2015年8月17日(月) 川内原発 再稼働
この15日は、戦後70年となる節目の終戦記念日で、正午には、全国戦没者追悼式が、武道館で行われ、夕方には、総理大臣談話が発表された。
そして、NHKのライブ、深夜0時からの2時間番組、「解説スタジアム 戦後70年 日本の進路を考える」が放映され、ついつい、最後まで観て仕舞った。
このところ、戦争と戦後に絡む話題が多いのだが、これらの関係については、改めて取り上げることとしたい。
本稿では、川内原発の再稼働について、取り急ぎ話題としたい。
先日の8月11日午前10時30分、鹿児島県にある、九州電力 川内原発1号機で、原子炉内で、核分裂の反応を押さえている制御棒を、徐々に引き抜く操作により、原子炉が起動され、いよいよ、再稼働に向けた作業が開始されたようだ。
作業は、ほぼ、予定通り順調に進んだようで、11日深夜に、核分裂反応が連続する、「臨界」状態になったようだ。
この臨界状態を維持しながら、制御棒の性能の検査や、発電用タービンのチェック等を行い、Ⅰ4日から、原子炉の熱で発生させた蒸気でタービンを回す発電を開始している。 状況を注視しながら、徐々に発電出力を高め、9月上旬に営業運転に入る計画という。
この1号機の炉の形式は、加圧水型軽水炉(PWR)で、定格出力は89万kWである。
この原発は、大震災後の、平成23年5月以降、4年以上もの期間、停止していることから、異常が無い事を確認しながら、慎重に進めているようだ。
同じ構成の2号機については、引き続いて、10月上旬に再稼働させる計画という。
現在、国内で、新規制基準に基づく既設原発の再稼働に向けた適合審査に合格しているのは5基である。この中で、川内原発1、2号機の他では、差し止め仮処分中の高浜原発3、4号機は見通しが立たないことから、伊方原発1号機の再稼働が、次の焦点となろうか。
川内原発1、2号機は、原発に関する新規制基準に適合した最初の事案として、注目を集めてきた。
当ブログでも、何度も取り上げて来たので、詳細は省略するが、直近の記事は、
原発再稼働の司法判断 (2015/5/13)
である。
今回の再稼働に関しては、国内では、色んな反響があり、2、3触れることとしたい。
○世論調査
大震災以降、原発の再稼働については、国論は割れているのだが、再稼働目前の2件の世論調査では、以下のようになっており、反対が大勢を占めている。
① 実施主体 毎日新聞社 8/7~8実施
方法 全国電話番号の無作為抽出(RDS法)
サンプル数 1017
結果 再稼働 反対 57%
賛成 30%
② 実施主体 NHK
方法 8月実施 調査方法は記載されていないが、これまでと同様と推定。
結果 下図
(NHK NEWS WEB 川内原発再稼働 “原発ゼロ終わる”)
国論は、「反対」が多数を占める中で、事業者や政府は、再稼働を決めた訳だ。
若し筆者が質問されたら、「賛成」と答えるところだがーー。
○安全性
世論調査での反対の最も大きな理由は、安全性であろう。
再稼働に当たって、色んな不安材料があるが、主なものは以下だろうか。
*避難計画が不十分
川内原発の周囲30km圏内が、避難計画作成の対象だが、詳細は把握してはいないが、何とか具体化しているのは10km圏内で、それ以遠については、問題が多いようだ。老人施設や弱者への支援計画が不十分で、避難路の確保等も問題という。
福島の事故では、周辺住民を、安全な地域へ的確に避難させる方策で、混乱したことは大きな反省点だが、でも、事前に、万が一の時を想定して、机上で避難計画をつくり準備し、更には、訓練も行うと言うのは、実行は難しい事だ。
我が国の新規制基準では、IAEAの防護計画の第5層になる「避難計画」は、審査対象範囲には含まれていない。台風や火山の噴火災害時等の、地域防災計画と同様に、原発事故でも対処することとなっている、ということだ。このことが、避難計画への取り組みが不十分となる理由の一つだろうか。
これらについては、当ブログの下記記事で触れている。
