ぐらのにっき

主に趣味のことを好き勝手に書き綴っています。「指輪物語」とトールキンの著作に関してはネタバレの配慮を一切していません。

J.R.R.トールキンのファンタジー世界

2019年11月04日 | 指輪物語&トールキン

2019.11.5追記あり
NHKカルチャー横浜の伊藤盡先生の特別講座に行ってきました。
実はエルフ語講座とか行ったことがなく、伊藤先生の講義は初めてでした。昨年の立教大学のジーメク教授の講義も面白かったですが、やはり日本語で聴けるのはありがたいですね…

最初のテーマは「地面の下に住んでいました…」
トールキンが採点していたテスト用紙に突然思いついて書いた「地面の下の穴の中に一人のホビットが住んでいました」という一節。
トールキンは手紙でも、「なぜあんなことを書いたのはわからない」と書いているそうですが、なぜ「地面の下に住んでいました」という文章が出てきたのか、というお話でした。
Hooker氏(この方ですかね)が、「ホビットが出版される以前なら、人々は『地面の下の穴に住んでいる』と言えば、新石器時代人を思い浮かべただろう」と言っているのだそうです。
19世紀終わりごろから一種の考古学ブーム?があり、新石器時代人が地中に穴を掘って住んでいたというような説もあったとか。トールキンもそのような話に興味があり、それが頭の中にあって、「地面の下の穴の中に住んでいた」というような言葉が出てきたのでは、というお話でした。
また、1932年のファーザー・クリスマスの手紙には洞窟の壁画が出てきますが(この年の手紙の絵、大作なんですよね)、これも19世紀から発見されてきた洞窟の壁画の影響を受けているのでは、と。
ちなみに壁画に出てくるマンモスが「オリファントみたいじゃないですか?」と話されてましたが、とすると映画のオリファントがマンモスの骨格に近いのは結構当たっていたのかな。アラン・リーはじめアフリカゾウぼい絵が多いですが…

Hooker氏は「森のウォーゼ(Wood Wose)」(ドルアダン)についても、「woodhouse(ウッドワーズ?)」という言葉から発想されているのでは、と書いているそうです。14世紀の文献に、ローマ神話のポーンのような半獣半人の生き物としての記述があるそうです。
トールキンは言語について調べているうちに色々と思いついたけれど証明できない=論文で発表できないようなことを創作物に書く傾向がある、と伊藤先生談。なんかとても親近感が湧きます(笑)やはり豊かな想像力がないとああいう物語は書けないですよね。
wood wose(森のウォーゼ)についても、イングランドにケルト人がやって来る前にそのような生き物がいたのでは、という証明できない事実を込めたものなのでは?ということでした。

次に映画「トールキン」でトールキンの部屋に貼ってあったルーン文字は何か?というお話。
公開後に早速ネット上でも話題になっていたようですが(私はついて行けないので読んでいません(^^;)、伊藤先生も配給会社から画像をもらって解読したそうです。
あのルーン文字で書かれている言葉はフリジア方言?で、内容は古英語?で書かれた格言詩が元で(この辺聞き違いかもです…)、努力をしないで無為に過ごしていると成功には間に合わない、というような意味だそうです。(伊藤先生の訳をさらに大胆に意訳しましたた…)
勉強部屋に貼るにはふさわしい内容だけれど、果たしてトールキンは実際にそういうものを貼っていただろうか?と(^^;)
2019.11.4追記この格言詩、フリジア方言(アングロ・フリジア語)で書かれたのが元のようです。古英語が出てきたのは、多分先生が解読するにあたって古英語に訳した方が意味がわかるから、だったのかと。
この詩についての詳細は公開当時に書かれたこちらの一連のツイートにあります。(丸面チカさんに情報提供いただきました)
2019.11.5追記前記のツイートは予告編がネットで公開された時点のものだそうです。仕事が早い…!

それから、「ホビット」での呼びかけ方について。
英語には二人称の尊称と親称の違いがないけれど、指輪物語追補編では、中つ国の言葉には尊称と親称があると記述があります。その中でホビットの言葉では親称と尊称が逆になってしまっているという記述が出て来ます。
英語のyouは、元は複数形で、単数の尊称にも使われていましたが、それが親称に使われるようになり、やがて尊称と親称の違いがなくなってしまったそうです。
追補編での記述は、今の英語に尊称・親称がないのは、ホビットの習慣を受け継いでいるから、という設定にしたかったからなのではないかとのこと。
英語にもかつてはthou,thy,theeという尊称があったけれど、だんだん砕けた言い方になり、現在でも方言で親称として使われている地方があるそうです。指輪物語でもテド・サンディマンがサムにtheeで呼びかけているけれど、これは明らかに砕けた言い方だそうです。

ちなみにホビットでビルボを運んだ鷲がビルボに話しかけるとき、チェコ語訳では尊称を使っているそうです。これはこの鷲がグワイヒアの命令でお客様を運んでいるからだと。
一方で、ビルボのことをウサギに似ているなど、ちょっと馬鹿にしたような言い方ともとれるので、砕けた親称の可能性もある、と。日本語訳は瀬田訳、山本訳ともに砕けた呼び方&話し方です。
ちなみにラテンアメリカスペイン語版を持っているので後で確認しましたが、親称になっていましたよ。(スペイン語版はほとんど親称なんですけど…)ドイツ語やフランス語はどうなっているのでしょうね。
また、スマウグがビルボに話しかける話し方は軍隊の上官の話し方なんだそうです。ビルボに対して「May I ask」などと丁寧に言っているけれど、あれは軍隊の上官っぽい話し方なんだそうです。確かにちょっと嫌味っぽい丁寧さですよね…

最後に「モールドンの戦い」について。
映画「トールキン」でトールキンがライト教授の前で古英語を朗読していると、第一次世界大戦が始まったという知らせが届き騒然とする、という場面がありますが(2回しか見ていないので記憶があやふやですがこんな感じだったでしょうか?)、ここで朗読してるのが、モールドンの戦いでイングランド軍の指導者が、負け戦に向かう兵士たちを奮い立たせるためにしたという有名な演説?なんだそうです。ちなみにこの戦いでイングランドは大敗を喫したそうですが。
戦争が始まる場面でそんな詩を使っていたなんて、鳥肌が立ちますね。でも誰が気が付いただろうという…伊藤先生も試写のあと配給会社の人に「これ解説ないと分かりませんよね!?」と言われたそうで。(解説は作ったそうですが、パンフレットには入れられなかったそうです)

最初にスライド上映の機材トラブルがあったのもあり、予定されていたエルフ語のお話は残念ながらカットになりました。
最後にカルチャーセンターの方が、「時間も足りなかったようですし、また先生をお呼びしたいと思います!」と言っていたので、きっとまたこのような機会があるのでは。盛況でしたしね。次回が(あれば)楽しみです。

コメント (1)
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