ぐらのにっき

主に趣味のことを好き勝手に書き綴っています。「指輪物語」とトールキンの著作に関してはネタバレの配慮を一切していません。

機内で見た映画たち(一部ネタバレ)

2007年08月10日 | 映画
さて、海外旅行の楽しみの一つに、飛行機の中で見る映画があります。
今回はノースウェストだったので、4本しか見られないな・・・と思ってたんですが、思わぬアムステルダム乗り継ぎのため、6本見られました。本当は7本見られたんですが、7本目寝てしまった・・・
というわけで簡単に感想を書いてみます。

まずは日本→デトロイト線。個人モニターなし。

Firehouse Dog
ハリウッドで活躍していたタレント犬が、迷子になって消防署に住むことになり、署長のひねくれ息子の心を開きつつ、消防犬としても活躍する・・・という、斬新な発想なのかありがちなのかが微妙な話でした(汗)まあ子供向けだし。
犬は好きなんですが、芸達者すぎるとあんまりかわいく思えないんですよね・・・
男の子と父親の葛藤とか、犬のかわいさ、消防活動のダイナミックさ、に加えてサスペンスの要素も盛り込んで、ファミリー映画としては上手くできてるんじゃないかなーと思いました。私はイマイチでしたけど・・・(汗)
でも、犬にとっては人間と一緒に働くのが一番幸せ、というのは説得力があったかな、と思いました。

The Last Mimzy(ややネタバレ?)
これが見られたのはびっくりでした! ハワード・ショアが音楽を担当する、とは聞いてたんですが、もう映画できてたとは・・・向こうに行ったらDVDも売ってました。でもHoward Shore.comには出てなかったなあ・・・なんで?
音楽は、機内上映なんであまりよく聞こえなかったんですが(汗)間違いなくショアでしたね(笑)割とLotRとかに似た感じ+ミステリーっぽい感じの曲でした。
でも、子供が主人公の話にしては地味な音楽だったかも・・・
「ボロゴーヴはミムジィ」というSF短編が原作だそうです。
「鏡の国のアリス」に出てくる詩の中の「ミムジィの群れ」という言葉から発想したSF設定はなかなか面白かったので、どうなるのかな、と期待して見ていたのですが・・・
まあ悪くなかったんですが、なんか宝くじの番号の話とか、最後の方の「お兄ちゃん助けて」とかは、かなり興ざめな感じでした・・・これ、原作にもあったのかなあ?
本当のラストはともかく、現代のハッピーエンドには何かご都合主義なものを感じてしまってうーん、でした。
原作読んでみたいけど、今は手に入らないらしいです・・・残念。
画面が小さかったのでよくわからなかったのですが、幾何学的な映像は大画面で見たら綺麗だったのかも・・・
日本で公開するかどうかわかりませんが、公開しても2回は見る気はないかな・・・というのが正直なところです(汗)

続いてボストン→アムステルダム線。個人モニターがあり、しかも映画は30種類くらいの中から自由に選べるやつでした。うーん、ノースウェストでこんないい機材は初めて・・・(汗)

300吹き替え版(ネタバレ)
もう一回みたいと思っていたら、ちょうど見られてラッキー、という感じ。
吹き替えなんで、ウェナムさんのナレーションが聞けないのであれなんですが・・・
しかし、吹き替えで思わぬ収穫が。なんでディリオスが帰されたのか、その理由がわかりましたよ。
吹き替えだと、「お前には他の者にはない才能がある」と言ってるんですね、レオニダス。そうか、やっぱり口先三寸&脚色能力を買われて帰されたのか・・・(笑)
考えてみたら、レオニダスが「墓はいらない」とか一言だけ言ってたところを、「讃える歌もいらない、○○もいらない(忘れました(汗))、墓もいらない・・・」とか勝手に増やして演説してたような・・・(汗)
吹き替えキャストは結構違和感ありましたが、特にステリオスが違和感ありましたね。なんかキレてる感じがなくて落ち着いた声になってた・・・
まあ、2回目見られて満足いたしました。これでDVDは買わないでいいや(笑)
余談ですが、アメコミの300チラッとみたら、ディリオスはおっさんでした・・・(汗)丹下段平に髪の毛がある感じというか、ハルバル父さん(「小さなバイキングビッケ」って知ってますか・・・(汗))がもう少しさっぱりした感じというか・・・
これも余談ですが、アクロンのホテルでテレビを見ていたら、「ヴァン・ヘルシング」をやっていて、ウェナムさん尽くし?と思いました。これでLotRもやってれば・・・
しかし、一度終わったなーと思って、しばらくしてまたチャンネルを回したら、また最初からやってた・・・なんで? 謎です・・・(汗)

