hiyamizu's blog

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フランツ・カフカ『絶望名人カフカの人生論』を読む

2012年11月25日 | 読書2

フランツ・カフカ著、頭木弘樹訳『絶望名人カフカの人生論』(2011年11月飛鳥新社発行)を読んだ。

絶望的なカフカの日常の嘆きで満ちた本だ。

将来に向かって歩くことは、ぼくにはできません。将来に向かってつまずくこと、これはできます。いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。


これがラブレターの一部だというのだから徹底している。

ミルクのコップを口のところに持ちあげるのさえ怖くなります。そのコップが、目の前で砕け散り、破片が顔に飛んでくることも、起きないとは限らないからです。

ぼくは人生に必要な能力を、なにひとつ備えておらず、ただ人間的な弱みしか持っていない。





私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

常にあらゆるところで「前向き」が求められる現在、貴重な後ろ向き発言が並ぶ。そのほとんどが、絶望的言葉で、これほど徹底していると、ネガティブも気持ちが良い。

心を病んだ人などはまずこんな本を読むと、心をすこし静めることができるのではないだろうか。そして、時が経てば、遠くに灯りが見えるようになるだろう。

それにしても、「駄目だ、駄目だ」と思いながら、職場では有能な仕事人で、なにより革新的作品を残したカフカは不思議な人だ。
万里の長城』のあとがきで池内紀さんが書いてように、結核になるほど勤務後の長時間執筆して、絶えず努力した人なのだ。

仕事場にしたのは・・・およそ寒々しく、使い勝手が悪いので、借り手がいなかったしろものである。
勤めからかえると二時間ばかり仮眠をとり、夕食のあと、小さな包みをもって両親の家を出る。・・・夜ふけまで小説を書き、また翌日の出勤にそなえて市中の家にもどってくる。凍りつくようなプラハの冬に、どのような気持ちで執筆に励んでいたのか、感慨めいたことは一切述べていない。いずれにせよ、コッペパンに小さなノートの包みをぶら下げ、長い石段をのぼっていく姿は、二十世紀の文学的風景のなかで、もっとも美しい一つではなかろうか。





フランツ・カフカ Franz Kafka
1883年―1924年。チェコのプラハ生れ。両親ともドイツ系ユダヤ人。プラハ大学で法学を専攻。卒業後は労働者障害保険協会に勤めながら執筆に励む。結核で41歳で死去。
『変身』『審判』『城』『失踪者』、その他、『万里の長城』など。
最初の日本語訳『審判』が1940(昭和15)年出版されたが、6、7冊しか売れなかったらしい。そのうちの1冊を安部公房が買っていたのだそうだ。

頭木弘樹(かつらぎ・ひろき)
1965年生れ。筑波大学卒。カフカの翻訳と評論を行なっている。
筑波大3年のとき、難病の潰瘍性大腸炎となり、入退院を繰り返す生活が10年以上続いた。そんな日々に、信じていれば治る、といった明るい励ましの言葉は全く耳に入らなかった。支えてくれたのが、おそろしくネガティブな嘆きで満ちたカフカの日記や手紙だった。頭木さんは1998年に手術を受け、かなり健康を取り戻した







以下、私のメモ

バルザックの散歩用ステッキの握りには、「私はあらゆる困難を打ち砕く」と刻まれていたという。ぼくの杖には、「あらゆる困難がぼくを打ち砕く」とある。共通しているのは、「あらゆる」というところだけだ。

ぼくはひとりで部屋にいなければならない。床の上に寝ていればベッドから落ちることがないのと同じように、ひとりでいれば何事も起こらない。

ぼくは本当は他の人たちと同じように泳げる。ただ、他の人たちよりも過去の記憶が鮮明で、かつておよげなかったという事実が、どうしても忘れられない。そのため、今は泳げるという事実すら、ぼくにとってはなんの足しにもならず、ぼくはどうしても泳ぐことができないのだ。

「変身」に対するひどい嫌悪。とても読めたものじゃない結末。ほとんど底の底まで不安定だ。当時、出張旅行で邪魔されなかったら、もっとずっとよくなっていただろうに・・・。

僕は彼女なして生きることはできない。・・・しかし僕は・・・彼女とともに生きることもできないだろう。

二人でいると、彼は一人のときよりも孤独を感じる。誰かといると、相手が彼につかみかかり、彼はなすすべもない、一人でいると、全人類が彼につかみかかりはするが、その無数の腕がからまって、誰の手も彼に届かない。



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