はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

ララ・ハート

2007年12月16日 | まんが
 「ミイラ」というものに神秘とかロマンを感じるというのが、僕にはわからない。別に見たくもないし…と思う。僕はそう思うのだけど、ロマンを感じる人もいるらしい。
 昔のヨーロッパでは、エジプトのミイラは「薬」として使えると思われていた。どうやら本気でそう考えていたらしく、「ミイラ薬」としての乾燥人肉が売買されていた。ミイラが売れる、となれば「墓どろぼう」の出番です。ニセモノも出回ったことでしょう。


 今日はマンガの話。
 僕には10年以上前から、古本屋に行くと、必ず「ないか?」と探すマンガ本があった。それが、里中満智子『ララハート』。
 ええ、知らないでしょう、ええ、でしょうとも。古いマンガですから~。
 いや、だから探していたんです。子供の時、小学生の時以来読んでいない…もう読めない、となると余計に読みたくなるもの。でも、ないんですよね。
 『ララハート』は、僕がはじめて面白いと思った少女漫画なんですね。

 小学生の時、町に一軒、貸本屋がありました。母はよくこの貸本屋で主婦の雑誌を借りていました。漫画も少しだけ置いてありました。ある日父が、その貸本屋が廃業するというので本を安く売り出すらしい、という情報をもたらしました。父は、欲しい本があったら買って来いと言ったので、僕は妹と行ってみました。僕は手塚治虫『0マン』(ゼロマン)全巻を買い、そして妹が買ったのが『ララハート』全3巻でした。
 『0マン』は面白かった。人類と、ヒマラヤに隠れて住んでいた「リス人間」(これが0マン)との戦いを描いた壮大な物語でした。マンガの面白さを僕は十分に堪能しましたが、それを読み終えると、興奮でますますマンガを読みたくなり、「少女マンガなんて」と思っていた頃なのですが、妹の『ララハート』にも手を出しました。そしたらこれも、ええ、ずいぶん新鮮で面白かったのです!
 これは里中満智子の初期の作品で、今の彼女の作品の印象と違って少女っぽさの「まぶしい」作品です。「それがいいのだ!」なのですが、里中さん自身にとっては「恥ずかしい作品」なのでしょう、作品集には入れていません。僕にとっては「これぞ里中満智子の代表作」なのだけれど。里中さんがそれを全集に入れないために、ずっと読むことができないでいました。


 ところが、ある日、出会ったのです!
 5年以上前のことになります。その日、突然、なにかすごく寂しい(理由はない)気分になったことがあって、どうしよう…と思ったのです。こういう時にお金を使うのは結局、後でさらに落ちこむものです。ギャンブルにせよ、女がらみの店にせよ…。だからじたばたせずに部屋に帰って眠るのが正解だ…と理性では思っていても帰る気になれない。それで、僕はどうしたか。漫画喫茶に入ったのです。苦しまぎれという感じで。僕は漫画喫茶を利用することはほとんどないのですが、これなら安くつきます。気分が晴れるかどうかはわかりませんが。ただ、僕の場合、漫画喫茶で読む漫画ってほとんどないのです。
 ところが…!!
 出会ったのです! 里中満智子『ララハート』に!
 探してもみつからなかった漫画にこんなところで出合うとは! 僕はおよそ30年ぶりくらいに、内容もよくおぼえていなかったその少女マンガを読んだのでした。そのストーリーは…