ドライビング・ミス・デイジー
2作目は最初キアヌ・リーブスの「チェーン・リアクション」を見ようかと思ったんですが、なんだかつまらなそうなので、こちらに変更。
見て正解でした。良かったです!
気難しい老女が心を開く物語、なのかと思ったら、それだけじゃないんですね。人種差別、老いと生きるということ、そういったことが、声高に語られるのではなく、静かに描かれていたのが良かったなあと。
キング牧師の夕食会に行ったりしながらも、黒人の使用人は使っていたりする、そういう矛盾をそのまま受け入れつつ、ゆったりと少しずつ変わっていくアメリカの姿を淡々と描いていましたね。
60年代ってまだ黒人の使用人なんて普通の時代だったんだ、というのにちょっとびっくり。それを思うと短期間で随分時代は変わったんですね。今では黒人と白人のカップルなんて普通にみかけますし。
最後にあそこまで「老い」を描くとは思ってなくて、ちょっとショックでしたが・・・それだからこそ余計に心に染みました。

そしてアムステルダム→東京便。またもや個人モニターなし。以前KLM載った時は個人モニターで映画見放題だったのに・・・そしてトンデモ字幕のLotRを見たんだよなあ。

ラブソングができるまで
私がまず絶対映画館まで見に行くことはない映画のジャンルとして、「単なるアクション映画」と「単なるラブコメ」があります。
以前、機内で見た同じくドリュー・バリモアの「50回目のファーストキス」が、単なるラブコメと思いきや意外に良かったので、もしかしたら・・・と思いつつ見てみました。
そしたら、やっぱり単なるラブコメでした・・・(汗)
唯一、アイドル歌手(?)コーラの派手なステージを本当にやってたのは、さすがハリウッドと思いましたが。まあ、アクションの爆発シーンなんかに比べたらどうってことないか・・・
コーラのぶっ飛んだキャラクターはちょっとおかしかったけど。

フラガール(ややネタバレ)
なんとなく見そびれていたんですが、見られて良かった! すごく良かったです。
古い生き方にこだわる人たちと、新しい生き方に夢を託したい人たちの心情が、熱くなり過ぎず、上手く表現されていて、よく出来てるな~と思いました。
ハワイアンセンター反対派の人たちが、単にわからずやの頭の固い人たち、ではなく、彼らがそれまで生きてきた世界の重みのようなものも表現されていて・・・なんというか、日本人を描いた映画だなあ、と思いました。
泣き所がかなりあって、中盤くらいから泣いてばっかりでした(汗)
松雪泰子演じる先生のキャラクターが、クサくならないで良かったかなと。
と私は思ったんですが、妹はクサい話だと思った、と言ってました・・・(汗)
ダンス皆上手かったなあ。
フラの手話を上手く使ったりとか、最初松雪泰子が踊っていたソロのダンスが最後に使われたりとか、色々と上手くできていたなあと。
それにしても、モニターが小さすぎて、キャスト誰が出ているんだかがよくわからず・・・(汗)蒼井優と松雪泰子としずちゃんしかわからなかったです・・・

このあと、「ディパーテッド」でいい味出してたマーク・ウォールバーグ主演のShooterをやってたんですが、やはり単なるアクション映画、眠くなってしまって寝てしまってほとんど見てません・・・(汗)
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RENT

