hiyamizu's blog

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ジャージ・コジンスキー『庭師 ただそこにいるだけの人』を読む

2012年12月10日 | 読書2
ジャージ・コジンスキー著、高橋啓訳『庭師 ただそこにいるだけの人』(2005年1月飛鳥新社発行)を読んだ。

原題は“BEING THERE”。1979年タイトル「チャンス」で映画化され主演のピーター・セラーズはオスカーをとり、作者は年間最優秀脚本賞を受賞した。本書は『預言者』というタイトルで1977年に角川から出版された。

孤児となったチャンスは大金持ちのオールドマン氏の家で育てられる。知能が低いと思われ、学校にも行かず、読み書きできない。オールドマン家の庭仕事と、あとはひたすらテレビを見ていて、外へは出なかった。

オールドマンが死んで、家から追い出され、外に出たところで車に挟まれる事故に遭う。助けられ、連れて行かれた家は、大統領と親交のある経済界の第一人者ランド氏だった。
自己の利益や頑なな主義を持つ政治家たちに、チャンスは唯一の知識である庭木について語るが、これが絶妙のたとえ話ととらえられて、評判となる。やがて、極めて有能な人物として、TV出演し、世界的に有名になる。各国情報機関もチャンスの素性を調べるが白紙透明で何も出てこない。

チャンスは、外見が整い、オールドマンの上等な服を着ていて、物怖じしない態度だったので(チャンスの話しぶりは、いつも見ていたTV司会者や解説者に似てしまった)、単に庭の話が寓意的な表現であると信じられてしまったのだ。



私の評価としては、★★(二つ星:読めば)(最大は五つ星)

大人のための童話?と思っても、あまりにもご都合主義の展開には鼻白む。
ランド夫人やランド氏が素性のわからない男を自宅に滞在させるだろうか? 米大統領や各国大使が過去のない男を信用するだろうか? 抽象的なたとえ話しかしない男の話がそんなに評判になるだろうか? 否定的にとれば、とてもついていけない話だ。

しかし、以下の著者の経歴を見ると、著者自身に寓話が実在するような気もしてくる。

ジャージ・コジンスキー Jerzy Kosinski
1933年ポーランド生れ。第2次大戦勃発時、ナチスのポーランド侵攻によって、亡命ユダヤ人の両親と別れ浮浪児となる。このときのトラウマによって、5年間、口がきけなくなった。戦後、両親と再会し、ポーランド科学アカデミー助教授となる。
1957年無一文で米国に亡命。いくつものアルバイトをしながら、辞書と格闘しながら英米文学古典を読み、一日に4本の映画を見て猛勉強。
1960年にコロンビア大学在学中に作家デビュー。
1962年ナショナル・スティール創立者の未亡人と結婚し、上流社会へ。
1965年『The Painted Bird』(『異端の鳥』『ペインティド・バード』)
1969年『Steps』(『異境』)で全米図書賞・小説部門
1971年本書『Being There』(『預言者』『庭師 ただそこにいるだけの人』)
1991年、57歳で、自宅で自殺。
CIAとの関係、多くの作品がゴーストライターによるものなどと報じられた。
「訳者あとがき」にあるように、口がきけない、米国で英語が喋れないという経験が本書の「そこにいるだけ」に反映されているのだろう。

高橋啓
1953年北海道生れ。早稲田大学文学部卒後、出版社勤務。
1980年アルジェリアでプラント建設の通訳者兼コーディネーター。
ビジネス文書翻訳をしながら、仏文翻訳活動。近年英文翻訳も。


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