わず、・・・「何かあったんですか。大丈夫ですか」という目で私を見上げ、尻尾を振ってくれた。散歩に出ると、・・・いつも以上に元気に歩いた。その時々の不安を私が打ち明けると、じっと耳を傾け、「ひとまず心配事は脇に置いて、とにかく散歩いたしましょう。散歩が一番です」とでも言うかのように、・・・グイとリードを引っ張った。


初出:「毎日新聞」2008年6月10日~2012年3月14日、月に一度の「楽あれば苦あり」を改題



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

どこにでもある日常のひとこまから、しみじみとした人の温かさを気づかせてくれるエッセイだ。
著者は、まちがいなく大変努力し、そして成功した小説家なのに、あくまで謙虚で、日常生活では人柄が良く、ちょっと慌てん坊なお喋りな小母さんに見える。これまでのエッセイを読んでも、そんな日常の小川さんと、素晴らしい小説がストレートにつながらなかった。
しかし、このエッセイを読むと、本当に本好き、お話好きである点と、何か小川さんの心の深い所から湧いてくるものが優れた小説に結実していると思えてきた。


小川洋子は、1962年岡山県生れ。
早稲田大学第一文学部卒。1984年倉敷市の川崎医大秘書室勤務、1986年結婚、退社。
1988年『揚羽蝶が壊れる時』で海燕新人文学賞
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞
2003年『博士の愛した数式』で読売文学賞、本屋大賞、2006年に映画化
2004年『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞
2006年『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞
その他、『カラーひよことコーヒー豆』、『原稿零枚日記』『妄想気分』『人質の朗読会 』など。
海外で翻訳された作品も多く、『薬指の標本』はフランスで映画化。
2009年現在、芥川賞、太宰治賞、三島由紀夫賞選考委員。



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