2007年08月10日 | ミュージカル・演劇
今回の旅行ではブロードウェイでミュージカルを4本見ることができました。
まずは1本目、RENTの感想から。
アダム・パスカルとアンソニー・ラップの復活公演の直前になってしまい、もうちょっと遅かったら・・・と残念に思ってたんですが、アダムとアンソニーがいなくても十分素晴らしい舞台だったので、もう満足でした!
二人の復帰公演直前だからか、4列目の真ん中というすごく良い席が取れましたし。
先日の来日公演を見て、もしやブロードウェイのレベルも落ちているのでは・・・と一抹の不安にかられましたが、いや全然そんなことなくて良かった~
しかも、以前には一部アンダーキャストだったりして、今ひとつな時もあったのですが(なんかエンジェルがアンダーの人でイマイチだったことが2回ほど・・・)、今回は皆良くて、サイコーでした!
まずロジャー。Playbillのキャスト写真を見たら、ちょうど髪型とか鬚とかが「ボビー」の頃のイライジャ・ウッドによく似てて、「イライジャだ~」と妹とウケまくっていたりして。
実際には金髪になっていたりしたのですが、笑うと口元とかかなり似ていて・・・(汗)
最後に映し出される映像では黒髪のままなので、ちょっと長い感じがフロドっぽかったりも・・・(笑)
そんなかわいいイメージのロジャーだったのですが、最初かなりやんちゃで明るい感じで、かわいいけどロジャーとしては明るすぎ? なんて思っていました。
しかし、一人になった後、One Song Gloryで見せた切ない演技にやられました! ロジャーの苦悩と真摯な想いが素直に伝わってきて、珍しく泣けてしまいました。
One Song Gloryで泣かされたのって、オリジナルキャストのアダム・パスカル以来かもしれません・・・(映画で見たんですけど・・・)
そんなこんなで、私には珍しくロジャーがいい! と思ったキャストですが、もちろんロジャー以外も良かったんです!
マークはChristopher J. Hanke。マークはいいキャストが多いと思うんですが、彼は元気でやんちゃなところがロジャーといいコンビ。なんだか今まで見た中で一番、ロジャーとマークが親友同士なんだな、と感じたような気もします。
そしてかなりコミカルで、タンゴ・モーリーンやアレクシー・ダーリンからの電話のシーンとか笑えました。ライフサポートに来るところとかも。
特にジョアンヌがモーリーンに電話で「プーキー」と呼ばれた時に「ププッ」と吹き出して、睨まれて止めて・・・というところは思わず噴出してしまいました。
ハロウィンとか「I'm here, nowhere.」ももちろん良かったし。
ミミはTamyra Gray。若そうなんだけど、ちょっと大人っぽい感じのミミでしたね。ショートカットで。
髪が短いからか、Out Tonightで髪にかかった金粉を髪を下ろすときに振りまくのが、手で金粉を撒くのに変わってました。
コリンズはTroy Horne。カッコイイ系(私の中ではMark Fordが筆頭(笑))とやさしい系(オリジナルのジェシーが筆頭かな)の中間な感じでした。
このコリンズ、I'll Cover You-repriseでマジ泣きしていて、思わずもらい泣きしてしまった・・・いや~素晴らしかったです!
エンジェルはJastin Johnston。なんか名前聞いたことあるな・・・と思ったら、mixiでかなり評判良いエンジェルだったのでした。
実際良かったですね~。最近エンジェルは外れ続きだったので久々に良かった・・・
エンジェルはパーカッショニストの設定なのに、今までパーカッションが上手いな、と思えるエンジェルは一人もいなかったのですが、(オリジナルですら・・・)彼は初めてちゃんとパーカッション叩いてました!
そして、ダンスがめちゃめちゃ上手い! クルクル回っててびっくりでしたー。
最期のToday 4 Uの動きもとても激しくて、エンジェルの「生きたい」という強い想いを感じてじーんとしました・・・
でも、欲を言えば、かわいさがやや足りないエンジェルだったかなーと。この間の来日公演みたいに、動きに優雅さがないとかそういうのではないんですが・・・。私エンジェルのかわいいところが好きだから、ちょっと見方が厳しいのかも。まあ、これは欲張りすぎというものですね。文句なしのエンジェルでしたよ。
そう言えば、最初のRENTで、ミミとエンジェルが仲良さそうにしてる場面があって、おお、と思いました。前からあったっけ?
エンジェルの葬儀のシーンの演出はやっぱりオリジナルがいいですね。ミミの、敢えて明るく振舞って前に出て行く、という演技にやられました。
そして、マークが「彼は・・・彼女は」といいなおすところで、エンジェルがふっと微笑んで振り返って、そのまま上手に消えて行くのが・・・また来ました!
そしてその後コリンズのマジ泣きで・・・もう久々ボロ泣きでした。
キャストの話に戻って、ジョアンヌはMerle Dandrige。背が高くてとってもカッコイイジョアンヌでした。この人私観たことあると思う、多分・・・
モーリーンのNicolette Hartも、妹が「観た事ある」と言うので、多分私も一緒に見てたかも。髪が短くて新鮮な感じのモーリーンでしたが、いい感じにキレてて、やっぱりモーリーンはこうでなくちゃなーと。
お尻見せるシーン、わざわざ客席にも見せてました(笑)
アンサンブルも言うことなし。ただ、MAYUMI ANDOさんが出てなかったのが残念でした。Play billには載ってたので、たまたま出てなかっただけかな?
でも、Will I?でのゴードンが泣けなかったな・・・別に悪くはなかったんですけど。
そう言えば、ロジャー、マーク、コリンズで歌うSanta Feのハモリが、そんなに「おおっ」と思うほどではなかったかな。皆上手いのになぜだかわかりませんが・・・

