中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

狂牛病 - 食人 - 致死性家族性不眠症

2008年04月15日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」第108回目の今日は「王は歌う?」(フランス映画「王は踊る」のもじりです)⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2008/04/post_12b6.html#more
 ピョートル大帝もヘンリー8世も、オペラに登場していることについて書きました。

 この「花つむ」では別の話題。読んだばかりのノンフィクション『眠れない一族ーー食人の痕跡と殺人タンパクの謎』(ダニエル・マックス)についてです。

 開巻、ヴェニスに現存する「呪われた一族」が登場する。彼らの多くは中年以降に発症する、死亡率100%という致死性奇病により、次々亡くなってゆく。それは瞳孔収縮に始まり、異常発汗、頭部硬直、最後は眠ることができず(「眠らせない」というのは、古来から拷問にも使われるほどの苦痛である)、異様な興奮状態でしかも意識だけはしっかり保ったまま衰弱死するという酷さだ。祖父母や親や兄弟が悶絶死するのを見てきているので、一族は常に恐怖と隣りあわせで生きてゆかねばならない。

 著者は自らも難病に侵されており、自分の病気も、そしてこの呪われた一族の眠れない病いも、プリオンという殺人タンパク(これは生物ではない、というので理系に弱いわたしには想像を絶する)が原因ではないかと推測する。

 こうして歴史が紐解かれてゆくのだが、知らないことばかりだったので、全く空恐ろしくなってしまった。

 ヴェニスのこの一族の、おそらく一番最初に発症したと思われるご先祖は18世紀の人なのだが、このころヨーロッパ各地で羊の「スクレイピー」なる病気が蔓延していた。20世紀前半には、クロイツフェルト・ヤコブ病、後半にはパプア・ニューギニアのフォレ族がかかった「クールー」、現代に至る「狂牛病」と、全てこれプリオンによるもので、しかもそれは「共食い」が原因になっているのではないか、と。

 フォレ族が実際に食人だったかどうかの証拠は少ないように思えた。というよりわたしはこれまで食人に懐疑的な人類学者の本ばかり読んできたので、にわかには信じがたいのだ。しかし著者はこう言う、

 「人類は皆ある時代には人食い人種であっただけでなく、そのせいで大きな犠牲を払うこととなった。食人は、死亡率の高いプリオン病の勃発につながったのだ(おそらくそのために、私たちは人肉を食べることに嫌悪感を覚えるようになり、さらに時代が下ると食人は禁忌とされるようになったのだ。)」

 人類はプリオン病にかかりにくい「ヘテロ接合体」が多いが、それもやはり身を守るための自然の知恵らしい。そして何と!日本人はプリオン病にかかりやすい「ホモ接合体」の割合が多いのですと!!(つまりは日本には食人文化がなかったということだろうが)
 
 アメリカの狂牛病に素早く対応したのは、日本政府にその知識があったからなのだろうか?国民には知らされない、もっといろんな身の毛もよだつような隠し事があるのでは・・・怖い本だった・・・


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sai
コメント (2)
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