中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

「となりのトトロ」のサツキちゃん

2009年01月13日 | 映画
 朝日新聞ブログ「世界史レッスン<映画篇>」の新年第1回目の今日は、「歌手から宮廷人へ」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2009/01/post-5a5b.html#more
 カストラートの代名詞的存在、ファリネッリについて書きました。

 2,3日前から風邪気味で今も薬を飲んでぼわ~としているので、数年前、某雑誌に書いた原稿の再録でお茶を濁させてくださいまし。以下ーー

< アニメはこれまでほとんど見なかった。
「となりのトトロ」も、実は少しも見たくなかったのに、評判だからと友人に無理やり連れてゆかれたのだった。

 11歳のサツキと4歳のメイという姉妹が、父親といっしょに田舎のお化け屋敷のような古い家へ引っ越してくる。母親はどうやら病気で入院しているらしい、という導入部から、はらはらし続けた。

 ふたりとも等身大の子どもそのものだったし、今のところ非常に自然にふるまってはいるものの、どうせもう少ししたらわざとらしく嫌らしい大人こどもに成り下がるに違いないし、母親の病気をめぐって観客に涙を流させるため、むやみに弦楽器をすすり泣かせるに決まっていると、疑わしさでいっぱいだったのだ(嫌なお客ですね)

 ところがいつの間にか、それこそ疲れていつ寝入ったかわからないというのに似て、気づかぬうちにすっと映画の中へ入り込んでいて、しかもサツキに自分を重ねていた。メイが「お姉ちゃん」と呼ぶたび、返事しかねないほど感情移入してしまっていた。

 というのも、わたしにも年の離れた妹がいて、両親から「あなたはお姉ちゃんなんだから」といわれて育ち、どこへ行くにも妹を連れ歩き、自然にその世話をしてきたからだ。

 おまけにサツキと近い年頃に、母親が入院して心細かったという体験までしている。そういうときの子どもは、ふだんより少しテンションが高い、というか、明るくふるまうものなのだ。

 心配ごとなど気にしてなんかいないというように、そもそも心配ごとなど全くないかのように、明るく楽しそうにふるまう。まさにこのふたりの姉妹みたいに。

 でももちろん心の奥底では不安でしかたがない。いつだって最悪のことを心配している。だから母親の一時退院が数日ずれこんだだけで、それまで抑えていたものがいっきょに噴き出てしまう。

 サツキがお姉ちゃんであることを忘れて泣きじゃくった時、わたしも昔にもどって嗚咽せずにはおれなかった。一方で、姉の涙をみた妹が、逆に涙もみせずにひとりで行動し始めたのを、非常な感慨を持って見た。ほんとうにこのとおりなのだもの。
 
 そしてこのような姉妹のありようを、映画の両親もきちんと認めてくれていることが、我が事のように嬉しかった。

 あー、そうであったよなあ。子どもというのも、これはこれでけっこう人生と真剣に戦っていたのだった、と見終えてかつての自分が愛おしかったし、生きていることの素晴らしさを素直に感じられたのでした。 >

 --というわけで、今やわたしも宮崎アニメのファンです♪


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