とまあそんな訳で、取りとめもない感想になってしまいましたが、久々にいいRENT見られてとっても満足でした!
来日公演もいいキャスト来るといいなあ・・・
客席も、ブロードウェイって観光客が多くて、観客のマナーが悪くてげんなり、ということも多いんですが、全然そんなことはなく、いい環境で楽しめました!
すぐ後ろに騒ぎたがりの子たちがいたんですが、ちゃんとわきまえたところでだけはしゃいでたので全く問題なし。(昨年シュトゥットガルトでリピーターのくせにうるさい子たちが後ろにいて参ったのを思い出します・・・あんなじゃなくて良かった)
まあ、ブロードウェイの観客のマナーの悪さは翌日嫌というほど味わうことになるんですが・・・(汗)
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「字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ」とLotR字幕問題のこと

2007年08月10日 | 指輪物語&トールキン
読書カテゴリーで感想書こうかとも思ったんですが、多分にLotR字幕問題との絡みがあるので、やっぱり指輪カテゴリーで書くことにしました。
太田直子著字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶについてです。
この本、存在は知っていたのですが、読もうと思ったのはLotR字幕問題についての記述があると知ったからです。
それもかなり誤解されたことが書いてあると・・・
もともとは4月にみっちさんのブログで知ったのですが、詳しい経緯はLotR字幕改善について健闘された字幕改善連絡室にあります。
これを読んで、「でもとりあえず元を読まないとなあ・・・」と図書館に予約を入れてまっているうちに、6月には太田氏に送った字幕改善連絡室の方たちからの手紙にすぐに誠意ある返信があったという報告がされ、事態は収束してしまいました(汗)まあ良かったんですけど・・・
で、旅行中に図書館にやっと届いたという連絡が来ていて、ようやく実物を読むことができました。
まずは、問題のLotR字幕問題に関する記述について。まるごと引用は問題あるかも、なんですが、逆に誤解を生まないためには原文をそのまま読んでもらうのがいいかなあ、ということで、ちょっとその部分を引用します。

たとえば数年前の大ヒット映画『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズの字幕が原作小説ファンによって激しい非難の嵐にさらされたとき、その配給会社の制作部長は映画フィルムを丸々一本捨てる覚悟で、「原作ファンが求める字幕」を打ち込んでみせたそうだ。
わたしは実際にそれを見ていないのであくまで想像だが、「原作ファンこだわりの字幕」は、おそらく字幕としては最低のものだったろう。意訳や要約を許さない原作どおりの字幕は、膨大な字数になったろうし、へたをすると字幕が三行四行にもなって画面を侵食し、しかも全然読み切れなかったのではあるまいか。そんな掟破りの字幕を敢えてフィルムに打ち込んでみせ、その制作部長は原作ファンを説得したそうだ。
 「ほらね、あなたがたが求めるような字幕にすると、こんなになっちゃうんですよ。これじゃ読めないでしょ」と。
 もちろん、部長の独断では映画フィルムを一本無駄にすることなどできなかったかもしれない。会社が字幕にそれなりの理解を持っていたからできたことだろう。しかし部長の毅然たる決意がなければ、こんな破格の「説得プロジェクト」は実現しなかったはずだ。この一件は、われわれ字幕屋の間で燦然と輝く伝説になっている。


