hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

綿矢りさ『ひらいて』を読む

2012年12月17日 | 読書2

綿矢りさ著『ひらいて』(2012年7月新潮社発行)を読んだ。

華やかで高慢な女子高生の”愛”が、”たとえ”という変な名の寡黙で地味な男子を好きになる。彼は前から同じ中学の美雪と付き合っていることがわかる。愛は間を裂こうと美雪に近づくが、・・・。傷つけて、傷ついて、あらぬ方向に進んでいく。

中ほどまでは、高校生の片思いで、内面の微妙な心理が巧みに描かれ、文章も練られている。綿矢さん、変わってないなと思ったら、なんと、・・・
従来の軽やかなタッチの作品にくらべ、途中からは愛憎渦巻き、暴走する。それでも、最後は、心をひらくことこそ、生きているあかしなのだと終わる。

初出:「新潮」2012年5月号



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

新しい綿矢さんのはじまりか?
綿矢さんの良い所は、若者の微妙な心理描写、丁寧に紡いだ文章だと思うが、今回は従来のちょっとした意地悪に加えて、暴力的な荒々しいストーリー(綿矢さんにしては)が加わった。美人に甘いおじいさんの評価でした。

丁寧に文を紡いでいく綿矢さんらしい出だし。
彼の瞳。
凝縮された哀しみが、目の奥で結晶化されて、微笑むときでさえ宿っている。本人は気づいていない。光の散る笑み、静かに降る雨、庇の薄暗い影。


素直なお嬢様と思っていたが、やはり作家。こんな記述があった。
番組のアナウンサーたちは、日本中からかき集めてきた異常犯罪を息せき切って、うれしげに報道する。コメンテーターは一方的に意見を述べ、わずか数秒で審判を下す。・・・この国はどんどんおかしくなりつつあると首をふる。・・・続報はあるようでまったくない、その場かぎりの採点システム。はい、では次のニュース。


ベッドシーンがなかった綿矢さんだが、ついに登場したと思ったら、なんと・・・で、びっくり。でも、お嬢様作家と思っていた村山由佳が、やたらと濃厚なベッドシーン連続の『ダブルファンタジー』で急展開したのに比べると、おじいさんは救われた。



綿矢りさ(わたや・りさ)
1984年、京都市生まれ。
2001年、高校生のとき『インストール』で文芸賞受賞、を受けて作家デビュー。
2004年、『蹴りたい背中』で、芥川賞を史上最年少で受賞。
2006年、早稲田大教育学部国語国文学科卒業。
2007年、『夢を与える
2010年、『 勝手にふるえてろ
2012年『 かわいそうだね?』で大江健三郎賞受賞。



コメント
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