熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

映画「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」

2024年07月17日 | 映画
   英国初の女性首相として、1979年か1990年まで英国を治めた史上屈指の政治家マーガレット・サッチャーの若年から首相退陣までの伝記映画。メリル・ストリープの熱演が、サッチャーを彷彿とさせて感動的である。
   私自身この時期に、アムステルダムとロンドンに住んでいたので、このサッチャーの映画の舞台を熟知している。
   先日、NHK BSで放映されていてその録画を再見したのだが、殆ど忘れていて、新鮮な興味を感じて面白かった。2012年にレビューしているので蛇足だが、多少コメントしたい。

   戦後、ゆりかごから墓場までと言う福祉国家の鏡であったイギリスが、1970年代後半には、行き過ぎた社会主義政策と産業の国有化などで、傍若無人のストが頻発し国民の勤労意欲が低下し、既得権益にしがみつく傾向が増長蔓延して、経済と社会がマヒして、経済社会はどん底に落ち込んだ。世界中からイギリス病と揶揄されていたこの状態から、
   たったの10年で、労働組合を叩き潰して、東京都に当たるグレイター・ロンドンを廃止して、ビッグバンなど荒療治を実施するなど大鉈を振るって大改革を敢行して、英国経済を起死回生させたのは、紛れもなく、この映画の主人公であるマーガレット・サッチャーであって、恐らく、サッチャーが登場しなければ、以降のイギリス社会の繁栄は有り得なかった筈である。
   

   サッチャーが首相になった1979年のロンドンの惨状は、次の写真のとおりで、ストでごみ収集が止まって街路は廃墟同然。
    

   

   

   そんなサッチャーも、晩年に、英国民全員一律にに税金を課す人頭税で反発を買い、著しい独裁で閣内の人望を失って排斥されてしまう。

   一人寂しく、ダウニング街10を去ってゆくサッチャーに、ベッリーニのオペラ「ノルマ」の美しいアリア『清らかな女神』が、マリア・カラスの歌声で バックミュージックとして重なって感動的。多くのスタッフに見送られて、深紅のバラの回廊をドアまで進むとフラッシュの嵐。シットリとした幕切れである。
   

   

   この映画の一つのハイライトは、アルゼンチンに占領されたフォークランド諸島を奪還するために仕掛けたサッチャーの戦争への決断。
   政治的にも経済的にも危機に陥っていたアルゼンチンが、窮地を脱すべく打った大博打。まさか、イギリスが戦争を仕掛けるとは思わなかったとアルゼンチンの大統領が述懐したと言うのだが、サッチャーの意気込みは、やはり、女性ゆえに決断できたジョンブル精神の発露であろう。
   殆ど南極に近いフォークランド海域に、経済的に疲弊していたにも拘わらず妥協策を一切拒否して、国運をかけて海軍の3分の2を派遣して戦ったと言うのだから、イギリスとしては、血の滲むような苦渋の決断だった筈であり、サッチャーが梃子でも動かない鉄の女であった査証である。また、イギリスは、ウイリアム王子を英国空軍パイロットとしてフォークランドへ派遣した。

   映画なので、夫君デニスとの実生活など興味深い逸話なども描かれていて面白い。
   政界引退後、サッチャーは認知症を患っていて、既に亡くなっている夫デニスが幻覚として登場して、そのやり取りの中で、彼女のこれまで辿ってきた政治家、妻としての半生を振り返る構成で物語が展開してゆくのが良い。

   私など、政治経済問題の方に興味があるので、もう少し、ビッグバンに沸いたシティの動向や、ベルリンの壁やソ連の崩壊など歴史的大転換時期でもあったので、そのあたりのサッチャーの動向を知りたかったと思っている。
    
   
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