まず驚いたのは、一応字幕改善のなり行きを見守っていたものとして、「ファンを説得するために要求どおりの字幕を打ち込んで見せて説得した」となんて事実は明らかになかった、ということですね。
太田氏も後に事実確認をせずに伝聞だけで書いてしまった、と返答しているそうで、決して太田氏が作り話をでっちあげたわけではないようです。
しかし逆に、字幕関係者の中では、あの字幕騒動がそういう話に捻じ曲がって広まっているのだ・・・ということなんですよね。これが一番ショックだったことかもしれません。
ちなみに当時の字幕改善運動についてはLOTR読み解き英語工房でまとめられています。
映画1作目劇場版→劇場版DVD→SEE版DVDと少しずつ字幕は改善され、2作目からは原作の共訳者の田中明子氏が下訳をしたものを字幕翻訳家のT.N氏が字幕にする、という形式が取られるようになり(ハリポタは最初からこの方式だったため、字幕問題は出ていないですよね。私が知る限りでは)、字幕の質は格段に良くなりました。
今では1作目の上映はSEE版が主流になっているため、最初の劇場版を見られる機会はほとんどなくなりましたが、たまに劇場版の字幕を観ると、「こんなにひどかったっけ」とあまりのひどさに目を奪われてしまいます(汗)1作目は劇場で見ていない人も多いので、初めてあの字幕を見るとびっくりするようですよ。
字幕運動のおかげで、ここまで字幕の質は改善されたのです。
当時、私は字幕問題があまりにも大きな騒動になっていたため、慎重に自分で判断しようと、署名などにも参加していませんでした。
結局のところ、字幕が大きく改善された事実によって、この運動が正しかったことを理解したわけで、何の協力もできなかったのを申し訳なかったと思っています。
でも逆に、当時の騒動に疑問を持っていた立場だったからこそ、今ではその正しさを自信を持って言える、とも思っています。
でも今回の一件で、あの運動で映画字幕に関する問題提起がなされ、映画字幕全体の向上につながって行くはず・・・と思っていたのはかなり希望的観測だったんだなあと、がっかりもしてしまいましたね・・・

字幕問題のおかげで映画に疎い私が知った衝撃の事実は、映画の字幕はたった1週間で作られている、ということでした。
・・・そんな短い期間じゃ、あんなひどいものが出来上がるのも無理ないなと・・・
こんな翻訳、小説や演劇の世界ではあり得ないことです。
普通翻訳者は、その作品のことはもちろん、作者や周辺のこと、たとえば作者の出身国の社会状況など、そういったことを後書きで解説できるくらいには調べてから翻訳するものですよね。
それがなぜ映画だけこんな短期間で訳さなければならないのか・・・

このあたりの事情がわかったという意味で、この本を読んだことは有意義でした。
有意義だったんだけど・・・ちょっと背筋が寒くもなりましたね。
太田氏の場合、字幕を担当することになった作品について、できるだけ背景なども調べるよう努力するようです。そういう努力をしているのだということがわかったのは嬉しかったですね。
(しかしLotRの字幕も担当した売れっ子で大物のT.N氏が同じような真摯な努力をしてるかどうかには疑問がありますが・・・氏の字幕に批判が多いのはそういう点にあるのではないかと思っています)
嬉しかったのですが・・・何しろ期間が1週間ですから、本を2、3冊読んで、そこでおしまいになってしまうのだそうです・・・
調べるつもりがないのではなく、時間がないから仕方ないのだ、ということはよくわかりました。
それでも、その程度の知識しかない人が訳しているのか・・・と思うと、やはりゾッとしてしまうのです・・・
何年もかけて丁寧に作られて来た作品の、その最後の段階でそんな作品について理解がない人の翻訳がつくのは・・・やはり悲しすぎます・・・

翻訳期間が短いのは、配給会社の問題なんですね、ということもよくわかりました。配給会社の、字幕などに時間もお金もかけていられない、という態度が。
映画公開全体にかかる収支を考えると、やむを得ないことなのかもしれませんが・・・
そんな中、最良の方法は、LotRでの2作目以降やハリポタでも取られていたように、その作品に知識のある識者が下訳をし、それを字幕翻訳家が字幕にフィットするように直す、という方法なのでしょう。太田氏も、英語以外の言語を訳す場合の最良の方法としてこの方法を挙げてします。
しかし、この方法は字幕翻訳の方法としては最も時間とお金がかかるもので、なかなか実現できないのだそうです。

