中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

『グランド・ブダペスト・ホテル』にブダペストは出てこない

2014年06月10日 | 映画
 先日、いつも忙しくてなかなか時間のとれない友人と急遽ランチして、映画を見ようということになった。さて、何を見るか?  

 彼女とはいっしょにブダペスト旅行をしたし、共にレイフ・ファインズ・ファンでもあるので「グランド・ブダペスト・ホテル」にしよう、と。  

 でもブダペストは出てこなかった。ディズニーランドのような、いかにも作りものめいた、どこにもない町のお話。  

 とはいえかつて栄華を誇り、有名な温泉地があり、ナチスに蹂躙され、戦後共産化した過去を持つのだから、ブダペストがイメージされてもおかしくはない。  

 軽快なテンポで楽しく可笑しく、御伽噺のように話は進む。前半、とっても面白い。でも正直、ずっと同じ調子なので中盤はやや飽きる。。。と思ったら、後半、苦い苦い転調が待っていた。これまでの語り口は、この苛烈な歴史を敢えて甘いクリームにまぶしていただけとわかった瞬間、忘れ難い映画へと変貌した。  

 豪華出演陣も楽しめる。ティルダ・スウィントンがまさか90歳の役でしかも出てすぐ殺されるとは思わず、全然彼女と気づかなかった。ジェフ・ゴールドブラムもヒゲと眼鏡で別人に。。。  

 エイドリアン・ブロディとウィレム・デフォーは儲け役。かなり笑えます。そして二枚の名画(?)も意味深に出てきますよ~  

 エンドロールにシュテファン・ツヴァイクの名が! 原作があるのかなと思い、パンフレットでチェックすると、監督(ウェス・アンダーソン)がインスパイアされたということだった。  

 ちょっとショックだったのは、このパンフレットにツヴァイクのことが「現在の文学界ではほとんど顧みられることがない」と書いてあったこと。それはアメリカだけの話ではないの。ヨーロッパでは読まれているし、日本だって彼の「マリー・アントワネット」は数種類の翻訳版がでて、しかも版を重ねている。わたしの訳した角川文庫版もつい昨年末に6刷目になりました。「ほとんど顧みられない」とは何ごとじゃい! (つい腹を立ててしまう)


☆☆☆今後の講演会予定 ・7月12日(土)13;30~  よみうりカルチャー恵比寿教室「オルセー展記念講座」 http://www.ync.ne.jp/ebisu/2014/05/_71213301500.html

・7月26日(土)13:30~  NHKカルチャー青山教室 http://www.nhk-cul.co.jp/programs/program_941859.html

・7月27日(日)14時~  岐阜市生涯学習センター http://www.ip.mirai.ne.jp/~heartful/gakusyu/kouza/PDF/0727meiga.pdf

・9月6日(土)  クラブツーリズム新宿 http://www.club-t.com/theme/ct-festival/

・10月15日(水)  集英社主催高校講演。愛媛の高校2校

☆最新刊「名画に見る 男のファッション」(角川書店) 名画に見る男のファッション (単行本)

☆「橋をめぐる物語」(河出書房) 中野京子が語る 橋をめぐる物語

☆「中野京子と読み解く 名画の謎 陰謀の歴史篇」(文藝春秋) 2刷になりました♪ 中野京子と読み解く 名画の謎 陰謀の歴史篇   「青い日記帳」さんによるご紹介はこちら♪ ↓ http://bluediary2.jugem.jp/?eid=3478  

☆「残酷な王と悲しみの王妃」(集英社文庫) 3刷になりました♪ 残酷な王と悲しみの王妃 (集英社文庫 な)

☆「怖い絵」(角川文庫) 単行本に新しく書き下ろし2作を加え、全22作品です。4刷になりました♪ 怖い絵  (角川文庫)

☆「はじめてのルーヴル」(集英社)2刷になりました♪ はじめてのルーヴル

☆「名画の謎 旧約・新約聖書篇」(文藝春秋)  4刷になりました♪ 産経新聞書評⇒ http://sankei.jp.msn.com/life/news/130120/bks13012008280003-n1.htm 中野京子と読み解く 名画の謎 旧約・新約聖書篇 ↓ 「弐代目 青い日記帳」さんが取り上げてくださいました⇒ http://bluediary2.jugem.jp/?eid=3088

☆「怖い絵 死と乙女篇」(角川文庫) 5刷になりました♪ 怖い絵  死と乙女篇 (角川文庫)

☆最新刊「名画と読む/イエス・キリストの物語」(大和書房) 3刷になりました♪ ○藤井フミヤさんがファン会報誌で推薦してくださいました♪ ○日経新聞ブログ「丸の内ブック街」でも御勧めしていただいてます♪ ↓ http://book.marunouchi-office.jp/recommend/003903.html 名画と読むイエス・キリストの物語

☆「マリー・アントワネット 運命の24時間     ~知られざるフランス革命ーヴァレンヌ逃亡」(朝日新聞出版社)  新聞評⇒http://chroniclelibrary.blogspot.jp/2012/04/asahi-shohyo_5455.html       マリー・アントワネット 運命の24時間 知られざるフランス革命ヴァレンヌ逃亡

