スポーツ音痴のわたしでも、連日報道される大相撲八百長問題には全く無関心ではいられない。たまたま「Number773」号の、奥田英朗氏エッセー「どちらとも言えません」を読み、とても面白かった。
彼は「相撲ファンでもなんでもない」のだそうだが、今回の件は「適当なところで許してやっちゃくれないか」と書く。「日本古来の伝統芸能として、なくすにはあまりに惜しい」。
そして話は野球へと転じ、1988年のドラゴンズ・リーグ優勝の思い出を辿る。
最後の試合、ドラゴンズは序盤からヤクルトに大差をつけ、ほぼ優勝は確定的となった。郭源治投手は相手の秦選手からツーアウトを取り、あとアウトひとつ取ればいい、というところで早くも泣いてしまう(シーズン中に愛弟を亡くすなどセンチメンタルになっていたらしい)
以下、奥田氏の文章を引用しよう、
「中日ファンは、ストライクはとれるのかいなとハラハラしながら観ていたのだが、最後のバッター、秦選手が実にナイスな男であった。ボール球をうまく空振りして、三振に倒れてくれたのである。かくして感動のフィナーレ。わたしの頭の中には「秦はいい奴」とインプットされている」
「結局のところ、「花をもたせる」ということがわからない人間は、スポーツ界ではやっていけないということなのである」
スポーツ界だけではないな、とわたしは思った。
もうだいぶ昔だが、オペラ界のスーパースターが世界を引退ツアーしていたころの話を思い出したのだ。
日本での「アイーダ」公演のとき、タイトルロールを歌う彼女の声は見る影もなく衰えていたという。一方、伸び盛りのメゾソプラノははるかに彼女を凌駕し、二重唱では完膚なきまでに叩きのめす、という感じだったらしい。
しかしオペラを実際に観た人の多くが、なんとなくこのメゾソプラノに反感を持ったことは評を読んで感じられた。
かつての輝けるスターが老いを自覚して引退を決め、それでも最後にもう一度彼女の声を聴きたいという多くの観客の前に立つ。以前は軽々と出ていた高音をもはや出せないことに、一番口惜しがっているのは本人であろう。しかしファンは、彼女の今の声の向こうに、かつての彼女の声を重ねて聴いているから、それを許す。いや、それを半ば忘れる。
そこへ「花をもたせる」ことを知らない若きメゾソプラノが、彼女より高い声を出し、彼女がもう伸ばすことのできないところからさらにさらに声を伸ばして圧倒する……
新しいスターが登場したことはアリアを聴けばじゅうぶんわかることなのだから、二重唱の場ではせめて少しセーブすれば「いい奴」とおもわれたのになあ、と。
☆最新刊「残酷な王と悲しみの王妃」(集英社) 2刷中。
レンザブローで本書についてインタビューが載っています。お読みくださいね!⇒ http://renzaburo.jp/(「特設サイト」をクリックしてください)
☆「『怖い絵』で人間を読む 」(NHK出版生活人新書) 7刷中。
☆光文社新書「名画で読み解く ブルボン王朝12の物語」3刷中。
☆「名画で読み解く ハプスブルク家12の物語」(光文社新書)14刷中。
☆「怖い絵」16刷中。
☆「怖い絵2」、9刷中。
☆「怖い絵3」 6刷中。
☆「危険な世界史」(角川書店) 5刷中。
「おとなのためのオペラ入門」(講談社+α文庫)
☆「恐怖と愛の映画102」(文春文庫)
☆「歴史が語る 恋の嵐」(角川文庫)。「恋に死す」の文庫化版です。
彼は「相撲ファンでもなんでもない」のだそうだが、今回の件は「適当なところで許してやっちゃくれないか」と書く。「日本古来の伝統芸能として、なくすにはあまりに惜しい」。
そして話は野球へと転じ、1988年のドラゴンズ・リーグ優勝の思い出を辿る。
最後の試合、ドラゴンズは序盤からヤクルトに大差をつけ、ほぼ優勝は確定的となった。郭源治投手は相手の秦選手からツーアウトを取り、あとアウトひとつ取ればいい、というところで早くも泣いてしまう(シーズン中に愛弟を亡くすなどセンチメンタルになっていたらしい)
以下、奥田氏の文章を引用しよう、
「中日ファンは、ストライクはとれるのかいなとハラハラしながら観ていたのだが、最後のバッター、秦選手が実にナイスな男であった。ボール球をうまく空振りして、三振に倒れてくれたのである。かくして感動のフィナーレ。わたしの頭の中には「秦はいい奴」とインプットされている」
「結局のところ、「花をもたせる」ということがわからない人間は、スポーツ界ではやっていけないということなのである」
スポーツ界だけではないな、とわたしは思った。
もうだいぶ昔だが、オペラ界のスーパースターが世界を引退ツアーしていたころの話を思い出したのだ。
日本での「アイーダ」公演のとき、タイトルロールを歌う彼女の声は見る影もなく衰えていたという。一方、伸び盛りのメゾソプラノははるかに彼女を凌駕し、二重唱では完膚なきまでに叩きのめす、という感じだったらしい。
しかしオペラを実際に観た人の多くが、なんとなくこのメゾソプラノに反感を持ったことは評を読んで感じられた。
かつての輝けるスターが老いを自覚して引退を決め、それでも最後にもう一度彼女の声を聴きたいという多くの観客の前に立つ。以前は軽々と出ていた高音をもはや出せないことに、一番口惜しがっているのは本人であろう。しかしファンは、彼女の今の声の向こうに、かつての彼女の声を重ねて聴いているから、それを許す。いや、それを半ば忘れる。
そこへ「花をもたせる」ことを知らない若きメゾソプラノが、彼女より高い声を出し、彼女がもう伸ばすことのできないところからさらにさらに声を伸ばして圧倒する……
新しいスターが登場したことはアリアを聴けばじゅうぶんわかることなのだから、二重唱の場ではせめて少しセーブすれば「いい奴」とおもわれたのになあ、と。
☆最新刊「残酷な王と悲しみの王妃」(集英社) 2刷中。
レンザブローで本書についてインタビューが載っています。お読みくださいね!⇒ http://renzaburo.jp/(「特設サイト」をクリックしてください)
☆「『怖い絵』で人間を読む 」(NHK出版生活人新書) 7刷中。
☆光文社新書「名画で読み解く ブルボン王朝12の物語」3刷中。
☆「名画で読み解く ハプスブルク家12の物語」(光文社新書)14刷中。
☆「怖い絵」16刷中。
☆「怖い絵2」、9刷中。
☆「怖い絵3」 6刷中。
☆「危険な世界史」(角川書店) 5刷中。
「おとなのためのオペラ入門」(講談社+α文庫)
☆「恐怖と愛の映画102」(文春文庫)
☆「歴史が語る 恋の嵐」(角川文庫)。「恋に死す」の文庫化版です。