そんな条件の悪い中、日本では字幕翻訳に誇りを持って、できるだけ質の高い日本語の字幕にしようと努力してきた人たちがいるのだ、というのはすごいことだと思います。
他の国の字幕と比べて日本の字幕は格段にレベルが高いのだとか。これもわかるような気がします。中国の字幕とかすごいらしいですからね・・・(汗)
以前、機内映画で、LotR3部作の、劇場版とは違う、機内上映用の字幕がついたものを見たのですが、いや~ものすごい代物でしたよ(汗)あんまりすごいので字幕から目が離せなかったです(笑)
外国の字幕ってこんな感じなのかもな・・・と思ったりしました。それを思うと、プロフェッショナルな字幕翻訳家がたくさんいる日本は良かったな、と思います。

思うんですが・・・
字幕の問題は、配給会社のスタンスの問題だけではないな、とも、この本を読んで思ったのでした。
字幕翻訳家の方々は、短期間でできるだけ質の高い字幕を作っている、ということにむしろ誇りを持っているように感じました。少なくとも太田氏はそのようでした。
映画の翻訳が、できるだけ時間をかけていいものになるべきだ、とは思っていないようなのです。
最後の方に、再びLotRの名前が出てきている箇所があって、そこでの発言が氏の本音を出しているなあ、と思ったので再び引用してみます。

もうひとつの字幕批判に、「原作主義」がある。
『ロード・オブ・ザ・リング』のように、もともと熱烈な原作小説ファンがいて、それが映画化された場合、そのファンを納得させる字幕を作るのは至難の業だ。これまでしつこいほど書いて来たように、字幕は単なる「映画理解のための補助輪」にすぎない。ストーリーを全く知らない人が一度だけその映画を見たとき、それなりに楽しめるように配慮してある。原作を熟知したファンの細かな用語的こだわりには、はっきりいってつきあっていられないのだ。映画館に行けばいやでも字幕が目に入るので「意訳」にムカつくのはわかるが、物語の細部まで理解しているのなら字幕など読む必要はないではないか。スクリーンの隅っこにあるうっとうしいキズだと思って無視していただけないものか。だめ?


これを読んで即座に「だめに決まってんじゃん!」と叫んでしまった私・・・
LotR字幕騒動は、そもそも用語的なこだわりとかそういうのではなく、もっと根本的なことを問題としていたので、「字幕改善連絡室」の方たちも、原作ファンが抗議していたのではないのだ、と主張されています。
が、私は敢えて原作ファンの立場としてこの意見に物申したいです。
映画を見る人の大多数は原作を知らない人かもしれないけれど、結局DVDまで買って何度も映画館に通い、たくさん字幕を見ることになるのは原作ファンです。
原作ファンじゃなくてその映画が好きになる人もいると思いますが、そういう人は結局は原作を読むことになり、やがて原作ファンと同じような感想を持つことになります。
まあ、その映画が原作ファンにとって良いものであった場合ですが・・・。そういう場合こそ、せっかく映画の出来がいいのに、最後に字幕でコケられるのは許せないのです。LotR1作目はまさにそういう状況だったのです。
「物語の細部まで理解しているのなら字幕など読む必要はないではないか」と言う言葉にもカチンと来ましたね。
英語わかる人はいいですよ。でも、英語を聞き取れない人にとって、字幕は物語の一部、映画の一部なんです。
原作と一言一句違わない台詞だったら、確かに字幕は無視できます。でも、たいてい原作とは少しずつ違っているでしょう。そうしたら、やはり字幕を読むしかないんです。
そして、珍妙な字幕は、例え画面の片隅にあったとしても、思わず目を奪われてしまって集中を削ぐのですよ・・・
LotR1作目のボロミアの最期のシーンの「我ら人間」の字幕を初めて見た時、「えええ~」と思わず涙がひっこみましたもんね・・・あれは忘れられませんよ・・・

とまあそんな訳で、この本を読んだことで、映画字幕の問題点が色々とわかって、有意義だったなと・・・
そして、そんな状況を思うと、やはりLotRでの字幕改善運動は、映画字幕全体の改善に向けて、意味のあるものだった、と思います。
たとえ、その結果が字幕業界ではねじ巻けれられて伝わっていたとしても・・・

この本については、本当はもっと感想というか言いたいこともあるのですが、字幕のことだけでお腹一杯になるくらい感想書いてしまったので、もういいや(笑)
コメント (2)
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