☆「危険な世界史 運命の女篇」(角川書店) 2刷中。 危険な世界史 運命の女篇

☆「危険な世界史 血族結婚篇」(角川文庫)6刷になりました♪ 危険な世界史 血族結婚篇 (角川文庫)

☆「怖い絵 泣く女篇」(角川文庫)~「怖い絵2」の文庫化~ 9刷になりました name="amazletlink" href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4043940025/hanatumuhiton-22/ref=nosim/" target="_blank">怖い絵 泣く女篇

☆『中野京子と読み解く 名画の謎 ギリシャ神話篇』(文藝春秋) 6刷になりました♪  中野京子と読み解く名画の謎 ギリシャ神話篇 (画像をクリックするとアマゾンへゆきます) 文春「本の話」から、「自著を語る」(「謎が解けたら、絵画は最高のエンターテインメントになる」)はこちら ↓ http://www.bunshun.co.jp/jicho/1104nakano/index.htm

☆「印象派で「近代」を読む ~光のモネからゴッホの闇へ~」(NHK新書)2刷になりました♪ 印象派で「近代」を読む―光のモネから、ゴッホの闇へ (NHK出版新書 350)

☆「『怖い絵』で人間を読む 」(NHK出版生活人新書) 10刷になりました♪ 「怖い絵」で人間を読む (生活人新書)

☆「名画で読み解く ハプスブルク家12の物語」(光文社新書) 16刷になりました♪ 名画で読み解く ハプスブルク家12の物語 (光文社新書 366)

☆「芸術家たちの秘めた恋 ―メンデルスゾーン、アンデルセンとその時代 (集英社文庫) 芸術家たちの秘めた恋 ―メンデルスゾーン、アンデルセンとその時代 (集英社文庫 な 53-1) 「週刊朝日」書評⇒ http://book.asahi.com/reviews/column/2011100300004.html

☆光文社新書「名画で読み解く ブルボン王朝12の物語」4刷になりました♪ 名画で読み解く ブルボン王朝 12の物語 (光文社新書 463) 

☆「怖い絵」16刷中。 怖い絵

☆「怖い絵2」、9刷中。 怖い絵2

☆「怖い絵3」 6刷中。 怖い絵3

☆「おとなのためのオペラ入門」(講談社+α文庫) おとなのための「オペラ」入門 (講談社プラスアルファ文庫)

☆「恐怖と愛の映画102」(文春文庫)    恐怖と愛の映画102 (文春文庫)

☆「歴史が語る 恋の嵐」(角川文庫)。「恋に死す」の文庫化版です。 歴史が語る 恋の嵐 (角川文庫)

コメント (11)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 東京新聞でも「橋をめぐる物語」 | トップ | ベニクラゲと若返り »
最新の画像もっと見る

11 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
グランド ブダペスト ホテル見ました (たまうさ)
2014-06-10 22:20:36
大好きなレイフ ファインズが出るので、てっきりティルダ スゥイントン扮する人妻と不倫するのかと思いきや、コメディなのでちょっとガッカリ(?) 中盤に居眠りしてしまって、話が上手く理解できなかったのが残念でした。
返信する
ジェルボーにて (mimi)
2014-06-11 09:37:59
4月に友人がハンガリー人の知人のお里帰りに同行。お土産にGERBEAUDの焼き菓子とパプリカ(香辛料)その他を頂きまして・・・
パプリカってどんなお料理に使うの?と聞くと、友人がグヤーシュスープがいいよ。と
GERBEAUDブダペスト店でもハンガリー人のおばあさんのおうちでも食べたけど・・・日本の豚汁みたいよ(グヤーシュは牛肉)説明されても???
そこで、青山のGERBEAUD東京本店で実食。
真似できるかは分からないけど、グヤーシュとラーンゴシュ(揚げパン)をハンガリー旅行のお話しを聞きながら美味しく食べました。
その時、架空の国のお話し「グランド・ブダペスト・ホテル」の話題も!
多少のネタバレ・・・見てみます(笑)

p.s.
スペインのレオノール王女可愛いですね。
幸あれ
返信する
Unknown (うさこママ)
2014-06-11 15:44:41
「百物語」、さいたま芸術劇場の発売は来週末なので、多分ゲットできるでしょう。
7月よみうり恵比寿の講演は既に満員で、キャンセル待ちで申込み、NHKカルチャーの方は旅行直前なので、同じロマノフ王朝がテーマの9月クラブ・ツーリズムを予約しました。3年越しのパリ・ブリュッセルに向けて、準備と予習が楽しみです。
返信する
Unknown (みなさま(kyoko))
2014-06-12 21:31:16
たまうささん
 レイフ・ファインズなら恋愛映画と、ついつい刷り込まれてしまってますよね~ ふふふ。

mimiさん
 >日本の豚汁みたい⇒うむむ。お料理の比喩は難しい。南米の蝙蝠スープは、とろろこぶ汁?うわあ。

うさこママさん 
 講座に二つもいらしてくださるとのこと、嬉しいです。恵比寿は教室の規模が小さいため、早々と満員になってしまったんです。ごめんなさい。
返信する
少年と林檎について (タピオカ)
2014-06-13 07:47:11
初めて書き込み致します。中野さんの本をいつも楽しく拝読しております。

