せんだってに開催された 日本環境教育学会北海道支部と北海道自然体験活動推進協議会による合同フォーラムにおいて、次のような宣言をしました。
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コロナ禍の自然体験の推進について
〜いまこそ心に自然をとりもどそう!〜
2020 年は、新型コロナウィルスによるパンデミックにより私たちの日常が一変しました。この間被害を受けた皆様には謹んでお見舞いと哀悼の意を表します。
私たちは環境教育や自然体験をベースに、自然と人が共生する持続可能な未来を作るべく研究や実践に取り組んでまいりました。今般のパンデミックも一種の自然災害かと思われますが、このような自然の脅威の前では、私たちの持つ力が蟷螂の斧であることを感じざるを得ません。「3密を避ける」「マスクを着用する」「不要不急の外出の自粛」「殺菌消毒」などを徹底することは、これまで普通に行ってきた人や自然とのコミュニケーションを非常にやりづらいものにしました。そして、学校での遠隔授業や企業のリモートワークなどを始めとする多くの取り組みが「新しい日常」としてあわただしく実施されてきました。その中には、むしろ従前より効果の高いものも散見され、このコロナ禍の経験は私たちの社会から全てを奪い去ったわけではなく、いくつかは得られたものもあると感じさせます。
一方で、緊急事態宣言中の“総引きこもり状態”時には多くの場から様々なストレス症状が報告されました。自然と人とのコミュニケーションが希薄化することによって発生するこのようなマイナス面は、今や私たちのような専門家集団以外にも共有されるようになってきています。廃業の危機に瀕した全国の多くの自然学校(こどもたちなどに自然体験活動を提供する社会教育事業を行っている団体)の支援のためのクラウドファウンディングが短期間で 1000 万円を超える支援を集めたことも、この問題の社会的な関心の高さを表しているといえるでしょう。
人は自然とのコミュニケーションにより多くのことを学ぶことができます。身近なものとして自然を感じることができないままでは、自然を大切に思う心を持ったり、自分が自然の一部であることに気づいたりすることは難しいでしょう。そして、自然から切り離された状況が生み出すストレス状態は、誰しもが持っていた「人が自然と切り離された生活をすることの“不自然さ”」や「実は心の中で少なからず自然を求めていること」を私たちに改めて気づかせてくれました。このように、はからずも今回のパンデミックは、「人は自然の一部である(もともと自然の中で生きてきた生物である)」ということを私たちに実感させることとなりました。
私たちは、特にこどもたちがこのような“不自然さ”のなかで、自然に対する気づきを失ったままで成長していくことについてとても憂慮しています。みなさまにおかれましては、以下の提言などをご参考にされ、ぜひ自然とのコミュニケーションを取り戻す機会を作ることで、こどもたちの重要な育ちの場を提供することにお力をお貸しいただけるようお願いいたします。
1. 自然の中での活動は「3密」を容易に回避できます。
たくさんの人が集まる場所での活動を除き、野外での活動は密閉・密集・密接のいずれにもなりづらく、ソーシャルディスタンスも確保しやすいため安心して楽しめます。
2. 遠くの大自然に出かけなくても自然体験できます。
ウィルスは人が媒介するので、感染を広げないために人の移動がある程度制限されるのはやむを得ません。しかし、「人との接触を避ける」「居住する地域から離れた場所に移動しない」など、感染や拡散のリスクが高まる行為を避けることができれば、自然と触れ合うことに関して問題は発生しません。遠くに出かけなくても、季節を感じたり、鳥の声に耳を澄ませてみたり、雪や氷で遊んでみたりすることで、ヒトが本来持っている感覚器(いわゆる五官)を使って自然と触れ合うことは十分に促進されます。環境教育や自然体験教育の視座からは、むしろ身近な自然への気づきを高めることが重要だといわれています。人工的な公園でも季節は巡りますし虫や鳥は寄ってきます。遠くの大自然に出かけるチャンスがあればなおいいかもしれませんが、そういう状況にない時でもあなたの周りにはかならず自然(現象)があるのです。
遠くに行けない時は、こどもたちと一緒にふだん見過ごしがちな身近な自然に目を向けるチャンスです。
3. プログラムよりもまず気持ちから。
登山や川下りなど、ガイドと一緒の活動はとても充実した時間を過ごせますし、自然学校や自然ガイドでの活動は安全なだけでなく、ほとんどの団体は3密防止の中での活動に留意していますので、そういった活動に参加することについては問題ないと思われます。
しかし、そうした活動に行けなかったとしても大丈夫。近所の散歩でもいいのです。あなたの周りにも自然はたくさんあります。ガイドしてくれる人がいなくても、まずは自然と付き合ってみる気持ちを形にしてみるところから始めてみませんか?雨の日や雪の日など、普段は家にこもりがちな天気の時のお散歩は、ただ歩くだけでも新しい発見があることで
しょう。普段はあまりしないことでしょうから。
4. 遊びのヒントがたくさんの団体から出されています。
たとえば、日本シェアリングネイチャー協会は外遊びの様子を動画で紹介するなど、人と自然をつな ぐプロジ ェクトを行っています
( https://www.naturegame.or.jp/about_us/action/happylucky/ )。日本環境教育学会は、あちこちの団体が公開している自然体験・自然観察・自然遊びのヒントをホームページ上でまとめて紹介しています(https://www.jsfee.jp/general/145-covid-19/411-inforesponse-covid-19-ee)。これらの情報を活用するなどして、「コロナ禍だからなにもできない」ではなく、「今だからできる素敵なこともある」という発想で、楽しみながら心の中に
自然を取り戻していただけたらと思います。
2021 年 3 月 7 日現在
日本環境教育学会 北海道支部 支部長 能條 歩
(北海道教育大学岩見沢校 教授)
北海道自然体験活動推進協議会 代 表 高木晴光
(NPO 法人黒松内ぶなの森自然学校 代表)
賛同者 田中邦明(北海道教育大学 名誉教授)・
野村 卓(北海道教育大学 釧路校)・
田中住幸(NPO 法人あそベンチャースクール 代表)・中本貴規・
居崎時江・酒井史明・峯岸由美子(一般社団法人遊心 代表)・
河村幸子(東京農工大学)・鈴木敏正(北海道大学 名誉教授)・
山中康裕(北海道大学 教授)・三木 昇(北ノ森自然伝習所)
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