『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第3章  踏み出す  81

2011-05-17 08:52:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 四人は、目に決意の色を漂わせてパリヌルスと目をあわせた。
 『イリオネス、いま、聞いてくれた通りだ。また、難題がおきたら相談する。この通りよろしく頼みます』
 パリヌルスは丁寧に頭を下げた。
 『判った。お互いに力を合わせて事に当たろう。では、皆、いまパリヌルスが言ったこと判ってくれたな。では、よろしく頼む。完成期日は厳守だ、テカリオンとの約束をたがえることは許されないのだ。頼んだぞ、いいな』
 彼は目にものを言わせて念を押した。皆からは力強く返事が返った。
 『おうっ!了解』
 この返事を聞いてパリヌルスがつけ加えた。
 『おうっ、皆、何か質問はあるか。あったら何なりと聞いてくれ。もし、ないのなら、これにて終わる』
 『いまのところありません』
 『では、少々早いが昼めしを食べて仕事にかかろう。オロンテス、頃合を見て、統領をお呼びして昼めしにしようではないか』
 『いいでしょう。昼めしの場は浜にしましょう』
 『判った。焚き火をしなければいけないからな』
 一同は、昼めしの準備に取り掛かった。
 『あの塩漬け肉なかなかうまかったからな。舌が食べたいと言っている。それにしてもテカリオンの奴しっかりしてるわい』
 パリヌルスは、ひとりごちた。

第3章  踏み出す  80

2011-05-16 06:49:41 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスら四人は、思いつきにまかせてわいわいがやがやと話し合っていた。程なくイリオネスとパリヌルスの二人が戻ってきた。
 『お前ら待たせたな』
 イリオネスが第一声を放った。
 『では、パリヌルス、始めてくれ』
 『おう、どうだ。雑談に花が咲いたか。これから実のなる話をしようではないか。君らも打ち合わせ会で聞いたように、造船事業に着手する。いいな。あ~あ、それから、いま、ここにいないが、オキテスが昼過ぎに帰ってくる。このメンバーにオキテスが加わる』
 『おうっ!』 と一斉に声を上げた。
 『俺とオキテスが総責任者として皆に指示を出す。設計に関しては、俺とオキテス、それにオロンテスが担当する。資材の調達はアカテス、お前が責任者だ、オロンテスに相談して指示を仰げ。舟艇を仕上げるについて、チームを3つ編成して、同期で仕事を進行させる。1チームは20名くらいで構成する。いいな。アレテス、ギアス、アカテスは各チームの長を担当する。舟艇の完成までは、今日から40日だ。いいな、完成期日の繰り延べはない。道具等の調達、組み立て場に関しては、オロンテス、お前が責任者だ、宜しく頼む。アレテス、ギアス、アカテス、即刻、チームの編成に着手してくれ』

第3章  踏み出す  79

2011-05-14 06:12:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、皆、打ち合わせ会はこれで終わる。オロンテス、アレテス、ギアス、アカテスは残ってくれ。俺とパリヌルスは、統領と回廊を一回りしてくる。ところで、お前たち四人は、造船の作業のことについて思いつくことを話していてくれ。いいな。そのあと造船の段取りについて打ち合わせる。いいな』
 三人は、座を立って回廊に向かった。
 アエネアスの言葉は、イリオネス、パリヌルス、他の者たちの労をねぎらっていた。
 『両人、造船のことだが抜かりなく、しっかりと事を運べよ。これからの交易は、アーモンドや小麦などの産物に限らず、新しい機能や働きのする製造物が取引されるようになってくるのかな。俺は、ふと思ったのだが、多くのことについて知らないと言うことに気がついた。一国の統領と言えども謙虚な姿勢が大切であり、よく補佐をしてくれる側近のいることが本当に大切であると言うことがよ~く判った。両人、ありがとう、厚く礼を言うぞ。それらがない、それらを持てないということは、盲しいた人間と同じだということだ。俺はそれを強く肝に銘じた』
 『統領の言われることは、私らの教訓にもなります。そのように言っていただいてありがとうございます。礼を申し上げるのは私どもの方です』