川内原発の適合審査合格 (2014/9/14)
再稼働の判断そのものが、事業者任せで、国の責任が不明確という批判もある。
*重要な施設が未完成
福島での事故後、関係者が終結する中心的な施設として機能した、免震重要棟だが、川内原発では、H27年度中に完成するとされ、それまでは、仮の緊急時対策所で対応することとなっている。
緊急時に、原子炉の圧力を下げて爆発を防ぐベント設備の整備は、再稼働の重要事項だが、原子炉の形式により、BWRの場合は必須だが、PWRの場合は、時間的な遅れが認められているようで、PWR形式の川内原発では、稼働後、H28年度中に整備されるようだ。PRWの方が、炉の容量が大きいので余裕があるという。
電力会社により、採用している炉の形式が異なり、
PRW:関西、九州、四国、北海道 の各電力会社、
BWR:東京、東北、中部、北陸、中国 の各電力会社、
となっている。 事故を引き起こした、福島第一原発は、後者に含まれていることもあり、これまで、再稼働の適合審査に合格しているのは、全て、前者の、PRW形式炉である。 各社の再稼働計画に差が出て来て、今後の電力の自由化などで問題が出る可能性もある。
*原発への一般的な不安
福島第一原発事故の記憶から、あのような深刻な事態が、原発の再稼働によって、再び起こるのでは、と恐れ、不安になるのは、当然でもある。
でも、抜本的に見直された、新規制基準では、
・当該地域で起こり得る災害リスクを、科学的、客観的に想定している。
・その災害リスクに対して、ハード、ソフト両面での、多重化された多様な対策が取られている。
・このことから、福島第一原発事故で起こった様な、重大事故となる可能性は極めて低い。
と筆者は考えている。
仮定の上での事だが、現時点で、福島第一原発と同規模の原発を、同地に立地するとした場合、新規制基準に基づいて、災害リスクを想定し、対策を行えば、福島第一原発事故は起こらない、と考えるのだ。 これは、あくまで、筆者の理解できる範囲内でのことだがーー。
福島第一原発事故は、汚染水問題などはまだ収束しておらず、中間貯蔵施設の建設も見通せず、廃炉作業も殆ど進んでいないのも事実だ。更には、最終処分場の建設に至っては、大震災以前から、宙に浮いたままである。
世論調査での、多くの反対意見も、この辺に根ざしていると言えようか。
○必要性
再稼働に関し反対する他の理由は、必要性であろうか。 原発事故で原発が稼働しなくても、原発無しでやって来れたではないか、今、急いでやる必要は無い、と言うものだ。
確かに、事故後暫くは、計画停電も行われ、電力会社相互間で融通し合うなどして、凌いで来たが、各レベルでの省エネ活動や、LEDの普及によって、可なりの節電が出来たのは事実で、一時的なものでない省エネ効果で、電力需要は、震災前の△15%とも言われる。
でも、省エネだけで凌いで来れた訳では無く、電力会社では、原発の停止により、火力発電への依存度が高まり、LNG、原油等の資源の輸入コストのアップで、経営が苦境に立っているのも事実のようで、東京電力では、送電網の保守コストを削減していると言う。 このあたりの実情がどうなのかは、外部からは良く分らないところだがーー。 原発一基の稼働によって、年間、900億円もの収支改善になるとも言う。
安価な電力を、安定的に供給することが、産業や社会生活や、国民生活の基本であることは言う迄もなく、国際競争力のアップや、国内への産業立地の面でも重要だ。
電力の安定供給と、エネルギー安全保障の確立が、基本であろうか。
( 川内原発再稼働|三橋貴明オフィシャルブログ「新世紀のビッグブラザーへ blog」Powered by Ameba)
地球環境保護のため、日本として、温室効果ガスの削減目標を実現するためには、再生可能エネルギーだけでなく、当面は、原発を活用し、火力発電を減らすことが必要となるようで、以下の記事で触れている。
将来のエネルギーと地球環境 (2015/5/19)