   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 さて、そのマンガは、お金持ちの財閥の娘ララ・ハートの学園恋愛コメディです。昔の少女マンガというのは、半分くらいは「外国もの」でしたが、このマンガもそうで、だから主人公ララ・ハートも外国人。ただし、ララが恋する相手ムサシは日本人。ハンサムで、正義感があって、頭が良くて、性格も良し。(…やってられませんな。) ララのほうも大金持ちの娘。でもって恋も順調…。
 そんなマンガのどこが面白いのか? いえいえ、そこがいいのです。その明るさ、貧乏くささや不幸を微塵にも感じさせないお気楽さ! 
 このマンガ、最初は学園寄宿舎ラブコメなのだけど、そのうちララの恋人ムサシが、「僕は薬の研究者のなりたい。そして『どんな病気でもなおす薬』を発明する。そうすればみんな幸せになれるだろ?」と言い出します。そうしたらララは、「すごいわ、それはいい考えだわ!」と目を輝かせて応えます。恋は盲目、バカップルとしかいいようがないんですが…。 あるわけないじゃん、そんな薬~。(←常識あるオトナの声)
 ムサシはさらにいいことを思いつきます。「エジプトのファラオの墓には『どんな病気でもなおす薬』があったそうだよ。僕は探しに行こうと思うんだ!」 するとララ「それはいい考えだわ! 私も行くわ」
 そういうわけでお気楽カップルはエジプトの砂漠へ。ミイラでも探すんでしょうか? この旅には、二人の恋路をじゃましようとする人間もついていくんですが、そんな障害にこのバカップルが負けるわけがありません。なにせ主人公ですから。ええ、バカップルで主人公だと無敵です。
 そして二人はついに「ファラオの墓」のたどり着きます。ああ、しかし… 残念なことにファラオの「薬」はすっかり空なのでした。がっくりとひざまづくムサシ。一緒にがっくりするララ・ハート。しかし悩んだ時間わずか10分(推定)。あっという間にムサシは立ち直ります。(なにせ性格が前向きですから!)
 ムサシ「ファラオの薬になんて頼ろうとした僕が間違っていた。僕は自分で研究してつくるよ『どんな病気でもなおす薬』を。きっとつくってみせる!」
 それを聞いてララも一気に瞳をキラキラさせます。「そうね! それがいいわ! わたしも協力するわ!」と、ますますムサシに惚れるララ。
 ムサシ「ありがとう! よーし、やるぞー!」
 こうして、二人の愛はいっそう燃え上がります。
 さて、その後。二人は結婚して、ムサシの『どんな病気でもなおす薬』は完成し、もともと大金持ちの娘だったララですが、いっそうの大金持ちになり、世界から病気はなくなり、そして二人は仲良く暮らしたのでした。
        END
   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 という、なんとも信じられないほどの、能天気な話なのです。常識ある人間が読むとクラクラします。こんな能天気な話を里中満智子は描いていたのである。今では考えられないが。
 漫画家里中満智子は17歳高校生でプロデビュー。その後、編集者との結婚と離婚を経験しています。さすがに離婚を経験した後では、『ララハート』のような話は描けないでしょうね。里中さんはその後、大作『あした輝く』で一流作家に成るんですが、そこには大人のもつ「苦さ」がしっかりとマンガ世界に入り込んでいます。
 自分の幸福な未来になんの疑いもなく前進する、というララ・ハートの姿は、大人になって観れば、眩しい。
 『どんな病気でもなおす薬』とは、しかし、大きくでたもんだ。一流になる人は、スケールがでかい。
 なんにせよ、僕の少女マンガのルーツは、これなんです。 


 その漫画喫茶での出合いから1年後、僕はまた読みたくなり、行ってみました。そしてオーナーと交渉しできるなら『ララ・ハート』を譲ってもらおうと考えていました。ところが…!
 その漫画喫茶、つぶれていたのです! ああ! なぜ、あの時に買取りの交渉をしておかなかったのか!? ショックを受けつつ同時に僕は思ったのでした、これも運命、また会うこともあるだろう、と。


 そして今日。
 前日にエジプトの探検の話を書いたので、そのつながりで『ララハート』のことを書いたのですが、それで、絵を描くためにネットで調べてみたら…  なんと! これ、手に入るじゃないですか! 絶版のコミック本を注文を受けてその分だけ印刷して売る…今はこんなことが出来るんですね~!  さっそく注文しました。1冊945円。
 うーん、思っていればいつか願いは叶うって、ほんとうかもしれないな。なんだか日本のどの古本屋にもなかったマンガ本が、エジプトの砂漠でみつかったような気分です。


 なお上に書いたストーリーは、記憶に頼っていますので、かなり捏造しているかもしれません。ご了承くださいませ。
 それにしても今日の絵は苦労した。里中さんの絵を真似て描けばカンタンだろうと思っていたが、甘かった。目と顔の輪郭と鼻と口のバランスがチョー難しい!(←そこが少女漫画のいのちなんだな) 結局、まねてもダメなので、自分流のバランスで描いた。6回くらい描き直した。

 「コミックパーク」での『ララハート』の評
  ↓
 [おすすめ評価]
 超大金持ちのオテンバ令嬢と日本男児のカッコイイ先生、愛し合う二人の前にたちはだかる政略結婚、美人のライバル、東西文化の壁…。睫毛の濃さはリカちゃん人形というよりジェニーちゃんの華やかさ!瞳に星を浮かべながら読みましょう。

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