hiyamizu's blog

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柚月裕子『検事の本懐』を読む

2018年11月11日 | 読書2

 

柚月裕子著『検事の本懐』(宝島文庫C-ゆ-1-4、2012年11月20日宝島社発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

骨太の人間ドラマと巧緻なミステリー的興趣が見事に融合した連作短編集。県警上層部に渦巻く男の嫉妬が、連続放火事件に隠された真相を歪める「樹を見る」。東京地検特捜部を舞台に“検察の正義”と“己の信義”の狭間でもがく「拳を握る」。横領弁護士の汚名を着てまで、恩義を守り抜いて死んだ男の真情を描く「本懐を知る」など、全五話。第25回山本周五郎賞ノミネート作品。待望の文庫化。

 

最後の証人』に出てきたヤメ検弁護士佐方貞人の検事時代を描く5編からなるオムニバス。

 

「樹を見る」

連続放火事件は17件も続き、犯人への手がかりがつかめず、米崎東警察署所長の南場は会議などで、警察学校同期で、試験の成績や身体能力で劣る刑事部長・佐野にいじめられる。真面目だが不器用な南場に対し、佐野は巧みに県警本部長・小林にとりいり、南場が成果を上げるのを妨害する。

複数の火災現場の写真から新井という男が浮び、南場は家宅捜査令状(ガサ状)請求に、直接米崎地検に行き、地検刑事部副部長の筒井から担当の任官3年目の佐方貞人に紹介される。そして、13件目だけが問題となる。

 

「罪を押す」

皺くちゃワイシャツ、よれよれスーツ、ぼさぼさ髪の佐方が筒井のところに赴任し、相棒となる事務官の増田を紹介される。さっそく、累犯者・小野が起こした単純な窃盗事件の裏を探る

 

「恩を返す」

高校時代の同級生・天根弥生のために悪徳警官・勝野と佐方が対峙

 

「拳を握る」

山口地検から中経事業団疑獄事件の東京地検特捜部に応援に出た事務官の加東は、佐方と組むことになる。特捜主任刑事・竹居、特捜部長・近田、副部長・輪泉らが検察の正義のため、参考人・葛巻を探し出し、供述とれと命ずる。佐方は徹底した調査の末、求められる証言が事実ではないと確信し、……。

 

「本懐を知る」

ニュース週刊誌の専属ライター。兼先は、ネタに困っていたとき、10年以上前に弁護士なのに起訴猶予にもならず実刑を食らった弁護士がいたことを思い出した。業務上横領で逮捕された弁護士は佐方陽世、佐方の父親だ。小田島建設の創業者・隆一郎が死去後、遺産管理していた陽世が5千万円を横領したことが発覚した。金は返却したが、陽世は黙秘を貫き、控訴もせずに服役し、獄中で病死した。兼先はこの謎を追い続ける。

 

 

 

本作品は、」2011年11月宝島社から刊行した単行本を文庫化し、加筆修正したもの。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

謎解きの要素はあまりないが、警察内部の男社会の醜い争いや、恩義に報いるため職業倫理を曲げて、そのことから自らに罰を課すという感涙ものの男の矜持などは見事に描けている。

 

この小説では、佐方が、筋を絶対に曲げず、突っ張り続ける不愛想なだけの男として描かれているので、後にヤメ検弁護士として登場する『最後の証人』での優しく、情けある男としての面が出てこない。

 

 

池上冬樹の解説にあるのだが、唯川恵は「巧い小説だと思った」「主人公の佐方という検事を、さまざまな角度から描いて彼の人物像を浮かび上がらせる手法は、とても成功していると思う」と評していて、池上は、「主人公なのに脇役のように途中から出てきたり、第三者が回想で語ったりと変化をもたせているからである」と書いている。

 

 

柚月裕子 経歴&既読本リスト

 

解説を書いている池上冬樹は、「小説家になろう講座」の講師で、受講生だった柚月裕子のエピソードを紹介している。

柚月裕子は、東日本大震災で宮古の両親を亡くし、遺体を探して山形から岩手に通う日々だった。最後の三作はこの過酷な状況下で書き下ろされたという。残骸の中から父を腕時計を発見し、修理に出してみたら奇跡的に動き出した。彼女は改まった席にはこの時計を腕にはめていくという。

 

 

放火:アカウマ、放火魔:アカネコ、現行犯逮捕:ゲンタイ、警察官:サツカン、

 

秋霜烈日(しゅんそうれつじつ)のバッジ: 検察官のバッチは,紅色の旭日に菊の白い花弁と金色の葉があしらわれており、霜と夏の厳しい日差し(秋霜烈日)のように、刑罰や志操の厳しさを理想とする厳正な検事の職務を表すバッジ。(法務省HP) 

 

「かわいそうだは、惚れたってことだ」太宰治の小説の中のセリフ。

 

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