中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

『カラマーゾフの兄弟』、モーム式読み方(世界史レッスン第76回)

2007年08月21日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」第76回目の今日は、「カラマーゾフ兄弟の父は実在した?」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2007/08/post_cfc5.html#more
 領地の農奴たちに虐殺された、元医師の地主にまつわるエピソードについて書きました。

 ところでドストエフスキー最高傑作とされる『カラマーゾフの兄弟』だが、三島由紀夫は次のように言っている、

 「『カラマーゾフの兄弟』のような、おそろしい人間精神の深淵を切り開いて見せた小説は、とても引退した老政治家が炉辺で読むには適しない。それは青年を悩ませ、苦しめ、あるいは鼓舞するような文学なのである。そしてかつてハイネがいみじくも言ったように、青年を決して鼓舞しないゲーテのような文学は、いかに古典的に完成していても不毛にすぎない、という見方が生まれてくる」

 確かにドストエフスキーは青年の、それも男性向きの小説のように思われる。少なくともわたしには読むのはかなり苦痛だった。長すぎ、迂遠すぎて・・・

 するとモームが『読書案内』にこんなことを書いていた。

 「人間の魂に可能な悲劇的冒険と破壊的経験を、これほど同情をもって、またこれほど力強く取り扱った作品をわたしは他に知らない」

 絶賛しているのだが、にもかかわらず、

 「終わりの数章は、倦むところを知らぬ読者でもなければ、とうてい完全には読めるものではない。わたし自身のことを言えば、法廷の場面で弁護士に述べさせている論告など、精読する気にはとうていなれず、ざっと目を通しただけであった」
 「人々の好みが変わったため、優れた書物であっても、そのある部分は、現代の読者にとっては退屈でしかない」
 「とばして読む権利を用いた方が、いっそう楽しく読めるはずだ」

 説得力あると思いませんか?


☆『怖い絵』、出版から1ヶ月。おかげさまで重版が決まりました。どうもありがとうございます♪
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怖い絵
怖い絵
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中野京子 朝日出版社 (2007/07/18)


①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」


 
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9 コメント

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確かに (ゆうひ)
2007-08-21 20:06:01
納得です。
でも、ロシアの小説って、そもそも「長く、暗く、過酷な冬」の時間潰し的存在のような気もするので、それはそれでOKなのかな、って気もします。。
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Unknown (ゆうひさんへ(kyoko))
2007-08-21 22:01:38
風土はすごく関係しますよね。初めてロシアへ行ったとき、ああ、こういうところだからこそ、と感じました。
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とばし読み (tosi)
2007-08-22 10:10:04
 モームはいいこと言いますなあ。

 確かにあの最後の法廷シーンの陳述は長々しくて、読んでいるうち眠くなってしまった。

 おまけに新しいことが書いてあるわけではなくて、それまでと同じ繰り返しなんですから。わたくしもとばし読みすればよかったです。
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Unknown (tosiさんへ(kyoko))
2007-08-22 19:49:40
お久しぶり♪
法廷シーン、無意味に長いですよね~、やっぱり。ロシア映画にもときどきそれが感じられますが・・・
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飛ばし読み (おぺきち)
2007-08-23 11:53:57
中野さま

いつも楽しく拝読させていただいております。遅くなりましたが、リンクさせていただいてます。
私も最初の章くらいで、読めませんでした。
最後まで読破できなかったので、飛ばし読みだったらいけるかもと
勉強になります。

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Unknown (おべきちさん(kyoko))
2007-08-23 12:46:49
人間関係と同じで、文学にも相性がありますよね。
わたしもロシア文学で唯一2度も読んで面白かったのは、ゴーゴリ「死せる魂」だけでした。でも好みは変わるので、今後どうなるかわかりませんが。
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なんでも長いロシア (Masako)
2007-08-24 09:24:34
ロシア正教会の日曜礼拝(カトリックのミサに当たるもので、聖体礼儀といいますが)は最短で3時間、その中で何度も何度も同じ祈りが出てくるので、これはムダではないかと、ある敬虔なるロシア人信徒に聞いたところ、同じ祈りを繰り返しながら、波がうねるようにクライマックスへと全体が向かっていくのだという回答でした。

彼の説明では、祈りと集中ということに関して、人間の生理にかなうように構成されているということでしたが。近代合理主義とは違った「文法」がロシアにはあるんですね。「うひゃ」と驚くことばかり。

「カラマーゾフ」は亀山郁夫氏の新訳が評判なので、
私も再読してみようと思ってます。
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飛ばし読みしつつ (パセリ)
2007-08-24 09:36:21
ドスト派のわたくしも、飛ばし読みいたしました。
そうしながらも、あるところで、妙に魂を揺さぶられるのです。それがなににもかえがたく、日記・書簡のたぐいを除き、全部読みました。
再読したいと思っていますが、もう「飛ばし読みする元気もない」というところでしょうか。
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Unknown (Masakoさん&パセリさんへ(kyoko))
2007-08-24 10:53:33
Masakoさん、
 最短3時間、そしてうねるようにクライマックスへ、というとまるでヴァーグナーですね。眠くなるような、恍惚を感じるような・・・
 あ、でも仏教の声明(しょうみょう)も似ているかも。長さとしつこさでは負けるかな?

パセリさん、
 ドストエフスキー・ファンなんですね。長さに辟易しつつ「魂を揺さぶられる」箇所があるから、やみつきになるということでしょうか。全部読んだというのは、凄い!パセリさんの人生に、ぐっさり突き刺さっているということですね。
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