私も本映画は非常に面白いと感じましたが、劇中に出てくる掲題の絵画について、疑問に思った点がございましたので、大変恐縮ですが質問させてください。

この絵はどうやらブロンツィーノやホルバインといった画家を意識して描かれたようなのですが、この少年が林檎を摘まむ手の形がフォンテーヌブロー派の逸名画家の(作品とされる)「ガブリエル・デストレとその妹」に出てくる「あの手」にそっくりなような気がしています。(この点に関しブログを書きましたので、宜しければ上記URLをご参照ください)

中世ヨーロッパ(特にマニエリスム期)において、こうした形で手が描かれるのは一般的だったのでしょうか?
返信する
コメント一部訂正 (タピオカ)
2014-06-13 07:48:56
>上記URLをご参照ください

URLを登録すると名前にリンクが貼られるのですね。大変失礼致しました。
返信する
Unknown (タピオカさん(kyoko))
2014-06-15 11:58:51
 ご訪問、ありがとうございます♪
 わたしもこの独特の指は「デストレ」とそっくりだと思いました。妹がつまむ左手を、手の甲側からではなくて手の平側から描くとまさにこうなりますね!
 ブログ、楽しく読ませていただきました☆
返信する
「怖い絵」ファンでよかったと思えた映画 (かなべ)
2014-06-25 23:15:05
ブログやご本、いつも楽しく拝読しております。
「怖い絵」を手に取ってから、中野さんのいざなう様々な物語の魅力にすっかりのめり込んでしまいました。
それまで美術や歴史にさしたる興味もなかった私でしたが、最近では美術展に足を運ぶことも増え、素敵な作品を目にするたびに
「あっ、これは中野さんが紹介されていたアレだな~、こっちは何かな~」
とおぼろげながらも楽しめるようになってまいりました。

中野さんのご紹介をきっかけとして、この頃は少し古い映画を観る機会も増えました。
「恐怖と愛の映画102」も拝読しました。以前観たものは「こんな見方もあったのか~」と新鮮に思い、未見のものは積極的に鑑賞したりと楽しませて頂いております。

「グランドブダペストホテル」観てきました。
絵本のような砂糖菓子のような色彩、クスクス笑ってしまうストーリーなのになんだか寂しいようなお話だったな…と思っておりましたところ、こちらの記事を拝見して納得しました。

ナチスに翻弄された歴史の陰惨さを、甘いクリームで包んだとの評がとても腑に落ちました。
不勉強なものでモデルとなったツヴァイクについてもほとんど知らなかったのですが、とても興味が湧いてきましたので、ぜひ「マリーU+2022アントワネット」から拝読してみたいと思います。笑

作中登場したなかで印象的だったのが、林檎と少年の絵の代わりに飾られていたシーレ風の絵画でした。
「怖い絵」で紹介されていたシーレの「死と乙女」のエピソードは、シリーズ中1、2を争うほど好きなお話です。
(ゴヤ「我が子を食らうサトゥルヌス」も同じく大好きです。正気を内包しつつも狂気に走らざるを得ない悲しみ、という観点に目から鱗でした)

このシーレ風の絵が出てきた瞬間、あっ、と思いました。
ヒトラーが不合格であった美術学校のエピソードなどを思い出し、一つ一つのモチーフに込められた細やかさに驚くと同時に、「怖い絵」ファンでよかった…とつくづく感じた一日となりました。笑

これからも中野さんの素晴らしいお話を楽しみにしております。


返信する
シュヴァイク (干しアンズ)
2014-06-27 18:50:33
こんにちは。私もシュヴァイクが「殆ど顧みられない」にはびっくりしました。
えっ、フツーに文庫本売ってるじゃん(中野さんの本を含めて)と思った。
私は昔「ジョセフ・フーシェ」を読んだだけですが、夢中になって徹夜で読んだ記憶があります。

とは言え、この映画はとても面白く、これを観てまたシュヴァイクの事が気になり、ついつい「昨日の世界」を買ってしまいました。
1巻2巻あわせて6000円以上はちときつかったですがw
返信する
Unknown (かなべさん&干しアンズさん(kyoko))
2014-07-01 09:46:56
かなべさん
 拙著をきっかけに美術館へ足を運んでくださるようになったというのは、著者冥利につきます。とっても嬉しいコメント、ありがとうございました! 励みになります♪

干しアンズさん
 ツヴァイクのは文庫がでないのが不思議ですよね~ 権利関係があるのかもしれませんね。短編小説なんかものすごく面白いのに残念です。
返信する

コメントを投稿

映画」カテゴリの最新記事