hiyamizu's blog

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マブルーク・ラシュディ『郊外少年マリク』を読む

2012年11月19日 | 読書2
マブルーク・ラシュディ著、中島さおり訳『郊外少年マリク』(2012年10月集英社発行)を読んだ

パリ郊外の貧しい地区の団地に住むアルジェリア系の移民の少年マリクが、たくましく生きる5歳から26歳までの姿を描く。住宅街に住む者との格差、偏見、貧乏など厳しい環境の中で、仲間たちに囲まれて、サッカーを楽しみ、ときに悪さをしながらも、困難を笑いとばし、あふれるエネルギーを放ち、成長していく。

サッカーが好きで才能に恵まれても、激しい格差の中で抜け出せない。多くの友は悪の道に落ちる。友情や母親への思いを抱きながら、胸を張って生きるマリク。不思議なくらい悲壮感がないその姿を、短く畳み掛ける文で、軽やかに描く。

初出:直木賞作家で訳者の妹の中島京子により「文學界」2010年10月号に「五歳」「十一歳」「十三歳」の三篇のみ翻訳掲載。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

何かを抱えて育った男性にはとくにお勧めだ。
貧しい地区で悪ガキが仲間と共に、何人かは倒れ、何人かはなんとか生き延びて成長していく。5歳から26歳まで年ごとに22に細分化され、文は短く、簡潔で潤いや情緒はなく、淡々と記録映画風にマリク少年を描いていく。しかし、読み進めるうちに、遠いフランスの移民街の少年の話が、身近に、まるで自分のことのように思えてくる。
劣悪な環境で生き抜くマリクと仲間たちに乾杯!
そして、声高な主張ではなく、淡々と愛情とユーモアをもって描く著者に感謝。

この本は、『またやぶけの夕焼け』の著者の高野秀行のオフィシャル・ブログに紹介されていた。



訳者:中島さおり
1961年東京生れ。著書『パリの女は産んでいる』で日本エッセイスト・クラブ賞受賞。翻訳『ナタリー』
父母ともにフランス文学者。直木賞作家中島京子は妹。パリ近郊にフランス人の夫とバイリンガルの子ども二人と暮らしている。

訳者中島さおりのブログ「わすれもの」に、「訳者あとがき」が載っている。
当初、旧植民地からの移民労働者は工場労働者として歓迎され団地に入居した。しかし、1973年のオイルショック以来、解雇されたり、厄介者扱いされるようになった。団地は低所得層が集中し、ドラッグの密売などが行われる場所になる。マリクが生れ育ったのはそういう環境だ。

(郊外とはいえ、これがあのパリなのだ)

さらに、「わすれもの」には中島京子(芥川賞作家で訳者の妹)の「解説」が載っている。






以下、私のメモ。

小学校に入ったら、周りから一目おかれなきゃならない、さもないと悲惨なことになると前から言われていた。・・・
しかも母さんが、小学校入学の記念とかいって、・・・時代遅れのトータル・ファッションを押し付けるもんだからなおさらだった。おれはピエロみたいだったと思う。・・・横には、嫌だというのに・・・母さんをひっつけて。・・・おれはちょうど張り飛ばすのにもってこいの顔をした妙ちくりんなやつだったんだ。
――母さん、次はいっしょに来ないだろ、ね。
――あんたは優しい母さんを持って運が良かったのよ、ね。
 こんなくだらないことを言ったかと思うと、母さんはおれのおでこにでっかくチュッとやった。おれは嫌がっているという引きつった笑いをこれ見よがしにして、おでこを拭いてみせたけど無駄だった。
・・・
――チューしてくれないの? おネエチャン。
――母ちゃんいなくなったらさみしくないかい?
・・・俺は血祭りにあげられてしまった。・・・



コメント
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