hiyamizu's blog

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酒井順子『うまれることば、しぬことば』を読む

2022年08月25日 | 読書2

 

酒井順子著『うまれることば、しぬことば』(2022年2月28日集英社発行)を読んだ。

 

集英社の内容紹介

陰キャ、根暗、映え、生きづらさ、「気づき」をもらった……あの言葉と言い方はなぜ生まれ、なぜ消えていったのか。「ことば」にまつわるモヤモヤの原因に迫る、ポリコレ時代の日本語論。古典や近代の日本女性の歩みなどに精通した著者が、言葉の変遷をたどり、日本人の意識、社会的背景を掘り下げるエッセイ。

以下、章題。
・Jの盛衰 ・「活動」の功と罪など 23が並ぶ。

 

はじめに

今「ゲーム」といえばオンラインゲームのこと。人生ゲームがじゃないし、ましてやダイヤモンドゲーム⦅古っ! あった、あった!⦆なんて言ったら、「それ何?」って言われますよ。普通の「電話」は、「固定電話」や「家電(いえでん)」と言わなきゃ通じない。とほほ。

言葉の新旧交代劇が激しい原因は、世のデジタル化と、人権意識(ポリティカル・コレクトネス)の高まり、新型コロナウィルスの流行だとおしゃっている。

 

・「活動」の功と罪

「婚活」「妊活」「終活」など「〇活」は、昔はさほど苦労はせずとも、皆がしてきた/できたことが、今やわざわざ「活動」しなくてはならなくなったということ。

 

・ 「自分らしさ」に疲弊して

今、若者が「自分らしく生きることができない」と感じているわけは、大人から何にも強制されていないためではないか。昔は、枠を破壊する行為が、生きていると実感させていたのだ。

 

・「『気づき』をもらいました」

若者が「色々気づきをもらった。感動をありがとう」とSNSに書く。「色々気づいて、感動しました」では、自分が気づいて、自分が感動したので、相手への「おかげさま思想」が気薄になるからなのだろう。

 

・「黒人の人」と「白人」と

黒人、朝鮮人という表現は差別、偏見を感じさせる。著者は、それを避けるためにごまかしだが、黒人の人(?)、朝鮮の人と柔らかく表現している。歴史ある関西では、店名(酒屋さん)、物品(お豆さん)、挨拶(おはようさん)にまで敬称をつけて表現する。ただし、敬称は「臭いものにフタ」の機能もあるので危険。

今、日本では八百屋、魚屋といった「〇〇屋」は放送禁止用語的で、青果店、鮮魚店と言い換えられるという(しらなかった)。会話でも、「ちわーっ、八百屋でーす」に「あっ、八百屋が来た!」ではまずく「八百屋さんが来た!」となる。

 

・「陰キャ」と「根暗」の違い

「リア充」とはネット住人がリアル人生を謳歌する人々を表現した自嘲と、同時に揶揄も含む言葉。

 

・「You」に胸キュン

1980年代の男性歌手(沢田研二、サザンオールスターズ、田原俊彦など)は、現在ではありえないことに、歌の中で女性のことを「おまえ」と呼んでいた。当時はかなりな数の女性が「おまえ」と呼ばれたがっていた。一方で、お洒落で都会的なシティポップ系歌手(山下達郎、稲垣淳一など)は「君」と呼んでいた。しかし、会話の中では「おまえ」はもちろん、「君」「あなた」もえらそうな雰囲気があるので呼びにくい。日本語には、誰にでも使える二人称「You」に相当する言葉がないのだ。

 

・「だよ」、「のよ」、「です」

女言葉がないはずの英語で話す外国人女性の言葉が日本語の吹き替えや翻訳では、女言葉にされることが多い。だからといって、女性の言葉なのに「…するんだよ」と表記されると違和感がある。

最近のビリー・アイリッシュのインタビュー映像では、「…だよね」「…なんだ」と言った語尾で、男言葉が使用され、敬語も使われていなかった。一方で、ゲイのマツコ・デラックスは女言葉を使っている。いったい将来どうなるのか? もし敬語禁止令が出て、酒井さんが「酒井です」でなく、「酒井だよ」と自己紹介しなくてはならなくなったとしたら、悶え苦しむという。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

あらたに登場した言葉、消えて行った言葉、それらの言葉が、なぜ人々に受け入れられたか、消えていくことになったか、その言葉が持つ背景や変遷について考察されている。といっても難しい理論ではなく、生活や男女の関係の変化など、言葉の使われ方へのするどい観察力にもとづく、説得力あるわかりやすい説明が続く。

 

著者は研究者ではないが、言葉への感覚が鋭く、かつ時代の空気を読み取る力は優れている。今までの一連のエッセイと同等と言えば言えるが、いつもながら、感心してしまう。

 

プラスの面があると同時に、逆にこんな面もあるなど、けっこうややこしい話もあるのに、難しい言葉を使わずにわかりやすく、「確かにそうかもな」と読者を納得させてしまう。たいした文章力だ。

 

ただ流されがちな最近の流行語について、たまには改めて考えてみたいと思った。

 

 

酒井順子の経歴と既読本リスト

 

コメント
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