ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~女の懐剣と、自刃~

2012-12-12 | 散華の如く~天下出世の蝶~
うかつだった。
子供の前で、懐剣を晒すなど…。
帰蝶「これは…」
父お抱えの美濃関、鍛冶職人に造らせた懐剣。
母のお印あやめの鞘に納められた、形見の品。
市姫「それ、欲しいッ。ねぇ、頂戴頂戴」
銀の刃がねと、濃紺の美しさに目を奪われ、
一の姫様の瞳が、キラキラギラギラ輝いた。
どうしよう。困った。
帰蝶「他を買い求めて進ぜ…、」
模造刀で誤魔化して…と思ったが、
市姫「イヤ、それがいい」濃紺あやめ柄が気に入った様だ。
帰蝶「ならば、こう致しましょう」
私は、姫がお嫁に行かれる時、この懐剣をお譲りする事を約束し、
銀刃を濃紺に収め、この話を軽く、丸く穏便に対処しようとした。
市姫「えぇヤだ。今欲しい」
帰蝶「今…」
女が懐剣を持つ意味をお教えするには、未だ若く、
私の口から、女としての最期の遂げ方、絶ち位置、
自刃と、その所作法礼儀を教えるは、あまりに酷。
この難が好転するよう、駄々っ子に南天を渡して、
「…しばらく、ご辛抱なさいませ」
姫の御心を治めた。すると、
市姫「ぶぅ…」
また、不貞腐れてしまった。
さっさと懐剣を脇に仕舞い、
膨らんだ頬に手を伸ばして、
ぶぅ…、
両頬押し、口の空気を抜き、
帰蝶「見っとも無い」姫のふくれっ面を諌めた。