第3章  踏み出す  78

2011-05-13 06:50:13 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスはパリヌルスに告げて、皆のほうに向き直った。つづいてイリオネスが立ち上がり話始めた。
 『あ~、統領。先ほどからの報告のほかにもう一つ報告があります。例の『方角時板』のことです。いい値段で取引きが出来ました。この値段は、当方からの指値での取引で成立しました』
 『おっ!そうであったか。それはよかった。『舟艇』と言い、『方角時板』と言い、いい働きのする道具が、いい値段で取引されるのか。よかった、よかった。それは重畳であった』
 イリオネスがオロンテスに言って、作らせた交易に関することを書き記した木版をアエネアスに手渡した。
 『統領、この木版に交易人テカリオンと交わした交易の一切と約束事の全てを書き記してあります。この木版は、私どもとテカリオンが一枚づつ持っています。私とテカリオンがここにサインしています。お目通しください』
 『お~お、そこまでやってくれていたのか。これがあれば、互いに約束をたがえることがない。イリオネス、これはいい、お前は慎重で念入りに事を運ぶ』
 狩から帰ったアエネアスを囲んでの報告と打ち合わせは終わった。
 『イリオネス、パリヌルス、一緒に来てくれ。回廊を一回りする。つきあえ、いいな』
 『判りました』

第3章  踏み出す  77

2011-05-12 06:48:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『アレテス、話によると、メネラオスとオデッセウスはまだ、それぞれの国に帰っていないのか。奴らはこの海のどこをうろうろしているのか。俺たちが船旅に出て、海上で出会うのは避けたいのだが』
 ここでパリヌルスが話の間に割り込んできた。
 『統領、それは全く気にしないでもよろしいと思いますね。このエーゲ海、多島の海域では、嵐と座礁の危険はありますが海路を迷うことはありません。しかし、クレタの南の海域では、風で追いやられたり、沿岸の風景の見当を間違えたりしたら、船がどこに向かっているか、またまた、西へ流されたり、東へ流されたりして、広い海を当てもなくさまようのです』
 『ふう~ん、そうか。俺たちの目指すエスペリアはどこか、クレタにあるのか、はたまた、クレタのはるか西ではないのかと思っている。パリヌルス、どうだ。お前に言っておいたクレタの西についての話は、うまく聞き出せたのか』
 『それについては、テカリオンと話しましたが、彼も詳しくは知ってないようでした。いまはまだ、想像の領域を出ない話で終わっています。次の交易の折には、もう少したしかな情報を持ってくると思っていますが』
 『判った、見ず知らずの海に向かうということは大変なことだ。あとのことは頼んだぞ、パリヌルス』

第3章  踏み出す  76

2011-05-11 10:58:14 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『判った。イリオネス、この造船についてのお前の考えはどうなのだ』
 『この話が持ち上がったときにはパリヌルス、オロンテスと波打ちで人を避けて話したのです。三人で決めたことは、引き受けてはどうかと言うことになったのです』
 『パリヌルス、仕事を起こせ!一ヵ月半で3艇だないいだろう。足踏みしているヒマなぞないぞ。今日これから、即、陣容を決めて仕事にかかれ。総動員だ。覚悟してかかれ。いい船を造るのだぞ』
 『イリオネス、オロンテス、統領のゴーサインが出た。これで心強い。打ち合わせ会を終えたら、即、仕事に取り掛かる。いいな、よろしく頼む』
 『よし、了解した。ところで統領、テカリオンとの話し合いで得た情報を、アレテス、話してくれ』
 『はい、判りました。ギリシアの者どもも大変な目にあっているようです。皆も始めて耳にすることだと思うが、全く驚く内容です』 
 アレテスは、その詳細を語った。
 『何っ!アガメムノンが故国に帰り着いたところで妃と情夫に謀殺されたとはな。その他の武将たちもとんでもない目に遭って、命果てるとは、、、』
 アエネアスは、感無量といった感じで両の目を閉じた。一同は事の次第を改めて知り、見えぬ力の為す恐怖を怖れた。

