経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

担保だ、価値評価だ云々の前に・・・

2007-09-08 | 新聞・雑誌記事を読む
 日経NETに「商工中金、ビジネスモデル特許担保に融資・岐阜の花卸会社に」という記事があり(対象は出願中の特許で「この仕組みがビジネスモデル特許を取得できると判断し、融資を実行した」とのこと)、その元ネタのプレスリリースには次ような説明がされています。

ビジネスモデル特許
 ビジネスの仕組みを特許化したもの。事業として何を行い、どこで収益を上げるのかという「儲けを生み出す具体的な仕組み」自体を内容とする特許を指す。

 注) 念のためですが、この説明は明らかに事実誤認で、ビジネスモデル自体が特許になることはありません

 融資金額は1,000万円とのことなので、まぁ本音の部分では担保の有効性はどうでもよい話で、中小企業融資への前向きな姿勢をアピールすることが目的なのではないかと推測しますが、それにしてもどうしてこういう根本的なところが誤解されたままで融資が進められ、しかもそれを積極的にPRしようというところまでいってしまうのでしょうか。
 金融セクターでは「知財担保の課題=(定量的な)価値評価」みたいな図式にばかり目がいってしまい、そもそもの「知的財産権とは何なのか?」という部分に対する理解がなおざりにされる傾向があることが問題であるように思います。まずは対象を理解したうえで、はじめて担保だ、価値評価だ、云々の話が出てくるはずなのですが。
 尤も、対象を正しく理解すると、とても次のステップには進めなくなるというのが実際のところかもしれませんが・・・

PBRが低いのは「知的資産」の問題か?

2007-09-07 | 新聞・雑誌記事を読む
 写真は6日付の日経金融新聞に掲載されていたグラフ(出所;米ゴールドマンサックス)です。この記事のテーマは、日本企業の株価のPERが欧米並みの水準に下がってきたのは合理的か、ということを検証するものなのですが、こうやって見てみると、そもそも日本企業のPBRが国際的にみて圧倒的に低いということに改めて気付かされます。知財会計風にいうと、
「見えざる資産が評価されていない」(orそもそも見えざる資産が存在していない?)
ということがストレートに表れています。
 尤も、この記事によると、「PBRとROEには明らかに相関関係がある」とのこと。つまり、資本を有効に活かして高収益を上げている会社は、「見えざる資産」に対する評価も高い、ということになります。そうやって考えてみると、評価されている「見えざる資産」というのは、「無形の資産、すなわち知的資産がぁ~」とかいう遠回しな説明よりも、高い収益力によって生み出される「将来の現金」という、もっとストレートなものというのが実態なのではないでしょうか。結論的には、「時価総額と純資産の差は知財の価値か?」と同じようなところ、といった感じです。

知的財産は尊重しなければならないのか?

2007-09-06 | 知財一般
「他人の知的財産は尊重しなければならない。」

 これは、もちろん否定のしようもない社会のルールです。というわけで、子供や学生にも早い段階からこのルールを身につけさせよう、ということから、先日の記事でも少しとりあげた「子供や学生に知的財産権を教えよう」というということになって「知財教育」が低年齢化していくのでしょうが、果たしてそれでよいものなのでしょうか。
 人間が成長する上で、「模倣」というのは重要な役割を果たしています。小学校の書き方では、見本を写すことから始めます。子供の頃は、本に載っているキャラクターの写し絵から、絵の書き方を覚えます。運動部に入れば、まずは上手い先輩のフォームを真似て、強いチームの練習方法からよいものを採り入れようとします。「模倣」そのものは、決してけしからんという性質のものではありません。
 では、「知的財産権を侵害してはいけない」とどこが違うのか。
 これは、ことが経済活動に及び、「先行投資」という概念が生まれてくると、その分をある程度公平に負担していかないと、経済活動を支えるルールがおかしなものになってしまう(純粋に「文化的な」著作物は少し話が別ですが)。そこで、損得勘定のバランスがとれそうなルールとして、「知的財産権」という決まりを設けたということになるのだと思います。バランスのとり方には、これで絶対というものはないから、「知的財産権」というルール自体も可変であり、何が最適なのか試行錯誤が繰返されているわけです。
 要するに、「模倣はけしからん」というのは自然法とか根本原理とかそういった類の話ではなく、利害調整のために知的財産権というルールを作ったのだから、「ルールは守らんとダメよ」というのが事の本質であるように思います。
 例えば、「割り込んではいけない」というのは絶対的なルールかというと、それは順番待ちという前提の下ではそのとおりですが、これが世界陸上で中長距離走とか見てると割り込み合いながら走っているわけであり、前提が異なると話は違ってくるわけです。要するにこれも、「割り込みはダメ」ではなく「ルールは守らんとダメ」が事の本質です。
 そうやって考えるてみと、子供や学生に「他人の知的財産は尊重しなければならない。」ということを教えるのは、とても難しい話だと思います。「お手本を見て学べ」という教えと混乱してしまうかもしれません。そもそもそんな風に「知的財産」と気取って教えなくても、「ルールを守る」という事の本質を教えることが肝心であって、「知的財産」云々の話は経済社会の仕組みを知ってからで十分なのではないでしょうか。教育は何でもかんでも低年齢化すればよいというものではないと思いますが。

おお、いい感じ、いい感じ

2007-09-05 | 新聞・雑誌記事を読む
 4日の日経新聞に、東証マザーズの上場企業が8月末で200社に達したとのことで(ちなみにイチローは昨日200本安打を達成しましたが)、上場企業の業種別区分が掲載されています。

