hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

ポール・オースター「ガラスの街」を読む

2009年12月16日 | 読書2

ポール・オースター著、柴田元幸訳「ガラスの街 City of Glass」2009年10月、新潮社発行を読んだ。

宣伝文句はこうだ。
「ポール・オースターですか? 私は殺されようとしている。あなたに護って欲しい」、深夜の間違い電話をきっかけに、主人公は私立探偵になり、都市の迷路へ入り込んでゆく――。透明感あふれる音楽的な文章で、意表を突く物語を展開させ、一躍脚光を浴びることになったアメリカ文学の旗手オースターの小説第一作。


孤独なミステリー作家ダニエル・クインのもとに、私立探偵のポール・オースター(著者名と同じ)に依頼をしたいという間違い電話がかかってくる。3度目の電話に、自分がそうだと言ってしまう。依頼人は名を名乗るが、本名ではないと言う。精神を病んでいるらしい彼は父親の老教授から身を守ってほしいと依頼する。何ヶ月もただニューヨークを歩き回る老教授をクインは尾行する。そして、クインの転落が始まる。



私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)

ひょんなことから他人の名前を名乗ってしまい、ニューヨークの迷路をうろつくうちに、徐々に自分を見失っていくという変な小説だ。変な小説は、どこにでもあるが、他人の名前を名乗ることで自分とは誰かを問うことになるというテーマが一貫していて、文体が美しい(柴田さんの翻訳が、そして多分原文も)ことで、限られた人々には愛読されるのだろう。
カフカの変身もそうだが、変わった話を展開するには、本来は暗い話を、どこかとぼけてクヨクヨせず明るい語り口で語るのが必須なのかもしれない。

しかし、老教授の新世界発見に関する論文に関する話が10ページ以上も続いたり、ドンキホーテ論が5ページも続くなど、必然性は感じられるとはいえ、あきあきする。

訳者あとがきで、柴田さんが言っているが、この本は当初、17もの出版社に出版を断られたという。おそらくそれは、この小説が探偵小説の枠組みで書かれているのに、事実はいつまでの明らかにならないし、探偵の行動はどんどん不可解になっていくばかりで、原稿失格になったのだろうと柴田さんは推測する。さらに、柴田さんは追い討ちをかけて、「オースターには関係ないが、世の中で為される害毒のかなりの部分は、『無用な一貫性重視』によって為されている気がする」とまで言っている。そこまで言うか、さすが、文学者。



ポール・オースター Paul Austerは、1947年、ニュージャージー州ニューアーク生まれ。1970年に コロンビア大学大学院修了後、メキシコで石油タンカーの乗組員、フランスで農業等様々な仕事につく。1974年にアメリカに帰国後、詩、戯曲、評論の執筆、フランス文学の翻訳などに携わる。1985年から1986年にかけて、「シティ・オヴ・グラス」(本書)、「幽霊たち」、「鍵のかかった部屋」の、いわゆる「ニューヨーク三部作」を発表し、一躍現代アメリカ文学の旗手として脚光を浴びた。以来、無類のストーリーテラーとして現代アメリカを代表する作家でありつづけている。他の作品に「ムーン・パレス」、「偶然の音楽」、「リヴァイアサン」、「ティンブクトゥ」、「幻影の書」などがある。

柴田元幸(しばた もとゆき)は、1954年東京生まれ。東京大学文学部教授、専攻現代アメリカ文学。翻訳者。訳書は、ポール・オースターの主要作品、レベッカ・ブラウン「体の贈り物」など多数。著書に「アメリカン・ナルシス」「それは私です」など。村上春樹さんと翻訳を通してお友達でもある。



原著は、「シティ・オブ・グラス」として郷原宏・山本楡美子訳で角川書店から1988年にすでに刊行されており、ポール・オースターの主翻訳者を自認する柴田さんもこの本の翻訳だけはできないと諦めていた。出版界にはどうもそんなルール or マナーがあるらしい。ところが、翻訳を雑誌に一挙に掲載といる裏技で、柴田訳が実現し、今回それが単行本になったということらしい。いったい、どんなルールなんだか。





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