熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

準共同体的企業復活への提言・・・ロナルド・ドーア

2006年09月04日 | 経営・ビジネス
   R.ドーアが、岩波新書「誰のための会社にするか」で、今、日本企業の殆どが指向している「株主所有物企業―株主主権企業」から脱却して、「準共同体的企業―ステークホールダー企業」への復帰(?)することを提言している。
   奥田前経団連会長が「会社は株主だけのものではない、全部のステークホールダーのことを考えなければならない。」と言うのなら、大切なことは言行一致。ステークホールダー企業を定着させたいと思うのなら、今すぐ会社法改正を行う運動を起さねばならないと過激なことを言う。

   新古典派経済学を根拠とする「株主所有物企業」と、新制度派、進歩派、ポスト・ケインズ派などの非正当派の経済を信奉する社会重視派の「準共同体的企業」と区分すると、最近の日本は、益々正当派の新古典派経済学者の天下になり、その結果、「株主所有物企業」が一般形態になろうとしている。
   コーポレート・ガバナンス議論の世界は英語で、「株主所有物企業」は、母国語であるアングロ・サクソン資本主義の中核的特徴なので、株主に高度な優先順位を与える「株主価値論」が主体となる。
   一方、「ステークホールダー重視企業」は、社会民主主義思想、即ち、個人の所有権は認めるが、その所有権行使の自由も、市場における競争も、結果の不平等があまり大きくならないように国家制度によってある程度規制されることを是とする思想で、企業は公器と考えるので関係者全体の利益を考慮する。

   
   最近の商法や証取法の改正から会社法へ、M&Aやホリエモン騒動などを交えながら日本の経済社会や会社を取り巻く環境の激動を詳細に分析し、ドーアは、日本の会社のあるべき姿を模索している。
   従業員重視の準共同体的企業の日本的経営が、戦後の復興を成功させ高度経済成長を実現させた。この形態は、終身雇用と企業内訓練、会社の運命即自分の運命であると言う意識、経営者と従業員との分配がかなり公平に決められていると言う意識などを核として上手く機能し、経営者は株主から委任されていると言うよりは共同企業体の長老と言う認識であった。
   ところが、ドーアは、現在、この日本の価値と言うべき良俗が廃れて、資本提供者と一体となって利益極大を目指す経営者と、賃金の上昇にしか興味のない労働提供者の対立と言う悪夢が、企業内で再生されようとしていると言うのである。

   ドーアは、MITやハーバードで教鞭を取りながら、アンチ・アメリカなのは、英国人の所為であろうか。労使協調のドイツ制度を認めていているが、日本の監査役制度は、元々、ドイツの発想を継承したもので、それが戦後大きくアメリカ型に移行してレオポンのようになってしまい、結局、委員会制度の導入でどっちを取っても良くなってしまった。

   ドーアは、今回の商法改正・会社法成立の段階で、従業員の声を経営に反映させることを何らかの形で法的に制度化すべきであったのを、関係者は勿論、労働運動の退潮故か同盟さえもが消極的で何の有効な手も打てなかったことを批判している。
   ドイツで、取締役会を監督する監査役会の席の半分を従業員の代表で占めていることを労働組合が死守している現実を対比させて、企業の一体感が日本企業の強みであり、この協調体制の制度的な差さえを維持するためには従業員の経営参加が重要だと言うのである。

   ドーアは、「ステークホールダー企業」を目指すために3つの提言をしている。
   (1)定款のポイズンピル発動前に、経営陣から完全に独立した委員会の審査を受けることが考えられているが、この委員会を、経営陣の保身チェック・株主利益確保の機能だけではなく、すべてのステークホールダーの利益の番人、例えば、M&A審査委員会と言った組織にして制度化する。
   これに、株式持合い網の再構築も加えて、無謀な敵対的買収や株価一点張り経営からの圧力を回避出来て、企業の長期的繁栄を図った経営が可能となる。
   (2)従業員経営参加構想として、従業員代表の監査役選任乃至労使協議会の法制化。
    社内の各層別に選挙区に分けて代表者を選任し、これに、下請け代表、地域代表等を加えた「企業会議」を設立し、ステークホールダーの意向を経営に反映させる。
   (3)ステークホールダーの内、少なくとも、株主、従業員、債権者、及び国家への還元を同時に比較できる「付加価値配分決算」の開示を義務付ける。

   これだけでは無理だろうが、極めて貴重な興味深い提言であり、最近のM&Aや証券取引関係、会社法や大きく方向転換した一連の企業の動向などを考える際に、殆ど見落としていた視点からの問題提起で非常に示唆に富んでいて面白い。
   アベグレン等も、日本独自のコーポレートガバナンスの構築を提言しているが、ぼつぼつ、日本発の新しい経営学が生まれ出ても良い気がする。
   
   
   

   
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