hiyamizu's blog

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貴志謙介『戦後ゼロ年 東京ブラックホール』を読む

2018年11月04日 | 読書2

 

貴志謙介著『戦後ゼロ年 東京ブラックホール』(2018年6月30日NHK出版発行)を読んだ。

 

表紙裏にはこうある。

ヤミ市、隠匿物資、占領軍、地下政府、新興宗教、そして日本人立ち入り禁止の「東京租界」。

焼野原となった占領都市TOKYOにいったい何が起きていたのか――。
CIA文書、GHQ検閲記録などの発掘資料を基に、1945年8月から翌年8月にいたる“空白の1年”を再構築する。

 

2017年に放送されたNHKスペシャルの出版化(NHKの番組紹介)。

 

情報源は、2007年機密解除された10万ページを超えるCIA文書、150万点のGHQ検閲記録(フランゲ文庫)、マッカーサー記念館やオーストラリア戦争博物館からの映像資料などだ。

 
1946年、占領当局は戦犯、軍人、極端な右翼主義者や国会議員など20万人を公職追放したが、米軍統治に便利な官僚は温存して仕事をさせた。やがて、共産主義に対抗するために、児玉誉士夫、小佐野賢治、岸信介ら右翼を解放し、旧体制は生き残り、アメリカを後ろ盾にすることになった。
さらに、諜報機関G2の反共主義者ウィロビー准将は、日本軍参謀だった河辺虎四郎、有末精三、服部卓四郎、辻政信らの訴追を停止し、彼らはアメリカに機密情報をもたらした。
占領末期にはCIAは緒方竹虎、岸信介、賀屋興宣、正力松太郎らに多額の援助をした。
 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

戦争直後の日本、東京を知るために、この本を読むべきだ。いかに悲惨な状態だったか、また進駐軍(昔はこう言った)の実情が良くわかる。共産党までもが「進駐軍万歳」を叫んだ理想を追う米軍から、共産主義からの防衛に主眼を置く、CIA主体の米軍に変わっていく過程が良くわかる。そして、それに協力した岸信介らの動きも。

 

終戦時2歳だった私は、当然戦後0年は知らないが、その後の混乱の時代の記憶はある。
しかし、この本で知る生々しい、おぞましい事実には驚いた。
酷い食糧難、殺人、米兵の強姦、食料、金を求めて米兵に群がる女性たち、
心が壊れた元軍人の狂った犯罪、元軍人、権力者による物資などの横流し。

 

代々木公園の一角にワシントンハイツの建物が一戸だけ残されているという。私は子供の頃、ちょっちゅう明治神宮の金網にしがみついて、よだれを垂らしてワシントンハイツを覗いていた。芝生が広大に広がる中にポツンポツンと瀟洒な家が建ち、異次元のアメリカがそこにあった。また、明治神宮の宝物殿前の芝生に、人前を気にせずに、日本人女性の上に重なりずっと動かない米兵を奇妙な光景として眺めていた(この時はよだれは垂らしていません。念のため)。

 

 

貴志謙介(きし・けんすけ)
1957年、兵庫県尼崎市生まれ。

1981年、京都大学文学部卒業後、NHK入局。ディレクターとしてドキュメンタリーを中心に多くの番組を手がけ、2017年8月に退職。

主な番組に、NHK特集「山口組」、ハイビジョン特集「笑う沖縄・百年の物語」、NHKスペシャル「アインシュタインロマン」「新・映像の世紀」など。

共著に『NHKスペシャル 海 知られざる世界 第1巻』『NHKスペシャル 宇宙 未知への大紀行 第1巻』『NHKスペシャル 新・映像の世紀 大全』(すべてNHK出版)など。

 

以下、メモ

 

敗戦直後、在外邦人は、軍人・軍属、民間人を含め、およど660万人いた。日本には、236万人の朝鮮人、5万人の中国人がいた。1946年1月時点で内地に帰還した日本人は約100万人。

 

占領軍をもてなすための終戦処理費が国家予算の三分の一にも達した。

 

敗戦直後の日本には、「経済を優に二年間支えるだけの物質があり、食料も大量に備蓄されていた」が、二週間で70%が消えて、軍人・特権階級を経て、ヤミ市に流れた。

 

日本の警察は1950年までは拳銃の所持を禁じられていた。

 

六本木には今も在日米陸軍基地とヘリポート、ハーディー・バラックスが3万平米も残存し返還されていない。米国の要人やCIA工作員は厚木基地を経由してここからパスポートなしで入国可能だ。

 

占領軍兵士の防波堤にするため「国策売春組織」、特殊慰安施設協会(RAA)が設立された。1945年8月27日大森海岸に慰安所第一号の「小野園」が開店し、応募に応じた50人のほとんど素人の女性が送り込まれた。東京だけで33か所、従業員450人、ダンサー2000人、350人の慰安婦。最盛期には全国で7万人の慰安婦がいた。

 

食料メーデーに先立つ1946年5月12日、都内で起こった「米よこせデモ」のうち、皇居前広場集まった世田谷区民大会の二千人中113名が皇居の門をくぐり宮城へなだれ込んだが起こった。天皇はどんなものを食べているのかと、宮内省の食堂に押しかけた。白米の残飯がたらいに三つ、まだ食べられる魚のアラが5、6貫捨てられていた。皇族の贅沢な夕食メニューを見て、「配給ですかね、これ」「天皇陛下がヤミをなさるはずありませんでしょう」

 

 

【目次】
第一章 東京はパラダイス 
第二章 ヤミ市のからくり
第三章 隠匿に狂奔するエリート
第四章 だれも焼け跡暮らしを覚えていない
第五章 国家が女を“いけにえ”にした
第六章 占領軍を食う成金紳士
第七章 狂乱の「東京租界」 
第八章 踊る聖女と「ミスター天皇」
第九章 アメリカに寄生した「地下政府」
第一〇章 CIAから見た、右翼の親玉
第一一章 ヴェガスの幻、上海の夢 
第一二章 犯罪都市・地獄篇
第一三章 一九四六年五月、皇居乱入
終章 それから

 

 

 

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