hiyamizu's blog

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米原万里『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』を読む

2016年12月20日 | 読書2

 

 米原万里著『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』(角川文庫よ22-1-y552、2004年6月25日角川書店発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

一九六〇年、プラハ。小学生のマリはソビエト学校で個性的な友だちに囲まれていた。男の見極め方を教えてくれるギリシア人のリッツァ。嘘つきでもみなに愛されているルーマニア人のアーニャ。クラス1の優等生、ユーゴスラビア人のヤスミンカ。それから三十年、激動の東欧で音信が途絶えた三人を捜し当てたマリは、少女時代には知り得なかった真実に出会う! 大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。解説・斎藤美奈子

 

 著者の米原さんが9歳から14歳(1960年から64年まで)の時のチェコ・プラハのソビエト学校の3人の友達、ギリシャ人のリッツァ、ルーマニア人のアーニャ、ユーゴスラビア人のヤスミンカに関する3編。

 ソビエト学校時代の個性的な彼女達との思い出を語り、30年以上後に彼女達を訪ね歩き、再会を果たすというエッセイ。同時に、深く知られていない激動の時代の東欧を生きた人たちの物語になっている。

 

 

「リッツァの夢見た青空」

「一点の曇りもない空を映して真っ青な海が水平線の彼方まで続いている。波しぶきは、洗いたてのナプキンのように真っ白。マリ、あなたに見せてあげたいわ」

 リッツァはと故郷ギリシャの青い空を誇らしげに語る。しかしリッツァ自身はまだ一度も見たことがないのだ。

 小学4年のとき「マリ、男の善し悪しの見極め方、教えたげる。歯よ、歯。色、艶、並び具合いで見分けりゃ間違い無いってこと」と訳知り顔で言ったリッツァはセックスに関してはクラス一の物知りだった。

 そして30年後、劣等生だったリッツァは医者になっていたが、住んでいたのはその後政情が安定したギリシャではなく・・・。

 

「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」

 共産主義を称賛し、誰にでも「同志」と呼びかけ、祖国ルーマニアに思い入れが強いアーニャ。まるで呼吸するみたいに自然に嘘をつくが、皆に愛されていた。

 30年後、アーニャは「民族とか言語なんて、下らないこと。人間の本質にとっては、大したものじゃないの。」と言い、親の特権を利用して外国に出て暮らしていた。

 

「白い都のヤスミンカ」

 常に冷静で聡明な優等生、北斎の浮世絵を熱愛するユーゴスラビア人のヤスミンカ。ソビエトからはチトー大統領のユーゴスラヴィアは修正主義者と非難されていた。国同士の狭間に子供らは挟み込まれた。その後勃発したユーゴ多民族戦争の中で、自身ユーゴスラビア人と思っているヤスミンカも両親と同じムスリム人として差別され、人間関係が壊れてしまう。

 明日にも戦火に巻き込まれるかもしれないベオグラードに住むヤスミンカは、「ユーゴスラビアを愛しているというよりも愛着がある。国家としてではなくて、たくさんの友人、知人、隣人がいるでしょう。その人たちと一緒に築いている日常があるでしょう。国を捨てようと思うたびに、それを捨てられないと思うの。」と語った。

 

 

1996年にNHKで放送された「世界わがこころの旅 プラハ4つの国の同級生」に旅の様子と、収録後に改めて訪ねた時の事が描かれている。この番組はYoutubeで見られる。(これは必見です)

 

初出:2001年6月角川書店より刊行

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

 多くに国から、個性的な子供たちが集まった学校の様子が生き生きと描かれている。さらに、子供時代の親友を、30年間に激動した東欧の中で探し歩く、その過程がミステリーを解くようであざやかだ。

 

3人の個人史でもあるが、同時に20世紀後半の激動の東ヨーロッパ史を当事者の視点であざやかに切り取った歴史書でもある。

 

斎藤美奈子の解説は、「米原万里が当代きっての名エッセイストであることに異論のある人はいないでしょう。」と始まる。左手を挙げて「そのとおり」と言いたい。

 

愛国心とは何か、その功罪について考えさせられる。

 

 

米原万里(よねはら・まり)
1950年東京生まれ。父親は共産党幹部の米原昶。少女時代(59~64年)、プラハのソビエト学校で学ぶ。東京外国語大学ロシア語学科卒業、東京大学大学院露語露文学修士課程修了。
ロシア語の会議同時通訳を20年、約4千の会議に立会う。
著書に、『不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か』(読売文学賞)、『魔女の1ダース』、本書『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』(大宅壮一ノンフィクション賞)、『オリガ・モリソヴナの反語法』(Bunkamuraドゥマゴ文学賞)http://blog.goo.ne.jp/hiyamizu72/d/20161212、『米原万里の「愛の法則」』、『マイナス50℃の世界』『ガセネッタ&シモネッタ
2006年5月ガンで歿。

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