第3章  踏み出す  75

2011-05-10 07:12:54 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼は前置きをした。
 『奴とは、交易人のテカリオンのことですが、このテカリオンと私とは『おい』『お前』の間柄なのです。知り合ったのは今から14~15年前のことです。彼が交易人として、まだ、独り立ちしていなかった頃からの付き合いなのです。それやこれやで、交易船から砦の浜へ彼らを舟艇に乗せて運んだのです。あの舟艇では身体を水にぬらすことなく浜にあがることができること、航走が軽快なこと、そして、船足の速いこと、この3点がすごく気に入ったらしく、私たちの使用している艇を売れと言うんです。当然、私は断ったのですが、それが出来んのなら、年内にこの浜にもう一度来るから、新しいのを造って俺に売れと言うのです。私はたかをくくって、どうせ一艇ぐらいならと思ったのですが、いやいやどうして3~4艇造れと言うのです。そこで私は3艇なら造ってやらないではないと答えたのです。そこで奴は私に言うのです。どうせ時間とヒマをもてあそんでいるのだろうと言うのです。3艇を造れというのです。まあ~、それを二つ返事で引き受けたような次第なのです』
 『う~ん、そのテカリオンという交易人もなかなかの者らしい。そこでパリヌルス、訊ねるが、造船の段取りをつけたのか』
 『それは、いま、イリオネスとオロンテスに話し合っていますが、昨日の今日です。これは先ず統領に話しをして、意向を確かめてからとなっているのです』

第3章  踏み出す  74

2011-05-09 06:53:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ここでオロンテスは、皆の顔を見て話を続けた。
 『なお、物々交換で取引した塩漬け肉は今日の昼食にみんなで食べればと調理することにしています。次に今回の交易の最大の眼目であるアーモンドの件について報告します。アーモンドは私どもが吟味に吟味に重ねて、粒を揃え、乾燥させて仕上げたものです。その甲斐あって、取引の結果は上首尾であったことです』
 『オロンテス、お前の報告で了解した。数字に関することは、改めてイリオネスから報告を受ける』
 このあとに戦利品の取引について、イリオネスの方から報告を受けた。アエネアスは言う。
 『イリオネスよ、命を賭けて得た割には、しょうのないことかも知れないな。こらえなければならんか。言われてみれば、まあ~、そのようなことかも知れんな。判った、了解した』
 いかにも残念そうに言った。
 『ところでだ。四つ目の造船と言うのはどういうことだ』
 『はい。それについては、パリヌルスのほうから報告させます。パリヌルス、報告の方を頼む』
 言われてパリヌルスは立ち上がった。彼のくせで一同をグルッと見回して口を開いた。
 『統領、この件は、私どもが考えてもいなかったことです。テカリオンがすごく執心しまして、それで商談と言うことになったのです』

第3章  踏み出す  73

2011-05-06 07:06:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 食事を終えた彼らは、茶を飲みながら狩の話に花を咲かせながら歓談した。和やかな雰囲気の中にも緊張感を漂わせて話に興じた。
 『よおっ、皆、どんなだ。それではそろそろ打ち合わせにはいろう。先ずは交易の結果からいこう。イリオネスからは重畳の結果であったと聞いている。イリオネス、始めてくれるか』
 『それでは私から』 と言ってイリオネスが立ち上がった。
 『交易は大きく分けて、3つの部門であったが、新しく発生した造船部門を含めて4つの部門として対処したことである。各部門を担当した責任者から報告してもらう。それから、情報の収集に当たってくれた二人の話を総括したいと思う。皆、いいな。オロンテス、アーモンドと産品についての報告を』
 これだけ言って、イリオネスが腰を下ろし、オロンテスが立ち上がった。
 『報告します。先ず産品について話します。これは、物々交換での取引ですが、交易人のペースでありました。交易人のテカリオンがパリヌルスの知己でもあり、交易に関して当方の立場を充分に考慮してくれたと思います。交易人のペースであったと言うのは、交易日の前夜に食事会を開き、相手方の交易産品をを食していたし、また、当方の産品も相手にアピールしておきたかったのです。その食事の場でちょっとばかり相手の産品をほめすぎた。結果として相手のつぼにはまったのではと考えられます。しかし、相対的にみて決して悪い結果ではなかったように思われます。交換比率は。1対1で相手からはプラスアルファを得ています』