朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」第66回目の今日は、「臨終の言葉さまざま」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2007/06/post_85b7.html#more
ゲーテ、ポンパドゥール夫人、ジェリコー、アレクサンドル1世、カサノヴァなどの最期の言葉について書きました。
ルイ15世もトリアノン宮で天然痘に倒れたとき、周囲を大混乱に陥れた。なにしろ「王はヴェルサイユ宮の自分のベッド以外で死んではならない」という条文があったので、何が何でもヴェルサイユまで運ばねばならなかったからだ。「陛下、ご病気になるのはヴェルサイユで!」--生身の人間より条文優先である。
闘病が長引いた様子を、ツヴァイクは『マリー・アントワネット』で次のように書いている。(以下、拙訳)
このあともぞっとすることは続く。人間が死ぬというより、黒ずみ膨張した腐肉が崩れてゆくのだ。なのにルイ15世の肉体は、ブルボンの祖先全部の力が集まったように、絶え間ない破壊に巨人のごとく抵抗する。
誰にとっても恐ろしい数日だ。召使たちは凄まじい臭気に気を失い、娘たちはなけなしの気力をふりしぼる。侍医たちはとうに諦めて手を引き、宮廷は身の毛もよだつこの悲劇が早く終わらないかと、じりじりしながら待つ。
下では数日前から馬車が用意されている。伝染を防ぐため、老王が最期の息をひきとるなり時を移さず、新しいルイが全随員をつれ、ショワジー宮へ移るためだ。乗り手はすでに鞍を付け終わり、荷造りはすみ、召使や御者たちは何時間も何時間も待っている。
全員が、死にゆく人の窓辺に置かれた小さなロウソクの火を見つめている。これはーーみんなが了解済みの合図ーーいよいよの瞬間、消される手はずだ。しかし旧家ブルボンの巨大な肉体はなおももう一日もちこたえる。
5月10日火曜日午後3時半、ついにロウソクは消えた。囁き声はすぐざわめきに変わる。部屋から部屋へーー飛沫をあげる波のようにーーニュースが、叫び声が、高まる歓声が走り抜ける、「国王崩御、国王万歳!」
マリー・アントワネットは夫と小部屋で待っていた。突如、不気味などよめきが聞こえ、だんだん大きく、どんどん近く、部屋から部屋へ、聞き取りにくい言葉のうねりが近づいてくる。
嵐に押し開かれたようにドアがあき、ド・ノアイユ夫人が駆け込んできてひざまずく。新しい王妃に挨拶する最初の女性だ。彼女のうしろから大勢が押し寄せてくる。その数はどんどん増え、しまいに宮廷中がやってくる。みんなできるだけ早く伺候して忠誠を誓い、自分を認めてもらいたいからだ。
太鼓の連打があり、将校は剣を高く上げ、何百人もの口が叫ぶ、「国王崩御、国王万歳!」
☆新著「怖い絵」(朝日出版社)
☆☆アマゾンの読者評で、この本のグリューネヴァルトの章を読んで「泣いてしまいました」というのがありました。著者としては嬉しいことです♪
①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」
☆角川文庫『マリー・アントワネット』(画像をクリックするとアマゾンへゆけます)
☆☆長すぎたルイ15世時代に心底うんざりしていた国民が、新しい若い王と美しい王妃にどんなに期待したか。期待が裏切られたための反動が、憎悪に拍車をかけたのはまちがいないだろう。
![マリー・アントワネット 下 (3)](http://images-jp.amazon.com/images/P/4042082084.09.MZZZZZZZ.jpg)
(画像をクリックするとアマゾンへ行けます)
◆マリー・アントワネット(上)(下)
シュテファン・ツヴァイク
中野京子=訳
定価 上下各590円(税込620円)
角川文庫より1月17日発売
ISBN(上)978-4-04-208207-1 (下)978-4-04-208708-8
ゲーテ、ポンパドゥール夫人、ジェリコー、アレクサンドル1世、カサノヴァなどの最期の言葉について書きました。
ルイ15世もトリアノン宮で天然痘に倒れたとき、周囲を大混乱に陥れた。なにしろ「王はヴェルサイユ宮の自分のベッド以外で死んではならない」という条文があったので、何が何でもヴェルサイユまで運ばねばならなかったからだ。「陛下、ご病気になるのはヴェルサイユで!」--生身の人間より条文優先である。
闘病が長引いた様子を、ツヴァイクは『マリー・アントワネット』で次のように書いている。(以下、拙訳)
このあともぞっとすることは続く。人間が死ぬというより、黒ずみ膨張した腐肉が崩れてゆくのだ。なのにルイ15世の肉体は、ブルボンの祖先全部の力が集まったように、絶え間ない破壊に巨人のごとく抵抗する。
誰にとっても恐ろしい数日だ。召使たちは凄まじい臭気に気を失い、娘たちはなけなしの気力をふりしぼる。侍医たちはとうに諦めて手を引き、宮廷は身の毛もよだつこの悲劇が早く終わらないかと、じりじりしながら待つ。
下では数日前から馬車が用意されている。伝染を防ぐため、老王が最期の息をひきとるなり時を移さず、新しいルイが全随員をつれ、ショワジー宮へ移るためだ。乗り手はすでに鞍を付け終わり、荷造りはすみ、召使や御者たちは何時間も何時間も待っている。
全員が、死にゆく人の窓辺に置かれた小さなロウソクの火を見つめている。これはーーみんなが了解済みの合図ーーいよいよの瞬間、消される手はずだ。しかし旧家ブルボンの巨大な肉体はなおももう一日もちこたえる。
5月10日火曜日午後3時半、ついにロウソクは消えた。囁き声はすぐざわめきに変わる。部屋から部屋へーー飛沫をあげる波のようにーーニュースが、叫び声が、高まる歓声が走り抜ける、「国王崩御、国王万歳!」
マリー・アントワネットは夫と小部屋で待っていた。突如、不気味などよめきが聞こえ、だんだん大きく、どんどん近く、部屋から部屋へ、聞き取りにくい言葉のうねりが近づいてくる。
嵐に押し開かれたようにドアがあき、ド・ノアイユ夫人が駆け込んできてひざまずく。新しい王妃に挨拶する最初の女性だ。彼女のうしろから大勢が押し寄せてくる。その数はどんどん増え、しまいに宮廷中がやってくる。みんなできるだけ早く伺候して忠誠を誓い、自分を認めてもらいたいからだ。
太鼓の連打があり、将校は剣を高く上げ、何百人もの口が叫ぶ、「国王崩御、国王万歳!」
☆新著「怖い絵」(朝日出版社)
☆☆アマゾンの読者評で、この本のグリューネヴァルトの章を読んで「泣いてしまいました」というのがありました。著者としては嬉しいことです♪
①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」
☆角川文庫『マリー・アントワネット』(画像をクリックするとアマゾンへゆけます)
☆☆長すぎたルイ15世時代に心底うんざりしていた国民が、新しい若い王と美しい王妃にどんなに期待したか。期待が裏切られたための反動が、憎悪に拍車をかけたのはまちがいないだろう。
![マリー・アントワネット 上 (1)](http://images-jp.amazon.com/images/P/4042082076.09.MZZZZZZZ.jpg)
![マリー・アントワネット 下 (3)](http://images-jp.amazon.com/images/P/4042082084.09.MZZZZZZZ.jpg)
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◆マリー・アントワネット(上)(下)
シュテファン・ツヴァイク
中野京子=訳
定価 上下各590円(税込620円)
角川文庫より1月17日発売
ISBN(上)978-4-04-208207-1 (下)978-4-04-208708-8