hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

吉田修一『空の冒険』を読む

2012年02月22日 | 読書2

吉田修一著『空の冒険』2010年9月木楽舎発行、を読んだ。

ANAの飛行機の座席に置いてある雑誌に連載されている短いエッセイ集、短編小説集だ。

プロローグで、吉田さんは若い頃から日記をつけていて、時々振り返るが、月一度のこの『空の冒険』はひと月遅れの日記のようなものだと書いている。

本文は10ページ足らずの掌小説が12ほど並ぶ。最初の数編は一応の結末があるが、これから発展するのに途中で終わってしまった感じのものもある。余韻があるというより、いきなり終わった感じだ。機内で読むと、これからの旅、あるいは終わろうとしている旅に思いをはせることになるのだろうか。

後半にはエッセイが11並ぶ。仏、ニューヨーク、ブータン、韓国、台湾、中国と取材などの旅行記と、ぎっくり腰体験談、家電音痴ぶり、美術館訪問だ。

「『悪人』を巡る旅」は、幾度と無く取材旅行にでかけた同じ場所に、本が出版されたあとで訪れる旅だ。面白半分で始めた旅に、著者は「小説を書くとはどういうことなのか、改めて深く考えさせられる旅になっていた。」と書いている。

最後の「悪人に出会う旅」は、映画『悪人』の灯台で行われたロケ地訪問記だ。
『悪人』は、日の当たらない人生を歩んできた男と女の物語だ。どんなに足掻いても現実の世界では勝ち目のない二人の物語。しかし、現実の世界では勝ち目のない二人が、唯一この映画の中でだけは誰よりも輝いて見える。それがこの灯台なのだと思う。・・・
『悪人』という小説は、ひっそりと生きてきた者たちが、大切な人のために必死に立ち上がろうとする物語でもある。そんな物語を必死に映画にしようとした人たちが、毎朝毎晩通ってつけた足跡が大瀬崎の灯台には今でも残っている。





初出:全日本空輸機内誌『翼の王国』2008年10月~2010年9月連載



吉田修一の略歴と既読本リスト





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