経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

寿司屋の職人と知財の職人

2007-09-13 | 書籍を読む
 一流の経営者の著書を読むと本当に勉強になることが多いですが、宅急便創始者・小倉昌男氏の「経営学」もそんな一冊です。「サービス業」としての知財業務を考えたときに、この本に出てくるこんな話(原文そのままではなく要約です)が参考になります。

 宅急便を始める前の運送業界は、いわばデパートの大食堂のようなもの。そこで働く人達は分業制になっていて、それぞれの担当が決まった仕事を繰返しこなしている。それが宅急便を始めることになって、セールスドライバーには「寿司屋の職人のようになれ」と指示するようになった。一人一人が仕入から調理、お客さんへの対応まで(宅急便であれば集荷・運送・集金からお客さんへの対応まで)全て一人でこなしてこそ、お客さんに満足いただけるサービスができるものである。もちろん、寿司屋の職人にネタの知識や寿司を握る技術が要求されるのと同様に、宅急便のドライバーには、運送に関する知識や技術が要求されるのは当然の前提である。

 自分の持つ知識や技術をどのように提供すれば、最も顧客のニーズに応えられることになるのか。それには、できるだけ全工程を一人でこなしていかないと、顧客が求めているものは何なのかというところがなかなか見えてこないと思います。その部分は、特許事務所と企業の関係、知財部と現場の関係であっても同じことがいえそうです。
 一方で、知財業務は細かな専門知識も求められるものなので、専門性を追求しようとすると分業制をせざるを得ないというところもあります。特に、効率という側面を考えると、分業制に圧倒的に分があるといえるでしょう。分業制の中でも質を高める努力というのは当然成り立つわけですが、全体の流れや顧客の反応が見えないと、質の高さを自分の基準で定義してしまい、顧客ニーズとの乖離が進んでしまうおそれがあると思います。
 組織レベルでも、個人レベルでも、そのバランスの取り方が知財業務の難しいところなのでしょう。

小倉昌男 経営学
小倉 昌男
日経BP社

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