hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

松本侑子「春の小夜」を読む

2010年05月08日 | 読書2
松本侑子著「春の小夜(さよ)」2010年3月、角川書店発行を読んだ。

帯にはこうある。
年下の青年、忘れえぬ初恋の人、野良猫、不思議な美女、孤独な少女・・・によせる、5つの愛を綴った、珠玉の小説5編。
あなたは何を失いましたか?
喪失の悲しみの胸に、さしてくる希望の光。あなたにわきあがる優しい愛、せつない涙。


夜間飛行
都合のよいときだけ黙って訪れる歳下の男性。職場でも居心地悪くなる44歳の満たされない想い。
最後のシーンが良い。以下、白字(読みたい人はマウスなどで選択すると読める)
高いわりにはしおれかかったバラの花束を買って帰り、自宅のマンションの外廊下から見上げると赤い灯を点滅させる小さな飛行機が見える。「夜間飛行」とつぶやいて見えない闇を進む飛行機に花束を高々と掲げる。

風変りな女の子
大学卒業後、20年目の集まりに九州から上京する男性。かって密かに恋した風変わりな女性は、今は華やかに活躍している。再会への期待、希望に落ち着かない4人の子持ちの電気店店主。彼女の方は?

人なつこい
恋人が去り、寂しさはないと思っていた男性が、野良猫を飼うはめになって、愛が見えてくる。

夜ごとの美女
パリの裏通りに夜毎に現れる古めかしい衣装をまとった美しい女性。思い続けて年老いた男性は・・・というメルヘン。

春の小夜
商店街で小さな本屋を営む中年男は、万引きしようとした高校生の少女の境遇を知る。妻と離婚間近な男性と女子高校生の交流の行方は?


「春の小夜」は書下ろし、他は「小説宝石」などの掲載作を改題。



私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)

暮れようとする人生が切ないが、かすかに希望の光がみえるような気がする。ささやかだが、しんみりした話で、光には陰があり、陰には遠くに灯火が見える。いや、見えるはずなのだと著者は書き、人生の秋を迎えている私達もそう信じたい。

冒頭が、「目ざめると、ベッドに英二がいなかった。脱がされたまま眠った実咲の体が冷えていた」だった。「性愛論」などもある松本侑子さんの本だから、「これはヤバイ、止めなきゃ」と思いつつ、期待は高まりつつ、念のため読み進めると、あとは普通。いやもちろん、安心しました。



松本侑子(まつもと・ゆうこ)は、1963年出雲市生まれ。筑波大学卒、政治学専攻。テレビ朝日系列「ニュースステーション」出演をへて、1987年に『巨食症の明けない夜明け』(集英社文庫)ですばる文学賞、2010年、評伝小説『恋の蛍 山崎富栄と太宰治』で新田次郎文学賞受賞。英検1級。 

松本さんがニュースステーションのお天気お姉さんとして出演していたとき、スバル文学賞を受賞した。久米さんが、「プロデューサーが、『彼女の原稿をチェックしずらくなった』とぼやいている」と言ったのを思い出す。もう、23年前のことになるのか・・・。 

日本とカナダの友情の証として戦争中薄暗い電燈の下で翻訳を続けたという村岡花子訳の『赤毛のアン』は名訳として知られるが、省略箇所などがある。松本侑子さんは、英米文学からの引用を詳解した全文訳『赤毛のアン』の翻訳本を出した。彼女は翻訳家といえるが、この文庫本を読もうとした私には、彼女は英米文学者にも思える。
この項の参考:「赤毛のアン展を見る」 

離婚経験があり、今はパートナーと事実婚をしている松本さんは、「恋愛と自立の幸福論 松本侑子さんンインタビュー」で、こう言っている。
わたしは初婚の時、遠距離恋愛で彼の暮らし振りを全然見ずに結婚して失敗しました。だから、恋愛中もお互いの生活態度をよく見ることが大切だと痛感しています。恋愛は家の外でもできるけど、結婚は家の中で衣食住をともにすることが主になってくる、という点で違いがあります。









コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする