中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

結婚詐欺師(世界史レッスン第55回)

2007年03月20日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」第55回目の今日は、「日本のパスポートを持つ白人の台湾人」。⇒http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2007/03/post_60ec.html#more
18世紀初頭のイギリスに登場した、なんとも珍妙な詐欺師について書きました(ちょっぴりとはいえ、日本がからむところも面白いと思って)。

 メリメの場合は、いかにもインテリが好みそうな偽書。大ベストセラーになったイザヤ・ベンダサン『日本人とユダヤ人』を思い出す。とはいえ山本七平氏は黙したまま逝去されたが。

 詐欺師映画だと『スティング』『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』『復讐するは我にあり』などが思い出される。詐欺師は殺人はしないという定説を破った『復讐するは~』は、実話でもあり、見ていて気が滅入った。

 女性の結婚詐欺師を扱ったものとしては、『ブラック・ウィドー』がなかなか良かった。ターゲットを徹底的に分析して、相手の「夢の女」になりすますのである。叩き上げの金持ちの場合は、モンロー風のあからさまにセクシャルなブロンド美女に、西洋史研究の大学教授の場合は、黒髪で知的な眼鏡美人に、フランス人の芸術家に対しては、すっぴんナチュラル美女に(あ、全部美人なのは共通してますけど)。

 本人の素がどんなものかはけっきょくわからないのだが、他人の「夢」になり続けているのも辛いらしくて(偽台湾人がけっきょく告白したのと同じ心理だろう)、一定期間を過ぎると男を殺し、遺産を奪って、次のターゲットへ。これを楽しんでいるふうなのだ。

 で、主人公は実はこの結婚詐欺美女ではなく、それを追う女性捜査官。彼女はどうも今ひとつ男性にもてないので、だんだんこの犯人にふつう以上の興味を抱き始める。つまりやり口を真似たいと思う。いや、この美女に自分が成り代わりたいとすら思う。その感じがなかなか良かったな。

 「美女とは、あなたの目を惹く人。魅力的な女性とは、あなたに目を惹かれる人」--という言葉がある。美女で、なおかつあなたに目を惹かれている人となれば、これは最強ですわねえ。でも詐欺には気をつけましょう。
☆新著「怖い絵」(朝日出版社)
☆☆アマゾンの読者評で、この本のグリューネヴァルトの章を読んで「泣いてしまいました」というのがありました。著者としては嬉しいことです♪

怖い絵
怖い絵
posted with amazlet on 07.07.14
中野京子 朝日出版社 (2007/07/18)


①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」

☆拙訳『マリー・アントワネット』(画像をクリックするとアマゾンへいけます)
☆☆マリー・アントワネットが被害者になった大がかりな詐欺事件といえば、「首飾り事件」。真相がわかってみれば、どうしてこんな人間に騙されたのだろうと不思議だが・・・マリー・アントワネット 上 (1) マリー・アントワネット 下 (3)

◆マリー・アントワネット(上)(下)
 シュテファン・ツヴァイク
 中野京子=訳
 定価 上下各590円(税込620円)
 角川文庫より1月17日発売
 ISBN(上)978-4-04-208207-1 (下)978-4-04-208708-8



コメント (6)
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