経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

プロの証・プロの技

2006-09-13 | 知的財産と投資
 知財業界の著名ブログ「特許男プロジェクト」にて、特許男さんがベンチャー投資の失敗談をカミングアウトされています。弁理士が中小・ベンチャーの仕事に積極的に取り組むための方法として、出資とかストックオプションとかが言われることがありますが、そう簡単にうまくいくものではありません。何故でしょうか。

 特許の専門家である弁理士にとって、発明のアウトラインを聞くと、(明言はしにくいですが)特許になりそうかどうか、感覚的にだいたいの目星がつくことが少なくないと思います。
 同じように、ベンチャー投資の仕事を何年かやっていると、公開までいける会社というのは、何となく感覚的にわかるようになってきます。それは単に、技術がよいとか、経営者のキャリアが凄いとか、そういったものだけではなく、社長や会社の姿勢や全体の雰囲気から、パブリックになっていく要素を何となく感じ取れるものなのです。こういう感覚は、単に会社を定点で見るのではなく、経時的に見る経験を積み重ね、実際に公開した会社に触れることによって身についていくものです。この感覚を身につけたベンチャーキャピタリストにとって、そういう会社をどうやって見つけるか、どうやって出資する関係を作るか、そういう要素が足りない場合はどうやって補完していくかといったことが、そこから先の競争のポイントになってきます。
 弁理士にとっての特許もおそらく同じことで、特許が成立するまでの過程を経験することによって、初期の段階(発明をヒアリングした段階)から、何となく特許成立までのシナリオが見えるようになってきます。こういう感覚をもっていることが、プロの証とでもいうべきなのでしょう。どうやって見つけるか、どう補完するかがプロの技であることも、ベンチャーキャピタリストと同様です。

 特許男さんは、自らのプロの証・プロの技が生きる部分とは違うところで勝負をしてしまったことから、たいへん残念な結果となってしまったようです。株式公開ができる会社のイメージをしっかりと持たないでベンチャー投資をすることは、審査の実情を知らずに自分で特許を出願するのと同じ様に、宝くじを買うような危険な行為です。よく言われる出願報酬の代わりにキャピタルゲインというアイデアは、現実的にはちょっと難しそうですね。