ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~兄の幻影と、マント~

2012-12-13 | 散華の如く~天下出世の蝶~
市姫「ねぇ。持たせて持たせて。持つだけだから」
我を通される姫様で、
帰蝶「困った姫様…」
絶対、鞘から抜かない、と約束させて、
市姫「わぁ」
私は小さなお姫様に、大切な形見を譲った。
何も知らず無邪気にあやめを見つめる姫が、
ひらり、
「どう?」
こちら向いて、ニッと笑った。
Manta
姫の真紅の袿がマントのように翻った。
その御姿が、殿の、若い幻影と重なり、
帰蝶「よう…似…おて、」
キリリとした聡明な御顔立ち、兄似の目が細く鋭く。
真紅の袿に映える濃紺、姫の美しさがさらに際立ち、
九つという年齢よりも、少しばかり大人びて見えた。
姫の、この立派なお姿を殿が拝見しようものなら…、
ゾクリと嫌な予感が背筋をすぅと通り抜けて行った。
市姫「出陣ッ」
赤い実の南天を右手にしっかと握り、左の脇に懐剣。
南天を天に掲げ、殿の御姿を、御出陣を真似られた。
子供だとて侮れぬ、観察眼。恐ろしい程、似ている。
帰蝶「さ…」
姫の、その御姿を隠す様に、左の手を握り、
「早く、参りますよ」
ぐい、強引に、小さな手から、
そのか細い腕を引っ張ったら、
市姫「イタ、痛いッ」
帰蝶「す…、すまぬ。大事無いか?」