① システム・ソフト        50社
② 流通・レジャー         25社
③ インターネットサイト運営・広告 23社
④ 製造業(電機・機械等)     21社
⑤ コンテンツ           18社
⑥ 医薬品・食品          18社
⑦ 不動産             15社
⑧ 金融              10社
⑨ その他             20社

 マザーズといえば、次代を担う企業の登竜門です。ここから特許業界の未来を見通してみると・・・

○ 明らかに特許が関係しそうな業種=④+⑥=39社=19.5%
● まず特許は関係しそうにない業種=②+⑤+⑦=58社=29.0%
いずれとも判断しがたい業種について、ザックリですが、特許関係ありそう比率を
①,③=50%
⑧,⑨=25%
と置いてみると、
○ 特許関係ありそう会社=39+36.5+7.5=83社=41.5%
● 特許関係なさそう会社=58+36.5+22.5=117社=58.5%

 何やらくだらない計算をしてしまいましたが、個人的な印象としては思ったより多いかなぁ、という感じです。ただ、経営上、特許にそれなりのプライオリティが置かれるのは④+⑤の19.5%、10年弱で39社に限られますので、
「あのベンチャー企業の成功を私が特許から支えたんだよー、おお、いい感じ、いい感じ」
と華やかにアピールできることになる確率はかなり低いともいえそうです。

熱いコラム

2007-09-03 | 知財業界
 ベンチャーや大学支援で著名な的場弁理士のコラム熱いです。本質的な問題に正面から向き合い、行動する弁理士の想いがヒシヒシと伝わってきます。

 「自治体などが企画する知財関連の『無料セミナー』には、断固反対している」とは少々大胆ですが、私もこの意見には賛成です。知的財産権は事業を進める上でのオプションの一つであり、権利を取得するオプションを選択した場合には、その果実は権利者のものになります。お金の有無に関わらず守られなければならない基本的人権や、国民の義務である納税なんかとは明らかに性質の違う「経済的なオプション」であり、法律相談や税務相談などが無料で提供されているからといって、知財も同じということにはならないように思います。そのあたりを誤解してしまうおそれもあり、事業者にとってもむしろ負の側面すらあるのではないでしょうか。ついでに言うと、「知財重視」ということで子供や学生に知的財産権を教えよう、といった動きも活発化していますが、これも知的財産権が「経済的なオプション」であることを考えると、本質や基本的なルールをちゃんと学ぶ前にオプションを教えるというのは果たしていかがなものだろうか、という気がします。社会を知り、このオプションを使ってみたいと思ってからでも全く遅くない(というか、動機付けが明確になってしっかり吸収できる)ように思いますが。

 まぁこういうことをあまり書くと、巡業をサボった横綱のように批判されてしまいかねませんので、このあたりで止めておきます。

「指一本」の執念が違う知財戦略

2007-09-02 | 書籍を読む
 昨日紹介した「指一本の執念が勝負を決める」を読んでいろいろ考えさせられたことを2点ほど。
 1つめは、企業で物事がうまくいかなく理由を戦略論で分析し、その不合理な部分を指摘して「頭が悪いからダメだった」というような人は経営には向いていない、という部分です。多くの場合、問題はそれが不合理であることを理解していないために起こるのではなく、不合理にならざるを得ない真の理由があるはずであり、「なぜ」と突き詰めてその部分を変えていかない限り、よくなるはずがありません。知財戦略・知財コンサルティングに関しても、パテントマップやスコアリングモデルか何かで分析して、「三位一体になっていないところが問題だ」という指摘には殆どの場合意味がなく、「なぜ」そうできないかを追求してその部分の改善に取り組んでいかなければ、全く「使えない」知財戦略であり、知財コンサルティングであるということになるのでしょう。
 2つめは、「本気で戦う気がないと見透かされる」という部分です。著者の冨山氏は、産業再生機構のCOO時代に出資先企業に「いつでも自分が社長をやる」という覚悟で臨んでいたとのことで、「じゃあ、あなたやって」と言われたときに「ええっ」と怯んでしまうようでは相手に見透かされてしまい、本気で再生が進められるはずもない、ということです。社内で知財業務の改革に挑むにせよ、外部から知財コンサルティングに取り組むにせよ、「自分がやる」という覚悟が見えないと、「他人事」では受け入れられるはずもないということでしょう。


指一本の執念が勝負を決める
冨山 和彦
ファーストプレス

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ぬるくない知財戦略

2007-09-01 | 書籍を読む
 知財戦略・知財コンサルを「実践したい」という若手知財マンは、この本を読んだほうがいいと思います。あたりまえですが、それが「研修で勉強する」という性質のものではないことがよくわかります。

 この本に、
人間って、何とかしそうな感じの人と、何とかしそうにない人とに分かれるじゃないですか。
っていう一文があるのですが、何とかしそうかどうかは「ストレス耐性」によって決まるということです。確かに、理屈で考えたことを実践しようとすると、実際はそんなに筋書き通りにいかなくて、凄くストレスが溜まる状況っていうのはよく生じるわけですが、そこで「そんなものは何ともならない」と投げ出すか、そこを合格点ギリギリでも「何とかする」ことによって、「※何とかしそうな感じの人」になっていくのでしょう。誰もお金を出して「何とかしそうにない人」に仕事は頼みたくないですし、「何とかしそうな人」でも難しい状況なら、それはそれで諦めもつくというものではないでしょうか。「ぬるくない知財戦略」は、そういう部分に向き合って何とかしていくかどうかにかかっているように思います。

※「何とかしそうな感じの人」の例(スポーツ選手の場合)
タイガースの金本、全盛期の大魔神、最近のダルビッシュ、全盛期のゴン中山、シドニーの頃の高橋尚子、少し前の宮里藍、横綱時代の千代の富士 etc.

指一本の執念が勝負を決める
冨山 和彦
ファーストプレス

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